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才能に愛されし者  作者: きんめ
第二章 魔法学院編
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メイド長の決意

「――ッ!? なんだ……この膨大な魔力は?」



 ウィンデール王国の国王――ショーン・ウィンデールは、突如として解放された膨大な魔力を感じ取り、席を立った。

 ショーンが向かう先は、先ほどの膨大な魔力を感知した場所――謁見の間である。


 

「ショーン、今の魔力って……」


「分からん。だが、魔力の質からするとかなりの(つわもの)だな」



 謁見の間へと向かう道中、後ろからかけられた声に対して、ショーンは振り返ることなく返事をする。


 後ろから話しかけてきた人物はショーンの妻――フーリであった。

 フーリも膨大な魔力を感知したのだろう。

 その声から、フーリも焦っていることが窺えた。



「敵なのかそうでないのかは分からないが……急ぐぞ」



 ショーンはフーリにそう言い、走る速度を一段と上げる。

 既に近衛兵達が駆けつけているだろうが、不安は拭えない。

 

 ショーンとフーリが謁見の間へ到着した時、膨大な魔力の残滓の中心に佇んでいたのは――



「あら、遅かったわね」



 ――魔法国家ピランジェにいるはずのマリリエルとアミーであった。




 ◆◇◆




 ショーンはマリリエルとアミーを連れて執務室に移動した。

 執務室には現在、ショーン、フーリ、リーラ、マリリエル、アミーの五人が集まっている。



「それで……どうしてお前がここにいる?」



 ショーンがマリリエルに問う。

 マリリエルはレクシス魔法学院の学院長という立場にいる。

 レクシス魔法学院は魔法国家ピランジェにあり、その学院の長が何故ウィンデール王国にいるのか、ショーンは理解できていなかった。



「この人工遺物(アーティファクト)を使えば何処にでも移動できるのはあなただって知っているでしょ?」



 マリリエルが指輪をショーンに突き出す。

 この指輪は人工遺物(アーティファクト)であり、時空間魔法が付与されている代物だ。

 数刻前、マリリエルは未知の魔法としてピランジェの王に時空間魔法の存在を提唱したが、マリリエルにとって時空間魔法は既知の魔法であった。



「そういう意味じゃない。ここに来た要件だ。お前が何の用事もなくここに来ることなんてことはないだろう」



 ショーンの言葉を聞いたアミーが身体をブルッと震わせた。

 一瞬の出来事であったが、ショーンの後ろに控えていたリーラはアミーの挙動を見逃さなかった。



「アミー、あなたもどうやら事情を知っているようね」



 リーラの問いに、アミーの瞳に涙が溜まっていく。

 遂には堪えきれずに泣き出してしまった。



「私が説明するわ」



 マリリエルが真剣な表情で告げる。

 そして―――衝撃的な内容が語られた。



「―――ルナが消えた」



 次の瞬間、部屋の中に膨大な魔力が吹き荒れた。

 机の上に積み上げられた書類が宙を舞い、窓ガラスが粉々に割れる。

 


「どういう……ことですか?」



 殺気――それも強烈な殺気を放ちながら、リーラがマリリエルに問う。

 ショーンとフーリも今の言葉が信じられないといった表情で、身体中から膨大な魔力を垂れ流しにしていた。



「言葉が足りなかったわね。ルナが消えたんじゃなくて、ルナの姿をした()()()が消えたのよ」



 マリリエルの言葉を聞いたリーラの殺気が収まっていく。


 殺気が放たれたのは一瞬だったが、その殺気を直に浴びたアミーは顔を真っ青にして体を抱いていた。

 マリリエルはアミーの背中を摩り、落ち着くようを促す。



「ルナ様の姿をしたナニカ……ですか?」



 アミーが落ち着きを取り戻した頃合いを見て、リーラが訊ねた。



「えぇ。この事を説明するには、昨日の()()の原因から離さないといけないわ」



 そう言ってマリリエルは、昨日起きた出来事を説明し始めた。




 ◇◆◇

 

 

 

「龍……」



 フーリの呟きが執務室の中に響いた。

 ショーンとリーラは難しい顔をして考え込んでおり、龍の話を初めて聞いたアミーは考えが追いついていないようだ。



「それで……そのナニカはルナの身体に憑依したまま消えてしまったと……?」


「そうよ」



 マリリエルからの返答に、ショーンは項垂れる。

 最愛の息子が消えてしまったと告げられたのだ。

 “父親”として、この話は到底受け入れられるものではなかった。


 そんなショーンとは対照的に、フーリは何かを決心した様子で顔を上げた。



「探しに行きましょう」



 ショーンはその言葉を聞いてハッと顔を上げた。


 ……そうだ。

 消えてしまったからなんだ。

 探し出せばいいだけじゃないか。



「俺も――」


「――私が捜索に向かいます」



 ショーンの声を遮り、リーラが名乗りを上げた。

 


「フーリ、あたなは駄目です。王妃としての自覚を持ってください。アミー」


「は、はい!」


「メイド長の権限を一時的にですが譲渡します。この城のメイド達を上手く使いなさい」



 リーラは次々と指示を出し外堀を埋めていく。

 フーリの同行が拒否された手前、ショーンはとてもではないが声を上げることはできなかった。



「ショーン、フーリ。()()は私が必ず見つけ出します。待っていてください」



 決意に満ちた瞳でリーラが告げる。



「……頼んだぞ」


「お願い……」



 ショーンとフーリが絞り出すような声でリーラに思いを託す。

 だが、その瞳には絶対の自信があった。

 リーラならば、必ずルナを見つけてくれるだろうという自信が。



「マリリエル、あなたも当然、捜索に協力していただけるのですよね?」


「当り前じゃない」


「では半刻後、城の前で待ち合せましょう」


「分かったわ」



 ルナを捜索するにあたっての準備をするためにリーラは執務室を後にする。

 

 半刻後、ショーン、フーリ、アミーの三名に見送られ、リーラとマリリエルはウィンデール王国を出発した。




 数刻……数時間

 半刻……約一時間

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