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才能に愛されし者  作者: きんめ
第二章 魔法学院編
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落ちこぼれ

 更新が遅くなってしまい、申し訳ありません。

 翌日、俺は生徒達を連れて訓練場に来た。

 入学式の日から昨日まで、この訓練場の使用許可が出なかったのだ。

 

 マリリエルが言うには、この訓練場の使用権はS、A、B、Cクラスの順番で、Cクラスが訓練場を使える日は他のクラスが使わない日だけらしい。

 俺としては文句の一つも言ってやりたいところなのだが、なかなか機会に恵まれず、文句を言うことができないでいる。

 

「兄貴、今からでも遅くないっす! 棟に帰りましょう……」


 いつもなら「いいっすね兄貴! 行きましょう!」と言うはずのゼノが、今日は暗い顔をして帰ろうと言う。

 ミラ、クルス、キャローナ、アリーヤ、ダンもゼノと同じく暗い顔をしている。

 あのテミスでさえ、今日は暗い雰囲気だ。

 何か嫌なことでもあるのだろうか?


「よし、みんな横一列に並んでくれ」


 俺の指示に従って、生徒達が横一列に並ぶ。


「じゃあ、身体強化を発動させてあそこまで走ってくれ」


 そう言いながら、五十メートルほど先にある線を指差す。

 俺が今から生徒達にやらせようとしているのは五十メートル走だ。

 五十メートル走といっても、タイムを計るわけじゃなく、このクラスの生徒達の身体能力を観察するという目的の五十メートルだが。


「……身体強化を発動させて走るんすよね?」

「ああ、そうだ」

「……」


 俺がゼノの問いを肯定すると、何故かゼノは俯いて黙ってしまった。

 

「わかりました兄貴……でも、一つだけお願いがあります。何が起こっても、絶対に俺のことを……俺達のことを笑わないでください」

「……わかった。何があろうと、俺は絶対にお前達を笑わない」


 ゼノが初めて見せた真剣な表情に、俺は深く頷いた。

 

「ありがとうございます兄貴、みんな聞いたか? 兄貴は、俺達のことを絶対に笑わないと言ってくれた。だから、俺達も隠し事は無しだ」


 ゼノが隣にいるアリーヤ達に言うと、テミスを含めた六人が意を決したように頷き、一斉に魔力を身体中に通わせ始めた。

 徐々にだが、魔力が広がっていくのがわかる。


「……ん?」


 少ししてから、俺は全員の異変に気付いた。

 魔力が全身に行き渡っていないのだ。

 

「くっ……はぁ、はぁ」


 突然、糸が切れたかのようにゼノが膝を付く。

 息が乱れていて、体からは尋常じゃない量の汗が流れているようだ。


「もう……むり……」

「魔力が……持たない……」

「だ……め……」


 ゼノに続き、アリーヤ、クルス、キャローナといった面々が倒れこむ。

 残っていたミラ、ダンも、同じように倒れこんでしまった。


「……どういうことだ?」


 俺は最後まで粘っているテミスを注意深く観察する。


「私は……まだ……」


 ……おかしい。

 身体強化は、俺が五歳の時には使えた魔法だ。

 それなのに、テミスは身体強化を発動できていない。

 今はただ、魔力を体外に放出させているだけだ。


「あっ……」


 魔力を使いすぎたテミスがふらりと倒れこむ。

 俺は瞬時にテミスのもとへ移動すると、衝撃が伝わらないように優しくテミスを抱き留めた。


「自分の魔力の量くらい把握しておけ」

「……ふんっ。余計なお世話……よ……」


 魔力が枯渇したテミスは、強情な態度を取りながらも意識を失った。

 通常の身体強化ならば、そこまで魔力を使わずに発動させることができるはずだ。

 にもかかわらず、全員に魔力枯渇の兆候が見られる。


「アミー、テミスの介抱を頼む」

「かしこまりました」


 後ろに控えていたアミーにテミスを任せ、俺は膝を付いているゼノのもとへと駆け寄った。


「ゼノ……これか?」

「……はい。俺達は……魔法が得意じゃないっす。だから故郷でも笑われて……」


 堰を切ったように、悔し涙を見せるゼノ。

 そんなゼノに、俺は言葉をかけることができなかった。


 何を言っても、気休めにしかならないと思ったのだ。


「……帰るか」


 生徒達は疲労困憊で動けそうもない。

 まだ五十メートル走はやってないけど……まあ仕方ないな。

 俺は『転移』を使い、全員を棟に移動させた。






 四日後、俺は再び生徒達を連れて訓練場に来ていた。

 今日は本当ならAクラスが訓練場を使用する予定だったのだが、マリリエルに無理を言って使わせてもらうことにしたのだ。


「先生……あの……私達、魔法が……その……」


 申し訳なさそうに、キャローナが頭を下げる。

 

「いや、問題ない。お前は今日から魔法が使えるようになる」


 俺は暗い雰囲気を醸し出している生徒達に、堂々と言い放った。


 俺は四日前の生徒達の魔力の流れを思い出しながら考えた。

 どうしてゼノ達は上手く魔法が使えないのか。

 そして昨日、俺はその謎を解き明かしたのだ。


「ほんと? せんせー、それほんと!?」


 興奮した様子のミラが尻尾をブンブン振る。

 

「ま、本当(マジ)っすか!? 兄貴……」


 ゼノをはじめとした生徒達が、俺に要望の視線を送る。

 

