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才能に愛されし者  作者: きんめ
第二章 魔法学院編
39/69

Cクラスの生徒達

 入学式から一ヶ月が経った。

 俺は今、教室で生徒達に各自の苦手科目を教えている。


 アミーは本棟と呼ばれる場所にいるマリリエルのもとへ行ってもらっている。

 実戦を行うために、訓練場の使用許可をもらいに行ったのだ。


 いくら実力主義の学院だといっても、最低限の知識は身に着けておく必要がある。

 それにこの世界は死というものが身近にある世界だ。

 どれだけ力があっても、毒におかされたら死んでしまうかもしれない。

 だから、俺は力より先に知識を着けさせようとしているのだ。


「兄貴ィ……ジギジギ草なんてどこにあるのか知らねぇよ」

「ついさっき教えたばっかだろ……」


 俺のことを兄貴と呼んだのは、茶髪リーゼントで目つきが鋭い青年のゼノだ。

 ゼノは入学式の翌日に、「てめぇみてえな坊ちゃんが俺に教えられることなんてねえだろ」などと喧嘩を売ってきたため、少しばかり()()を施したら俺のことを『兄貴』と呼ぶようになった。

 どのような教育を施したのかは伏せておく。


 ゼノは見た目通りのやんちゃ坊主で、見た目通り頭が悪い。

 だが、何度も根気強く教えれば理解してくれるため、教師の俺としても教えがいのある生徒だ。


 さて、ゼノが忘れたところをもう一度教えてやるとしよう。

 ジギジギ草とは、『ポーション』と呼ばれる回復薬の主原料になる薬草のことである。

 ゼノが解いている問題は、『ジギジギ草はどこで採取できるか?』という簡単な問題だ。

 この問題の解答は、『魔力を帯びている湖の近く』なのだが、ゼノはこの答えが答えられない。

 一分前に教えたのにもかかわらずだ。

 

「あんた……一分前に教えてもらったことをもう忘れてるの? ほんっとにバカね」

「うるせぇ! あと一時間も兄貴に教えてもらえれば覚えられるっつーの!」


 ゼノに嫌味を言ったのは、エルフの少女アリーヤだ。

 アリーヤは他人を一切寄せ付けないような雰囲気を放っていたのだが、今ではクラスメイトに嫌味を言えるほど心を開いている。


 何故アリーヤは他人を一切寄せ付けないような雰囲気を放っていたのか……。

 その理由は――アリーヤがめちゃくちゃ緊張しているだけだった。

 実はこのエルフの少女、村から出るのが初めてで極度の緊張状態に陥っていたらしい。

 そのため、入学式の内容や自己紹介の内容もほぼ覚えていないのだとか。

 ついでに、当時の自分の状況も覚えていないらしい。


「ちょっと二人とも! 今は授業中です。静かにしてください!」


 あーだこーだ言っている二人を注意したのは、三つ編み丸メガネの少女、キャローナだ。

 キャローナはこのクラス()()()まともな生徒で、このように授業にまじめに取り組んでいない生徒を注意してくれる。

 名実ともに、このクラスの委員長だ。

 

「あとゼノ君。一時間も先生を独占しようとしないでください。先生は一人しかいないんですから」

「そうだぞゼノ。悪いけど、お前に一時間も時間を割く気はない」

「そ、そんなぁ……」

 

 俺とキャローナの言葉を聞いたゼノが、机に伏す。

 リーゼントが潰れておかしなことになっているが、言わなくてもいいだろう。


「ふふっ、いい気味ね」

「なんだと貧乳エルフ! じゃあお前はジギジギ草がどこにあるのか知ってるのか?」

「ジギジギ草は主に湖の傍に生えているわ。湖といっても、魔力を帯びている湖に限るけど」


 煽られたゼノが体を起こしアリーヤに嚙みつく。

 だが、アリーヤは凛とした様子で完璧な回答を返した。


「兄貴! この貧乳が言ってることは本当っすか!?」

「完答だぞ」

「カントウ? なんすかそれ?」

「完璧な答え、という意味だ」

「なっ!?」


 ゼノは驚いた表情を浮かべ、アリーヤの顔を見る。

 

