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才能に愛されし者  作者: きんめ
第二章 魔法学院編
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竜の巣

 誤字報告、ありがとうございます。

 ウィンデール王国を出発したリーラとマリリエルは、最初に魔法国家ピランジェへと向かった。

 但しマリリエルの人工遺物は(アーティファクト)現在使用できないため、移動手段は馬車を利用している。

 


「使えない人工遺物(アーティファクト)ですね」


「仕方ないじゃない。この人工遺物(アーティファクト)、七日に一回しか使えないっていう()()があるんだから」



 とある町の宿屋で、リーラがマリリエルの指輪を見ながら呟いた。

 自分の“切り札”でもある人工遺物(アーティファクト)を貶されたマリリエルも反論する。

 冒険者時代、一応はパーティーを組んでいた二人だが、あまり仲は良くなかった。

 余談だが、冒険者時代はこの二人にショーンとフーリを加えた四人でパーティーを結成していた。



「その人工遺物(アーティファクト)、確か“晦冥(かいめい)の迷宮”で手に入れた物でしたか」


「えぇ。よく覚えていたわね」


「あの迷宮は印象的でしたから。何せ、光源がない迷宮でしたし……」


「フーリが光魔法を使えなければ、攻略できなかったでしょうね」



 二人の脳裏に、冒険者時代に攻略した晦冥の迷宮が浮かぶ。

 晦冥の迷宮とは、光源が一切ない迷宮のことである。

 魔物が闊歩する迷宮において、光源は非常に大切なものであった。


 本来、迷宮という場所は明るい。

 理由は定かになっていないが、それが本来の迷宮である。

 だが晦冥の迷宮には、光がなかった。

 光がないということは、視覚が利用できないということ。

 ()()()()()()であれば、攻略することはできなかっただろう。


 だが運が良かったのか、当時のパーティーには希少な光魔法が使えるフーリがいた。

 それにより、リーラ達は晦冥の迷宮を攻略することができたのだ。

 そして、その迷宮攻略の最中にマリリエルが発見した人工遺物(アーティファクト)こそ、時空間魔法が付与されている指輪である。



「ショーンとフーリが結婚してパーティーは解散になっちゃったけど……」


「ですが、その結婚の果てにルナ様が生まれたのです」


「……そうね…………」



 リーラは何かを懐かしむように目を閉じていたが、次の瞬間には目を開け、決意を新たにした。



「絶対に見つけましょう」




 ◆◇◆




「――着いたわ」


「此処ですか……」



 魔法国家ピランジェに到着し、馬車をマリリエルの屋敷に預けてきた二人は、事の震源地へとやってきていた。

 今もなお膨大な魔力の残滓が残っているこの場所への立ち入りは禁止されており、現在この場所にはリーラとマリリエルの二人しかいない。


 リーラは早速周囲の状況を探っており、マリリエルも何か見落としていないか確認していた。

 


「なるほど。確かに、この魔力の残滓は人間のものではありませんね」


「何度もそう言ってるじゃない……」


「私、自分で確認しない限りはどんな話も信じない性分でして」



 軽口を叩きながら、二人は周囲の状況を確認していく。

 ただ、ルナの行方の手掛かりになりそうなものは何一つとして発見できなかった。



「マリリエル、龍が飛び去って行った方角を覚えていますか?」


「方角……? そうかっ!」



 リーラからの質問に一瞬混乱したマリリエルだったが、すぐに質問の意図を理解した。

 そして、自分の視野が狭まっていたことにも気が付いた。


 マリリエルは最初、リーラが何故この場所へ向かうことにしたのか分からなかったのだ。

 


「――北よ。此処から北に向かえば……」


「恐らく、龍の目撃者がいるはずです」



 龍がどの方角へ飛んでいったのかが分かれば、捜索の幅が一気に狭まる。

 それはつまり、ルナ発見への活路が見いだせるとともに、捜索の時間が短縮されるということだ。


 なんだかんだ言って焦っていたマリリエルは、こんな簡単なことも考え付かなかったのである。



「北――ですか。分かりました。すぐに北へ向かいましょう」




 ◇◆◇




 早速北へ向かった二人だが、その成果は芳しくなかった。



「すみません。この前、龍がこの辺りの上空を飛んでいませんでしたか?」


「龍……? 見てないねぇ」


「そうですか。ありがとうございます」



「すみません。この前、龍がこの辺りの上空を飛んでいませんでしたか?」


「いいや、見てねえな」


「そうですか。ありがとうございます」



 とある村で聞き込みをしていたリーラだが、村人達の答えは揃って「見ていない」であった。

 

 

「雲の上を移動していた? もしそうであれば、途中で進路を変更されていたら厄介ですね……」



 顎に指を当ててブツブツ呟くリーラ。

 村のど真ん中で呟くその様は、どこか不気味なものがあった。



「リーラ、ちょっといいかしら?」


 

