わがまま皇女の気持ち
「……疲れた」
何とか無事に初日を終えた俺は、棟にある部屋に入るや否やベッドに飛び込んだ。
柔らかい布団が俺の身体を優しく受け止めれくれる。
「それにしても、個性的な面々だったな」
ふと脳裏に浮かんだのは、俺が受け持つことになったクラスの生徒達だ。
元気いっぱいの獣人、ミラ。
自分に自信が持てないのか、常に挙動不審だった少年、クルス。
腰まで伸ばしている髪を三つ編みにして丸メガネをかけていた少女、キャローナ。
茶髪リーゼントの目つきが鋭い青年、ゼノ。
他人を一切寄せ付けないような雰囲気を纏っていたエルフの少女、アリーヤ。
背が低く、髭がもじゃもじゃのドワーフ、ダン。
最後に、ライギア帝国第九皇女、テミス。
俺はこの個性的な七人に色々と教えることになるのだが……
「あのわがまま皇女がなぁ……」
一番の問題は、あの第九皇女だ。
テミスの高飛車っぷりは目に余る。
クルスなんかはテミスが声を出すたびにビクビクしていた。
「素直に俺の言うことを聞くとは思えないし……」
俺が何か言うたびに、「教師風情が!」と言われることが目に見えている。
「アミー、どうすればいいと思う?」
大量の荷物を整理しているアミーに聞いてみる。
実は適当に自己紹介などを終えた俺達は一度マリリエルの屋敷に戻ったのだが、ガウディに荷物は全てこの棟に送ってあると言われたのだ。
どうやら教師も生徒と同じく棟で生活することになっているらしい。
そのため、現在アミーはこの部屋に送られていた大量の荷物を整理してしているのだ。
「どうすればいいと聞かれても……時間が解決してくれるのを待つしかないんじゃないですか?」
時間が解決するのを待つ……か。
時間が経つほどあいつが増長すると思うのは俺だけか?
……考えても時間の無駄だな。
ベッドから起き上がり、風呂場へ向かう。
浴槽は然程大きくないが、二人くらいなら余裕で入れる大きさだ。
「アミーも一緒に入るか?」
「っ! ……うん!」
湯船に水魔法で水を入れ、火魔法の火で温めていく。
前世ではお湯を張るのにそこそこ時間がかかったが、今では魔法のおかげですぐにお湯を張れる。
魔法様様だ。
「このくらいかな」
湯気が出てきたところで火を消す。
湯船の中に指を入れてみると、やはりちょうどいい温度だった。
「先に入ってるからなー」
アミーに一言入れてから脱衣所で服を脱ぎ風呂場に入る。
俺は髪を重点的に洗う。
最初は母様の希望で髪を伸ばしていたが、今では俺もこの長髪を気に入っているのだ。
「はぁ……」
母様にしばらく髪を梳いてもらえないことを思い出し、少し気分が落ち込む。
何年もウィンデールに帰れないなんてことはないだろうが、それでもウィンデールが恋しい。
出立したのは昨日なのにもう帰りたい……。
「髪……洗おうか?」
「ああ、頼む」
アミーが風呂場に入ってきたので、髪を洗ってもらうことにした。
一人だけではどうしても洗えない個所もあるのだ。
「相変わらずすべすべ……」
俺の髪を触りながら、アミーがそんな声を漏らす。
まあ、髪は大事にしているからな。
「……気持ちいい?」
「ああ、気持ちいいぞ」
自分で洗うのと別の人に洗ってもらうのとでは感覚が全く違う。
アミーの手は小さくて、俺の髪を一生懸命洗ってくれているのがよくわかる。
「出来た……」
「ありがとう。今度は俺がアミーの髪を洗うよ」
「じゃあ……お願いします」
アミーと位置を代わり、今度は俺がアミーの髪を洗う。
アミーの髪は肩のあたりで切りそろえられており、俺の髪よりも洗いやすい。
「あのさ……」
「ん?」
「テミスちゃんのことなんだけど、少し気になったことがあって……」
「気になったこと?」
「そう。あの態度のことなんだけど、作ってると思うの」
あの横暴な態度を作ってる?
「どういうことだ?」
「あくまでも私の推測なんだけど、寂しいんじゃないかなって。ほら、テミスちゃんって第九皇女でしょ?」
第九皇女……。
「ああ……そういうことか」
テミスはライギア帝国の第九皇女。
第九ということは、それだけ周囲からの関心も薄い。
上には何人もの兄や姉がいるのだから。
だからテミスはあのような態度取っている。
みんなに見てほしくて、自分に気が付いてほしくて。
……俺と同じだ。
前世では俺もみんなに見てほしくて、自分に気が付いてほしくて努力していた。
「それにしても、よく気付いたな」
俺はアミーの推測を聞くまでこの答えにたどり着けなかった。
「ものすごく寂しそうな顔をしてたから……」
表情までは見てなかったな。
生徒の表情を見ていないなんて教師失格だ。
「そう……か。テミスとどう接すればいいか少しわかった気がするよ。ありがとう」
髪に付いた泡を流しながら礼を言う。
アミーの髪もさらさらで、触っていて気持ちいい。
「……か、身体も洗って……?」
「……ゴクッ……」
アミーの言葉に、思わず息を呑む。
洗ってってことは、その豊満なものも洗ってってことだよな?
「わ、わかった……」
石鹼を手に取り、泡を立てていく。
泡が十分に立ったところで、俺はアミーの素肌に触れた。
……柔らかい。
俺の肌とは全く違う感触だ。
背中や肩のあたりばかり洗っていると、アミーに手を掴まれた。
「ここも……洗って……?」
アミーが俺の手を豊満なものに近付けていく。
「ちょ、ちょっと待て。アミーはいいのか?」
「……今更じゃん! 私はルナのものだよ……」
恥じらいながら告げるアミーを見て、俺の理性は崩壊した。
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