「てめぇ……貧乳のくせにやるじゃねーか」

「あんたさっきから貧乳貧乳ってうるさいのよ! これはスレンダーっていうの!」

「……? それ、貧乳って意味だろ?」


 ああゼノ。

 それはそれで合ってるぞ。

 口には出さないが、お前の成績を少し上げてやる。




「るなせんせー! このもんだいわからない!」


 元気よく俺の名前を呼んだのは、元気いっぱいの獣人ミラだ。

 ミラは幼ない見た目とは裏腹に、俺とアミーが考えた問題をすらすら解いていく。

 意外なことに、このクラスで一番頭がいいのはミラなのだ。


「どこがわからないんだ?」

「この、ぽいずんふろっぐ? のかいたいのしかたなんだけど、どくぶくろってどうやってとりだすの?」


 ミラは魔物の解体の方法について勉強しているようだ。

 ポイズンフロッグとは、その名の通り毒ガエルである。

 但し、毒ガエルといっても全長三メートルほどの巨大なカエルなのだが。


「ポイズンフロッグの毒袋の取り出し方は、先ず毒袋の汚れを水で落とすんだ。なんでかわかるか?」

「……どくをあらいながすため?」

「正解だ」


 ポイズンフロッグの毒袋には、当然だが毒が付着している。

 その毒袋に付いていた汚れにも毒があるかもしれないというのが普通の考えだろう。


「そっか! せんせーありがと!」


 元気よく俺に礼を言い、ミラは再び机の上にあるプリントに意識を向けた。

 ゼノに比べると、物事の理解の早さが尋常ではない。

 ミラの知能の百分の一でもゼノに分けることができれば、ゼノは今よりは賢くなるはずだ。



 教室の中が、しんと静まり返る。

 全員が集中している……いい状態だ。


「ここはこうじゃない?」

「うーん。それも一理あるが、ここにこれを入れたら……ほらっ! できたぞ!」


 二人の生徒の声が教室内に響く。

 挙動不審だった少年クルスと、ドワーフのダンだ。


「なにをしてるんだ?」

「「っ! ……」」


 俺が近寄ると、急に二人とも黙りこくってしまった。

 それでも二人が咄嗟に何かを隠したのを、俺は見逃さなかった。

 

「……何を隠したんだ?」


 顔をそらす二人だったが、俺の無言の圧力に耐えられなくなったのか、素直に隠したものを出してくれた。

 

()()()。これは……」


 二人が隠していたもの。

 それは――


「カメラ……なのか?」


 前世で見たものと全く同じ形状のカメラだった。


「先生、これがどんなものかわかるんですか!?」

「なんとなくな。これも魔道具なのか?」

「そうです。僕が設計して、ダンが組み立てました」


 クルスは頭は悪くないのだが、少しオタクっぽいところがある。

 オタクといっても、魔道具などを設計する魔道具設計オタクだが。

 

 ダンはドワーフだからか、ものづくりが得意だ。

 そんな二人が出会ったのは偶然か、はたまた必然か……ともあれ、この二人は入学早々に仲良くなり、いつもこのように魔道具の制作を行っている。


「どうですか先生?」

「……これは没収だ」

「「えぇっ!?」」

「いや、授業中にこんなの組み立ててるお前らが悪いだろ」


 ……俺は間違っていないはずだ。

 だから二人とも、この世の終わりみたいな顔をするな。


「あー……授業をまじめに受けていれば返すから」


 そう告げると、二人がものすごい勢いでプリントをやり始めた。

 現金なやつらだ。




 ふと、ジーーっと俺のことを見ている視線に気が付く。

 

「悪いな」


 俺は視線を送ってきた少女のもとへ駆け寄る。


「ふんっ。気が付けばいいのよ」


 テミスが頬を膨らませる。

 これは……まあ、怒ってはいないな。


 俺はこの一ヶ月間、可能な限りテミスと接するようにしてきた。

 最初は「キモい」だの「話しかけないで」等、拒絶の言葉を投げつけられていたのだが、最近になってようやく心を開いてくれるようになった。


 テミスは人とのコミュニケーションが得意ではない。

 第九皇女という立場もあってか、喋り方も高圧的だ。

 

 それを含めて、俺はテミスのすべてを受け止めてやる。

 

 ちゃんとテミスを()()()()ということを証明するために。


「今日の調子はどうだ?」

「……普通よ。良くもなければ悪くもないわ」


 こうやって当たり障りのない会話が出来ているということに、思わず口角が上がる。


「そんなことよりも、ここがわからないわ。教えなさい」

「どれどれ―――」


 入学式の日に「教師風情が――」と言われたことを思い出すと、テミスの変化は凄まじい。

 

 俺はテミスの成長が嬉しくて、再び口角を上げるのだった。

 

 ブックマーク等、ありがとうございます。

 

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