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才能に愛されし者  作者: きんめ
第二章 魔法学院編
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破壊と再生

 時は少し遡る。

 

 二キムの息の根を止めるため、二キムの部屋に向かって歩を進めていたルナだが、その様子は何処かおかしかった。



「ハァ、ハァ……」



 先ほどの戦闘では息を乱していなかったにもかかわらず、今は肩で息をし、額には玉のような汗が浮かんでいる。

 身体からは銀色の糸のようなものが漂っていた。



 ―――不愉快だ。



 不意に、何もない廊下にそんな声が響く。

 その声は、様子がおかしいルナから発せられているものであった。



 ―――不愉快だ。



 再度、同じ言葉が様子のおかしいルナから発せられる。

 その声とともに、ルナの身体から漂っていた銀色の糸のようなものがルナの身体を包み込み始めた。

 

 ルナは糸のようなものを退けようと腕を振るが、糸のようなものはルナの抵抗を意に介さず、ルナの身体を包み込んでいく。


 その様子はまるで――蝶が羽化する前の(さなぎ)のようであった。




 ◆◇◆




 パリっという音とともに、銀色の糸でつくられた繭のようなものから一人の少年が姿を現した。

 少年は身体の調子を確認するように、何度か手を握ったり、その場で軽く伸びをする。


 一通りの動作の確認を終えた後、少年は前方にある扉に向かって歩き出した。

 扉の前に到着した少年は、扉を()()()

 扉を掴んだ少年は、扉を捻じ曲げ……破壊した。


 扉の奥にある部屋に入った少年は、目的を達成するために極大の火の玉を創り出した。

 極大の火の玉……傍から見れば太陽にも見えるソレを、少年はゆっくりと()()に向かって落としていく。


 そして極大の火の玉とゴミが接触する瞬間――海がその間に割り込んできた。

 しばらくせめぎ合っていた太陽と海だが、やがて太陽と海は互いに消滅してしまった。



「―――ルナ?」



 何処かからそんな声が響く。

 その声を発した人物――マリリエルは、反応を示さない少年に再び声かける。



「ルナっ! ちょっとやり過ぎよ!」



 マリリエルが少年に向かって叫ぶ。

 だが、少年はマリリエルに一瞥もくれることなく右手を正面に向けた。


 直後、少年の右手から銀色の魔力が放出された。

 濃密すぎる魔力は可視化され、銀色の糸となり魔法陣を描いていく。


 そして魔法陣が完成した時―――龍が現れた。

 竜ではなく、龍。

 人の世界では、天災と呼ばれている存在である。



「お久しぶりでございます――()()()



 空を飛んでいた漆黒の龍が地上に降り立ち、言葉を発した。

 


「うん」



 神々しい銀色の魔力を纏った少年が言葉を発した。

 その声は中性的なものであり、とても少年の口から発せられるものだとは思えない。



「して、創造主。どのようなご用件で我を?」


「えーと、そこに転がってる“世界のゴミ”を消滅させて欲しいんだ。魂ごとね」


「かしこまりました」



 少年の言葉を漆黒の龍が了承する。

 そして龍は、その口を大きく開き、口の中に膨大な――否、狂気とすら思えるほどの魔力が集まっていく。

  


 そして、それが放たれた時―――世界が揺れた。




 ◇◆◇




 凄まじい轟音と揺れが収まり、マリリエルはようやく目を開けることができた。

 目を開けたマリリエルは、真っ先にナニカいた場所に意識を向ける。


 そこには無表情なナニカと、龍が佇んでいた。

 だが、その周囲には悲惨な光景が広がっていた。


 建物は倒壊し、荒野のようになっている。

 そして何よりも目を引くのが、龍の前方にある()であった。


 その巨大な穴は底が見えず、世界を貫通したと言われても納得ができるほどの穴である。

 


「ありがとう」



 ナニカが龍に向かって語りかける。



「お安い御用でございます。して、創造主。これからはどのように行動なさるのですか?」



 龍がナニカに問いかける。

 ナニカは一瞬だけ目を瞑り……龍に返答した。



「しばらく休むよ」


「そうでございますか。では、我の背にお乗りください」



 そう言って、龍が体を屈ませる。

 ナニカは何のためらいもなく、龍の背中に移動した。



「では」



 その言葉とともに、龍が翼を羽ばたかせる。

 

 マリリエルは、このままではナニカと龍がどこか遠い場所へ行ってしまうと直感した。



「待ちなさいッ!」



 マリリエルは勢いよくナニカを乗せた龍の目の前に飛び出した。



「ルナをどうするつもりよ!」



 ナニカはきっと、ルナの身体に憑依している。

 その憑依している存在が何なのかはマリリエルにもわからない。

 だが少なくとも、その身体はルナのものなのだ。

 


「言っただろう。休むだけだと」



 龍の背からマリリエルにそう告げたナニカは、一瞬だけ魔力を解放させた。

 瞬間、銀色の魔力が辺り一帯に広がっていく。

 

 銀色の魔力は破壊しつくされた大地に浸透し、そこに美しい花々を咲かせた。

 世界を貫通したと思われる大穴の姿も、見る影もない。



「ちょっと疲れたかな……」


「では、参りましょう」



 龍がそう告げ、飛び去っていく。

  

 いつの間にか夜は更け、眩しいほどの朝日が立ち昇っていた。

 

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