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才能に愛されし者  作者: きんめ
第二章 魔法学院編
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意志を強く持つ

 ドサッと、何かが倒れた音で俺は目を覚ます。

 目を開けると、俺が寝ているベッドの上に、ワンピース姿のアミーが倒れこむような形で寝ていた。


 

「……」



 俺は無言でアミーの頭を撫でる。


 恐らくあの時、俺は意識を失ってしまったのだろう。

 それからアミーは俺の看病につきっきりになっていたに違いない。



「アミー」


「……はぃ?」



 俺の呼びかけに、アミーが目をこすりながら答える。

 相当深く眠っていたのか、アミーの意識はなかなか戻ってこない。


 普段は立派なメイドとして俺の身の回りの世話などをしてくれているが、こういう一面を見る限りアミーはまだ子供なんだと実感させられるな。

 

 俺はベッドから抜け出し、代わりにアミーをベッドの上に寝かす。

 再びアミーが眠りについたところで、俺はアミーの額に優しくキスをして部屋を後にした。




 ◆◇◆




 部屋を後にした俺は、棟の屋上にやってきた。

 冷たい風が身体に吹き付けているが、夜空に浮かぶ三日月を見ていると、それが些細なことに感じられる。


 

『心の隙があれば――』



 俺はアイツの言葉を思い出し、思索に耽る。

 心の隙があれば、アイツは俺の身体を乗っ取れるということだ。


 アイツは二キムを殺そうとした。

 (すんで)(ところ)で俺が干渉できたからよかったものの、あと少しでも俺の干渉が遅かったら二キムはこの世にいないだろう。



「心の隙があれば……か」



 俺は三日月を見上げながら呟く。

 冷たい風が、俺の()()()()を靡かせる。

 

 アイツが言っていた心の隙とは、意志の強さのことではないかと俺は考える。

 実際、アイツが出てきたあの一瞬は、俺の意志が弱まった瞬間だった。 

 俺が“落ちこぼれ”という言葉を聞いて意志が弱まった時にアイツは出てきたのだ。



「俺は……俺達は落ちこぼれじゃない」



 自分に言い聞かせるように呟く。

 意志を強く保つためには、ネガティブな言葉を吐いてはいけないのだ。



 ビュッという音が鳴り、激しい風が吹き荒れる。

 だが不思議と俺は風の冷たさを感じることなく、寧ろ暖かい何かが内から湧いてくる感覚を味わっていた。



「ルナっ!」



 ふと俺を呼ぶ声が聞こえた。

 振り返るとそこには、ワンピースのまま屋上へと昇ってきたアミーが息を切らして立っていた。



「はぁっ、はぁっ」



 荒い息を整えずに、アミーは俺へと駆け寄ってくる。

 そして、アミーは勢いを殺さずに俺に飛びついた。



「おっとっと……」



 数歩後ずさるが、俺はアミーを抱き留めた。

 アミーは俺の首に腕を回したまま動かない。


 

「心配したんだから……」



 涙声で、アミーが言う。



「もう……大切な人がいなくなるのは嫌なの……」



 大切な人。

 アミーの言っている大切な人とは、今は亡き両親のことだろう。



「ルナがいなくなったら……私は……」



 俺の首元から離れたアミーは、大粒の涙を零していた。

 


「俺は、ずっとアミーの傍にいる」


 

 俺は安心感を与えるため、アミーの瞳から視線を外すことなく話す。

 すると不思議なことに、俺の内から湧いていた暖かい何かがアミーを包み込んでいくのが分かった。



「うん、約束……ね……」



 まるで糸が切れたかのように、アミーは意識を失った。

 ……もしかしたら、俺はアミーにずっと無理をさせていたのかもしれない。


 

「ごめんな……」



 俺はアミーが起きないよう、優しく丁寧に抱き上げ部屋へと戻る。


 部屋に戻り、再びベッドの上にアミーを寝かす。

 今度はアミーが慌てないように、俺も隣で寝ることにする。



「おやすみ」



 俺はそう告げ、アミーの唇にそっと唇を重ねる。

 

 唇を離すと、少し寂しそうだったアミーの顔が、満面の笑みに変わっていた。

 お読みいただき、ありがとうございます。

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