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才能に愛されし者  作者: きんめ
第三章 人の美しさ、人の醜さ
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迷宮の調査依頼

 ミラの冒険者ランクをBランクに変更しました。

 冒険者ギルドのギルド長と対面したミラ達は、森に巣食っていたゴブリン達の情報をギルドに提供していた。



「なるほど……ゴブリンはひっきりなしに襲い掛かってきたのか」


「ええ。ミラは休むことなく矢を射続けていたわ」



 尤も、ベリアとやり取りをしているのはイザベラなのだが。

 因みにミラは口を開けたまま室内を見回している。

 


「あんな(たい)してデカくねぇ森の中に百を超えるゴブリンがいるなんてことは……()()なら有り得ねぇ」


「そうね。普通なら……ね」



 ベリアとイザベラの視線が交差する。

 決して長くはない沈黙の後、二人の声が重なった。



「「迷宮」」



 全く情報がない中でも、二人は確信しているようであった。


 迷宮。

 それは人類の知識を以てしても未だに解明することのできない、未知の領域。

 迷宮と言っても様々な種類の迷宮があるが、今回森の中で()()したと思われる迷宮は、ゴブリン系統の魔物が生息していると思われる。



「迷宮……なにそれ?」



 イザベラの隣に座っているミラが、イザベラの顔を見上げながら質問する。

 脅威のない森の中で生きてきたミラには、迷宮という存在は馴染みのないものであった。



「ミラさん、迷宮っていうのは――」



 ギルド長の横に控えていた受付嬢のカーラが本棚から一冊の本を取り出し、ミラに迷宮のことを説明し始める。

 本に書いてあることは冒険者なら誰でも知っているようなことなのだが、今朝の出来事を後ろめたく思っているカーラは、ミラに丁寧に迷宮についての情報を説明していく。



「――というものなんです」


「へぇ~。迷宮って不明な点が多いのね」



 何故、迷宮内に地上と同じように太陽があるのか。

 何故、迷宮内に地上と同じような空があるのか。

 何故、迷宮内に地上と同じような世界が広がっているのか。


 ()()の原因は未だに解明されていない。



「取り敢えず、情報提供は感謝する。問題は誰に迷宮の調査を依頼するかだが……」



 そう言いながらも、ベリアの目はしっかりとイザベラを捉えていた。

 本当は自分で迷宮の調査に行きたいベリアなのだが、大量の書類の処理が終わっていない為、自分で迷宮の調査に行くことができない。


 だがベリアの目の前には、自分よりも強いイザベラがいる。

 新たな迷宮の危険度が判明していない今、少しでも強い者に迷宮の調査を頼みたいという考えは至極当然のものであった。



「あんた、頼めるか? 報酬は言い値でいい」


「生憎、お金には困ってないのよ」



 明後日の方向を向いて毛先を触りながら、答えをはぐらかすイザベラ。

 ベリアはそんなイザベラの態度から、言外に他のものを要求していることを悟った。



「……何が望みだ?」



 ベリアの言葉を聞いたイザベラは毛先を触るのを止め、ベリアの方に向き直った。

 まるで、今の言葉を待っていたと言わんばかりに。



「迷宮の調査中は、私達以外の人間をあの森に向かわせないこと」


「まぁそれぐらいなら……待て、()()?」


「そう、ミラもよ」


「ミラ……? そこの嬢ちゃんか?」


「そうよ」



 ベリアはミラをチラリと見る。

 そこにいるのは、カーラが用意した茶菓子を一心不乱に食べている幼い少女だ。



「正直、そこの嬢ちゃんに迷宮は早い気がするんだが……」


「大丈夫よ。少なくともCランク冒険者と同じくらいの実力はあるから」


「Cランク!? この嬢ちゃんが……?」



 ベリアは疑いの目でミラのことを見ているのだが、ミラはベリアの視線には気付かず今も茶菓子を頬張っている。

 そんなミラの様子に毒気を抜かれたのか、ベリアは大きな溜め息を吐いた。



「あー、分かったよ。あの森には近づかないように告知をしておく」


「助かるわ。じゃあ、迷宮の調査は明日からってことで」


「ああ。頼む」



 その言葉を最後に、ベリアは山積みになっている書類を処理していく。

 イザベラも立ち上がり、ミラと一緒に部屋から出ていこうとしたのだが―――



「…………」



 ―――茶菓子を頬張っているミラは言葉を発さず、無言で口を動かし続ける。

 両手にも異なる茶菓子を持っていて、この部屋からはまだ出ていかないという意思をイザベラに伝えていた。



「ふふっ」



 モグモグ、モグモグと絶え間なく口を動かし続けているミラ。

 食い意地を張っているミラを見て、イザベラは思わず笑みを浮かべた。


 

 


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