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才能に愛されし者  作者: きんめ
第三章 人の美しさ、人の醜さ
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未知の世界

 穏やかな風が吹き抜ける平原のど真ん中に、一人のエルフの幼女が佇んでいる。

 エルフの幼女――ミラは、初めての“外の世界”に感動していた。



(これが……外の世界……)



 夢にまで見た、外の世界。

 ミラはその場でくるりと回り、三百六十度、すべての景色を脳裏に焼き付ける。


 何の変哲もない、ただの平原。

 だがそんな平原が、ミラの目には異様なほど輝いて見えた。


 感動に打ち震えながら、ミラは一歩を踏み出す。

 


(これが……外の大地……)



 一歩を踏み出したミラは、更に二歩、三歩と大地を踏みしめる。

 故郷の森とは違う、大地の感触。



(これが……外の風……)



 心地良い風が平原を吹き抜ける。

 故郷の森とは違う、風の感触。


 それらを感じる度に、ミラの口角が上がっていく。

 


「これが外の世界……」



 ポツリと口から漏れた言葉。

 その言葉には、外の世界に馳せた思いが凝縮されていた。


 暫し佇んでいたミラだが、突然、仰向けに倒れた。

 仰向けに倒れたまま、ミラは空を仰ぎ見る。



(青い空に、白い雲……)



 空を仰ぎ見ていたミラの瞳に涙が溜まっていく。

 幾年、幾十年この瞬間を夢見ていたことだろう。

 これほど広い空を見上げられる日を……。


 ミラは零れ落ちそうになった涙を拭い、勢いよく立ち上がる。



「もっと世界を見てみたい……!」



 拳をぎゅっと握り、決意を新たにするミラ。

 その(まなこ)には、何人にも阻めぬであろう強力な思いが宿っていた。




 ◆◇◆




 何の考えもなしに歩き出したミラだが、ふと“使命”という言葉が脳裏に過った。



「この“白い珠”と“黒い珠”を持って旅をしろ、って言ってたっけ」



 ミラの両手には、“森の賢者”から渡された白い珠と黒い珠が握られている。

 二色の珠を森の賢者から貰った“摩訶不思議な袋”に入れようとしたミラだが――。



「入らない?」



 どういうわけか、二色の珠は袋の中に入らなかった。

 無理に押し込もうとしても、押し戻されるという不思議な現象が起こっている。


 二色の珠をどこに仕舞おうか悩むミラだが、中々名案が浮かばない。

 


「賢者様の主様なんだよね……」



 そう言いながら、ミラは二色の珠を青い空に翳した。

 すると、次の瞬間―――



「えっ……?」



 ―――二色の珠が浮いた。

 ミラの手から離れた二色の珠は、ミラの周囲を踊るように回る。

 


「えーと……?」



 困惑するミラ。

 だが次の瞬間、ミラは更に困惑することになる。


 ミラの周囲を踊るように回っていた二色の珠だったが、不意に白い珠がミラの胸に溶け込んでいったのだ。



「えっ!? ちょっと待って……」



 自分の薄っぺらい胸を何度も触るミラだが、白い珠の感触はどこにもない。

 そうこうしている内に、黒い珠もミラの胸に溶け込んでいった。



「もぉ~、どういうことなの~!!」



 頭を抱えて困惑するミラの声が、広い平原に響き渡った。



 

 ◇◆◇




 再び歩き始めたミラだが、突然平原に放り出されてしまった為、現在地が分かっていなかった。

 それでもミラは、別段困っているわけでない。

 

 分からければ訊けばいい。

 ミラはそんなことを考えていた。



 ――ちゅんちゅん



「そうなんだ、あっちに村があるの?」



 ――ちゅん



「そっか。鳥さん、ありがとう」



 “分からなければ訊けばいい”の精神を発揮したミラは、偶々頭上を飛んでいた存在から近くに村があることを教えてもらっていた。

 ……そう、鳥から。


 この異種族との意思疎通という能力は、エルフという種族が持っている特性ではない。

 ミラという()()が持っている特性だ。


 余談だが、ミラが村で独りだった理由はこの特性の所為でもある。

 一人で様々な動物と意思疎通をしているミラは、集落の者達からしたら気味が悪かったに違いない。

 勿論、ミラはそんなことは露も知らないが。


 

 ミラに情報を提供した鳥は、ミラに礼を言われると飛んで行った。

 ミラは鳥を見送ると、教えてもらった村に向かって歩き出す。



(いったいどんな人が居るんだろう……)


 

 本でしか読んだことはないが、外の世界の人々は様々な容姿をしているらしい。

 本でしか読んだことはないが、外の世界の人々は様々な文化を築いているらしい。

 本でしか読んだことはないが、外の世界の人々は様々な言語を使えるらしい。



「もう待ちきれないっ!」



 未知の世界に胸が高鳴ったのか、ミラはいつの間にか駆け出していた。

 


 

 


 

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