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才能に愛されし者  作者: きんめ
第三章 人の美しさ、人の醜さ
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旅は道連れ

 湯浴みを済ませたミラは朝食をとっていた。

 向かいには浴槽でミラに絡んでいた女性も座っており、同様に朝食をとっている。



「私の名前はイザベラ。さっき見せた通り、魔人よ」



 魔人族の女性――イザベラが自己紹介をするが、ミラはイザベラを無視して黙々と朝食を食べていた。

 ミラは食事の時に無言になるという癖があり、故郷の森に居た時も食事中は終始無言だったのだが、イザベラがそのようなことを知っているわけもなく、まだ機嫌が直っていないのかと勘違いをする。

 因みに、イザベラは擬装という光魔法を発動させている為、今の姿は美しい人間の女性だ。



「さっきのことは申し訳なかったわ。だから機嫌を直してくれないかしら……」


「…………」



 視線はイザベラを捉えているのだが、ミラが言葉を発することはない。

 野菜のサラダを食べ、卵を溶いたスープを飲み干し、焼き立てのパンを完食したミラは(ようや)く言葉を発した。



「ミラ。旅をしてる」



 短い自己紹介をし、残っていたミルクを飲み干すミラ。

 ミラはイザベラのことを警戒していた。

 

 魔人という存在はエルフ同様に非常に珍しい種族である。

 だが魔人という種族は非常に好戦的で、エルフという種族とは全く違う性質を持っているのだ。

 エルフが非常に閉鎖的で、非常に保守的な種族なのに対して、魔人は非常に凶暴的で、非常に好戦的な種族。


 ミラも数十年前に亡くなった祖母から聞いたことがあった。

 

『魔人が現れたら身を隠せ。()もないと喰われるぞ』と。


 その凶暴性故に、こんな言葉があるくらい魔人という種族は警戒されているのだ。



「……もしかして、有名なあの言葉を知ってるの? 『魔人が現れたら身を隠せ、然もないと喰われるぞ』ってやつ」


「っ…………」


「やっぱり……」



 イザベラの言葉を聞いたミラが一瞬だが動揺する。

 その様子を見たイザベラは、何かに納得したように頷いた。



「確かに、ミラみたいな小さな子がこんな言葉を聞いたら怯えるもの仕方ないわね。でも安心して。私は純粋な魔人ってわけじゃないから」


「………純粋な魔人じゃない?」


「正確には半魔人。半分魔人で、半分人間っていった感じね。それに、純粋な魔人もそこまで凶暴じゃないわよ。まぁ、好戦的だって部分は認めるけど」



 イザベラの話を聞いたミラは若干警戒のレベルを下げる。

 イザベラもそんなミラの変化に気付いたのか、軽く息を吐き出す。



「でも私が魔人だってことは口外しないで頂戴ね?」


「……どうして?」


「ミラと同じ理由よ。だからミラも()()()()()を発動させているんでしょ?」


「…………?」



 イザベラが擬装の魔法を発動させている理由は、正体がバレると間違いなく大きな騒ぎに巻き込まれるからだ。

 魔人という種族はそれだけ恐れられている種族なのである。

 

 

「……魔法使ってないけど」


「えっ? でも、今のミラは……」



 正体がバレると大きな騒ぎに巻き込まれるといった点は、エルフのミラも同様だ。

 だからイザベラはミラが擬装の魔法を発動させていると思っていた。

 今のイザベラの目には、ミラの姿が人間の子供に見えるから――。


 

「……あぁ、なるほど。その()ね」



 イザベラは向かいに座っているミラに聞こえないくらいの声量で呟いた。

 イザベラが目を凝らしてミラの姿を見ると、ミラが着ている服に微量だが魔力の残滓があったのだ。

 これはミラの着ている服が()()()(たぐい)だということである。


 勿論ミラはそのことに気付いていない。

 というか、気付けない。


 ミラが着ている服に擬装の魔法を付与したのは森の賢者と呼ばれている存在であり、並みの存在では魔力の残滓にさえ気付かないだろう。

 だがその魔力の残滓を見逃さない辺り、イザベラという人物がかなりの実力を持っていることを窺わせた。



「……どうかした?」


「何でもないわ」


 

 ミラの問いにしれっと答えるイザベラ。

 イザベラは、ミラはまだ服の秘密を知らない方がいいと思っていた。

 もし何かあった時、ミラが服の秘密を知っていたら不利になることがあるかもしれないからだ。

 それに少なくとも、()()()()()()()()()ミラの正体がバレることもない。



「ミラ、今日の予定は何かある?」


「今日? 特に無いけど……」


「じゃあ、冒険者ギルドに行きましょ。冒険者ギルドで冒険者登録をしておけば色んな便宜を図ってもらえるし、損はないから」



 今日一日の予定を特に考えていなかったミラは、渋々ながらもイザベラの提案を承諾する。


 喋ることに夢中で朝食を半分ほど残していたイザベラが食べ終わるのを待ってから、二人は冒険者ギルドへ向かった。




 ◆◇◆




 安らぎの揺り籠を出て暫くすると、その建物が視界に映る。

 周囲の建物と比べても頭一つ抜けた大きさで、そこが冒険者ギルドだということはミラでもすぐに理解できた。


 

「ここが冒険者ギルド……」



 冒険者ギルドの入り口で立ち止まったミラが呟く。

 冒険者ギルドの中は何処か酒場のような雰囲気を醸し出しており、依頼書の張り出された巨大なボードの前には大勢の冒険者が依頼を吟味している。



「ちょっと! 突っ立ってないで行くわよ」



 イザベラに手を引っ張られ、ミラは冒険者ギルドへと足を踏み入れた。





 冒険者ギルド――通称、何でも屋。

 冒険者ギルドは民間人から王族まで、誰からの依頼でも請け負う――勿論犯罪者などは除く――集団である。


 冒険者ギルドにはランクというものがあり、そのランクによって受けられる依頼の幅が広がる。

 例えば、最底辺のGランクの冒険者は民間人からの依頼である街の清掃、薬草の採取などの雑務のようなクエストしか受けられないが、一つ上のFランクの冒険者は商人達の依頼であるゴブリンの討伐、ホーンラビットの討伐などの討伐系の依頼も受けられるようになるのだ。


 このランクがE→D→C→B→A→Sと上がっていくほどに受けられる依頼の幅は広がっていき、依頼を達成した際に支払われる報酬の桁も跳ね上がっていく。

 その為に冒険者達は自身のランクを上げようと、日々躍起になって依頼をこなしている。

 

 クライアントからの依頼を冒険者ギルドが仲介し、冒険者達がその依頼を受け、達成するというシステムが出来上がっている。

 これらの一連の流れにより、冒険者ギルドは万人からの依頼を仲介する「何でも屋」と呼ばれているのだ。

 

 


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