ナニカ
気づいたらブクマ50超えてました。
ありがとうございます。
「あ、兄貴っ! 兄貴って王子様だったんすか!?」
棟に返ってくるや否や、ゼノがものすごい形相で詰め寄ってきた。
「そうだが……」
ゼノの迫力に若干気圧されながらも、俺は冷静に答える。
「ま、マジすか! すっげぇ! やっぱ兄貴はすげえっす!」
すげえすげえと俺の前で連呼するゼノ。
何がすげえのかはわからないが、ゼノの琴線に触れることがあったのだろう。
「ちょっと、ゼノ。先生が困ってるじゃない」
ゼノの一連の行動を見かねたのか、エルフの少女アリーヤがゼノに注意を促す。
だがゼノを注意しているアリーヤの腕はアミーの腕に絡まっており、アミーを逃がさないよう固定されているので説得力がない。
「なんだよ、そっちだってアミー先生が困ってるじゃねえか」
「ゼノ君、女の子には聞かねばならぬことがあるのです。そう、どうすれば玉の輿に乗れるのか……」
「たまのこし?」
アミーのもう一本の腕を掴んでいるキャローナが真剣な表情でゼノに語る。
だがゼノは玉の輿という言葉を聞いたことがないのか、目を白黒させている。
「そういうことよ。わかったら先生から離れなさい……って先生? 大丈夫?」
「……? 突然どうした?」
俺の顔を見たアリーヤが心配そうな顔で聞いてきた。
「そ、それ……」
アリーヤが恐る恐るといった感じで俺の髪を指差す。
俺は自分の髪を一房掬う。
「……っ!?」
髪の色が違う。
いや、現在進行形で変色してる。
俺の髪の色は母さんと同じ銀色だ。
それなのに……だんだんと紫色に……。
「何が――」
そう呟きかけた瞬間、俺の意識は闇へと沈んだ。
◆◇◆
「何で止めたの?」
その一声で俺は目を覚ます。
目を開けると、俺は辺り一面『黒』としか表現できない空間にいた。
「止めた?」
目の前に立っている声の主に、俺はそう返す。
「ボクは殺そうとしたんだ。でも、ルナは止めた。何で?」
……そうか。
そういうことか。
ようやく合点がいった。
俺はあの時、二キムを害するつもりなんてなかった。
ましてや腕を切断するつもりなんてなかった。
だが突然、俺の意志に反して身体が動いたのだ。
「お前があいつを殺そうとしたのか?」
「そうだよ。首を飛ばそうとしたんだ。なのにルナが邪魔したから……」
声の主は心底残念そうに肩を落とす。
「そこまでする必要はあったのか?」
アミーのことを考えれば、確かに二キムにはそれ相応の罰を受けさせなければならい。
だが命まで取る必要はないはずだ。
そう思い、俺が声を発した瞬間――。
「――は?」
声の主から凄まじい殺気が放たれた。
瞬間、鳥肌が止まらなくなる。
「ねぇ、何言ってるの?」
紫色の長髪を揺らしながら、声の主は俺に近づいてくる。
身体の震えが止まらない。
「ルナは自分の記憶を消したから覚えていないかもしれないけど、ボクは今でも鮮明に覚えてるんだよ」
「……?」
こいつはいったい、何を言っている?
「今回は見逃してあげるよ。でも、次はないからね」
殺気が止む。
俺と瓜二つの顔をした少年が、踵を返しどこかへと歩いていく。
「お、おい。ちょっと待て……」
呼びかけると、少年が足を止め振り返った。
紫色の長髪がさらりと揺れる。
「なに?」
「お前は……自由に出てこれるのか?」
俺の問いに、少年は穏やかに微笑んだ後――。
「心に隙があれば――」
そう言い、再びどこかへと歩きだす。
俺はその姿が見えなくなるまで、少年の背中をずっと眺めていた。