本当(マジ)だ。お前達が辛い思いをしてきたのは容易に想像できる。ぽっと出の教師の俺が信じれくてくれと言っても、簡単には信じられないだろう。だが、今だけは俺を信じてほしい。決して俺はお前達を見捨てたりしない」


 俺は深々と頭を下げた。

 アミーが背後で少し動揺しているのがわかる。

 今は教師という立場だが、本来、俺は王子なのだ。

 だが、今だけは大目に見てほしい。


「皆、前みたいに横一列に並んでくれ」


 生徒達は、俺の指示に従って横一列に並んでくれた。

 

「よし、じゃあこの前みたいに身体強化を発動させてくれ」

「あ、兄貴……でも……」

「それさえしてくれれば……あとは、俺が何とかする」

「……」


 ゼノは一瞬悩んだような顔をしたが、次の瞬間、不完全な身体強化を発動させた。

 俺はゼノの背後に回り、心臓部分に手を当て魔力の流れを確認する。


「……あった」


 やっぱりだ。

 俺の予想は正しかった。

 

 どうして魔力が体中に行き渡らず放出させてしまうのか。

 それは、魔力が流れる管のようなものに“穴が開いているから”だった。

 穴の開いた風船に空気を入れようとしても無駄なのと一緒で、ゼノの身体は穴の開いた風船のようになっていたのだ。


 原因がわかれば、解決したも同然だ。


「ゼノ、今からちょっと不快な感覚に襲われるかもしれない……だけど、これが終われば、ゼノは魔法が使えるようになっているはずだ」

「わかりました……兄貴、お願いします」


 ゼノの言葉を受け、俺は自分の魔力をゼノの中に溶け込ませた。


「うっ……」


 口元を抑え、ゼノがよろめく。


「あと少しだ……」


 ゼノに声をかけながら、俺はさらに魔力を流す。

 そして、ゼノの身体に俺の魔力が十分に行き渡ったところで、俺はオリジナル魔法を発動させた。


修復(リカバリー)


 開いていた穴が、塞がっていく。

 それに伴い、ゼノの魔力が安定しはじめ――


「……か、軽い……兄貴ッ! 軽いっす!」


 先程までの苦悶の表情が噓のように、ゼノは走り回っていた。

 魔力は漏れ出ておらず、しっかりと身体強化を発動できている。


「あ、あじぎ……あじぎぃぃぃ!!!」


 走り回っていたゼノが俺の前で立ち止まり、涙を流しながら俺に抱き着いてきた。


「あじぎ……あじがどうございまず! あじがどうございまず!!」


 俺は自分より背の高いゼノの頭を、優しく撫でてやる。

 傍から見れば、何やってんだ? と、思うかもしれないが、俺はゼノの気持ちが痛いほどわかった。

 

「よし―――」


 俺はここで言葉を区切り、生徒達を見やる。


「―――どんどん行こうか」




 俺はアリーヤ、クルス、キャローナ、ダン、ミラを治療を終え、最後にテミスの治療を行っていた。


「見て! 見てゼノ! 私、魔法が使えるわ! 魔法が使えるのよ!」

「おうっ! よかったじゃねぇか……って、おい! 抱き着くな貧乳! 暑苦しいだろ!」


「みて! きゃろーな、みて! ほら、みて!!」

「見てる、見てるよ! 私のもの見て! 魔法が使えるようになった!」

「うんっ! うんっ……うんっ!」


「見てよダン、僕、魔法が使えるよ!」

「わ、わしもだ! 魔法が使えるぞ!!」


 訓練場内では、皆一様に涙を流し、歓喜の声を上げている。


「……ほら、終わったぞ」

「え……ええ……」


 テミスの治療を終えた俺は、そっとテミスの背中を押す。

 

「ゆっくりと息を吸って、身体中に魔力を通わすんだ。身体が軽くなってきたら、少し走ってみるといい」


 戸惑いながらも、テミスが魔力を練り始める。

 魔力はしっかりとテミスの身体を循環し、身体強化を発動させた。


「か、軽っ……」


 直後、テミスはすでに、訓練場の端まで移動していた。

 

「おい……あれ、限界突破じゃねえか」


 テミスが使っていたのは、身体強化の上位互換――限界突破だった。

 ゼノ達より流れ出てる魔力が多かったのは、これが原因か……。


「ル、ルナ……ルナぁぁぁあああ!」


 訓練場の端から、俺の名前を呼びながらテミスが走ってくる。

 減速する気配のないテミスを、俺はテミスが怪我をしないように受け止めた。


「ありがとう……ありがとうっ!」


 俺の胸に顔をうずめながら、テミスは何度も感謝の言葉を口にする。

 

「おい……あのツンツン皇女、兄貴に抱き着いてやがるぜ?」

「いいじゃない……今だけはそっとしておいてあげましょ」


 生暖かい視線がそこらじゅうから注がれる。

 Cクラスの生徒達はこの日、魔法が使えるようになった。


 訓練場は、喜びを爆発させた生徒達によって半ば自由時間のようになっていた。

 全員が身体強化を発動させ、鬼ごっこなようなものをしている。


 だが突如として、そんな空気をぶち壊す輩が現れた。


「あー、まだ落ちこぼれどもが居やがる……」


 訓練場の入口の辺りから、Cクラスを馬鹿にするような発言がされた。

 そちらに意識を向けると、そこにはAクラスの教師がAクラスの生徒達を引き連れて立っていた。


 ブックマーク等、ありがとうございます。

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