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才能に愛されし者  作者: きんめ
第三章 人の美しさ、人の醜さ
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門番との交流

 ミラが駆け出してから一時間が経った。

 だが、あれからミラが進んだ距離は百メートルにも満たない。

 その理由は―――



「わぁ~っ! この薬草も初めて見る!」



 ―――これである。

 外の世界にあるモノはミラにとっては未知のモノであり、ミラは未知のモノを発見する度に足を止めるのだ。

 この行動により、ミラは一時間前にいた場所からあまり進んでいなかった。



「陽射しが強いわね……」



 ふと空を見上げ、ミラは呟く。

 ミラはずっと森の中で生活してきた為、長時間日射しを受けることがなかった。

 その為ミラの肌は非常に弱く敏感だ。

 現にミラの純白の肌は赤みを帯びてきており、日焼けの兆候が出てきている。

 


「何かないかな……」



 森の賢者から受け取った摩訶不思議な袋の中を漁るミラ。

 袋の中には何があるか分からない為、慎重に物を探すミラだったが、何かを見つけたようでその動きを止めた。



(これは……)



 ソレをしっかり掴み、ミラは勢いよく袋の中から物を取り出した。

 ミラが引っ張り出した物――薄い緑色のローブはかなり大きなものだったが、瞬時に小さくなった。

 見た感じ、ローブの大きさはミラにピッタリだと思われる。


 恐る恐るといった感じでミラはローブを羽織る。

 ローブの大きさはミラに丁度良いサイズだったらしく、ミラは嬉しそうに頬を緩ませた。

 

 ローブに付いているフードを深く被ったミラは、村があるという方角に向かって再び歩き始める。




 ◆◇◆




(ここが村……?)



 鳥から教えられた村と思われる場所に到着したミラは、その入り口で立ち尽くしていた。

 村と思わしき場所の入り口には立派な門があり、その前には鎧に身を包んだ男性が二人立っている。

 

 鳥はミラにこの場所を村だと教えたのだが、実際は街と呼ばれている場所であり、村というには規模が大きすぎた。

 だが森から出てきたばかりのミラがそんなことを知っているわけもない。


 暫くの間、門の大きさに意識を呑まれていたミラだが、意を決して街に向かって歩き出す。



「――おっと。そこの嬢ちゃん、フードを脱いでもらってもいいか?」



 片方の門番の男がミラに声をかける。

 声をかけられたミラだが、「嬢ちゃん」という言葉が自分を指している言葉だとは思わず、そのまま門に向かって歩いていく。



「ちょっと! 君だよ、君」


「えっ、あたし?」


「そうだよ……」



 門番の男がミラの前に立ちはだかった為、ミラはようやく自分が声をかけられていることに気付いた。

 


「なーに?」


「なーにじゃなくて……フードを脱いでくれって言ったんだ」


「どうして?」


「どうしてって、怪しい奴を街の中に入れるわけにはいかないだろう」


「怪しい? あたしが?」


「いや、別段怪しいってわけじゃねぇんだが……念の為にな」


「ふーん。日射しが強いから、少しだけね」



 そう言いながら、ミラがふぁさっとフードを脱ぐ。

 次の瞬間、門番はミラの顔を凝視したまま動かなくなってしまった。


 エルフという種族はその容姿故に違法手段で捉えられ、違法奴隷として裏ルートで取引される。

 ミラもその例に漏れず、常人とは遥かにかけ離れた容姿を持っていた。

 

 詰まる所、門番の男性は可憐すぎるミラの顔を見て放心してしまったのだ。



「ちょっと、もういい?」



 ミラは門番の男に声をかけるのだが、門番の男の耳にミラの声は届いていないようだ。

 見かねたもう門番の同僚が、持っている鉄の棒で男の頭を叩く。



「痛っ! 何すんだ!」


「何すんだじゃねぇよ。嬢ちゃんが訊いてんだろうが」


「ちょっと、嬢ちゃんって誰のことよ。あたしは立派なレディーよ」



 門番の同僚の言葉にミラが嚙みつくが、ミラの身長は百二十センチ程である。

 子供と間違われて嬢ちゃんと呼ばれても仕方がないだろう。


 

「それで、もういいの?」



 再度、ミラが門番の男に訊く。

 門番の男はミラの顔を凝視したまま忠告した。



「いいか、嬢ちゃん。街の中では極力フードを脱がないようにするんだ。もし嬢ちゃんがフードを脱げば騒ぎになるし、何かの事件に巻き込まれるかもしれねぇ」


「……? 分かったわ」



 いまいち門番の男の言葉の意図を理解していないミラだが、取り敢えず頷く。

 ミラが頷いたのを見て、門番の男がにこやかな笑みを浮かべた。



「まっ、何か困ったことがあったら俺を頼ってくれ」



 下心が丸見えの発言であったが、純真無垢なミラはそんな門番の男の下心には気付かず応える。

 門番の同僚は男のことを冷めた目で見ているのだが、男がその視線に気付いていないようだ。



「よしっ! “シュララマ”は嬢ちゃんのことを歓迎するぜ!」



 若干興奮気味の男を無視して、ミラは街へと足を踏み入れた。

 



 

 

 

 ミラが門を通過した後。


「おい、お前どうしちまったんだ?」


「俺は禁断の扉を開けちまったかもしれねぇ……」


 門番の男は未知の世界の扉を開けてしまったようだ。

 そう、幼女趣味という扉を……。


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