 村のど真ん中で思考に耽っていたリーラに声がかかった。

 声をかけた人物はルナ捜索の協力者――マリリエルである。



「その様子だと、情報は何も得られなかったようね」


「えぇ、まぁ――そちらはどうでしたか?」


「まだ不確定な情報だけれど……少し前に、村の外れに住んでいる羊飼いの少年がドラゴンが出たって大騒ぎしていたらしいのよ」


「ッ!? 早速話を聞きに行きましょう」


「ちょっと待ちなさい……」



 マリリエルの話を聞いたリーラはすぐにでも羊飼いの少年のもとへ向かおうとしたのだが、マリリエルはそんなリーラの腕を掴んで引き留めた。

 引き留められたリーラはマリリエルを睨みながら問いかける。



「何故止めるのですか?」


「実はその羊飼いの少年――噓吐きらしいのよ」


「噓吐き?」



 マリリエルの言葉に、リーラが首を傾げる。

 そんな様子のリーラを見て、マリリエルは引き留めてよかったと安堵した。


 もし今の状態のリーラが虚偽の情報を掴まされたとしたら――リーラはきっと、その情報を(もたら)した人物を殺してしまうだろう。

 それが大人であっても、子供であってもだ。



「大丈夫ですよ。その少年が噓を吐いているかを確かめる方法はごまんとありますから」



 だが次の瞬間、リーラは自信満々に言い放った。

 マリリエルはそんなリーラの姿を見て、背筋が凍るような感覚に陥った。


 


 ◆◇◆




「ヒッ……! オラ、本当に嘘吐いてねぇだ! 本当だ!」



 羊飼いの少年のもとへやって来た二人だったが、そこには異常な光景が広がっていた。

 マリリエルは目の前で起きていることが理解できないようで呆然としている。


 一方リーラは――羊飼いの少年に向かって剣の切っ先を向けていた。



「本当ですか? 村の方々に聞いた話によると、あなたは日常的に嘘を吐いているようですが」


「本当なんだ! オラ、ドラゴンを見たんだ!」


「証拠は?」



 少年に向かってリーラが殺気を放つ。

 リーラに殺気を当てられた少年の股間に染みが広がっていく。



「証拠は……ねぇだ。だけんど、オラは見たんだ! 嘘じゃねぇんだ!」



 必死に訴える少年。

 その様子を見るに、少年は本当に嘘を吐いていないようであった。


 だがリーラは、最後の一押しをした。

 剣の切っ先を少年の頬に当て、薄皮を一枚切ったのだ。

 少年の頬を赤い液体が伝う。



「ほ、本当なんだ……オラぁ、ドラゴンを見たんだ……」


「……そう。それで? そのドラゴンは何処へ飛んでいった? (ちな)みに嘘を吐いたら――殺す」



 リーラの言葉を聞いた少年が全身を震わす。

 少年は涙と鼻水を垂らしながら、遠くに見える山を指差した。



「あ、あっぢの方だ……」


「――そう」



 少年の答えに納得したのか、リーラは剣を鞘に収めた。

 それを見た瞬間に、少年は脱力し倒れ込んでしまった。


 リーラはそんな少年の眼前に小さな革袋を投げ落とす。



「情報料です。これに懲りたら、もう嘘は吐かないことですね」



 その言葉を残してリーラはその場を後にする。

 終始呆然としていたマリリエルだったが、リーラが居なくなると正気に戻った。



「ちょっ、君、大丈夫――ッ……」



 少年に声をかけようとしたマリリエルだったが、途中で言葉が詰まった。

 リーラから“圧”が放たれたのだ。

 段々と、その圧を発した人物が近づいてくる。



「マリリエル。さっさと来てください」



 その言葉には有無を言わせぬ迫力があった。

 マリリエルは渋々だが、リーラの後を付いていく。

 


「不満そうですね」


「当たり前でしょ。いきなり剣を抜くんだもの」


「あれが一番確実()つ、簡単だったので」



 悪びれた様子もなくリーラは言う。

 実際、リーラは自分が悪いことをしたなんて思っていなかった。



「簡単だったって……」


「――そんなことより、あの少年が指を差した方角に何があるか知っていますか?」



 マリリエルの言葉を遮り、リーラが問う。

 訊かれたマリリエルは、リーラの問いに答えられなかった。



「知らないわ」



 マリリエルの返答に、リーラの顔が引き締まる。

 暫しの沈黙の後、リーラは少年が指差した方角にある場所――恐らく龍が向かったであろう、そこの名称を告げた。



「―――竜の巣です」




 これにて、第二章終幕です。

 次回の投稿は未定ですが、お付き合いいただければ幸いです。

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