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才能に愛されし者  作者: きんめ
第二章 魔法学院編
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デモンストレーション

 広大な広場の中央で、白いローブを羽織っている少年と思わしき人物と、赤いローブを羽織っている男が向かい合っている。

 周囲には大勢の観戦者が集まっており、今から行われるこの二人による戦いを目に焼き付けようとしていた。

 

 片や、レクシス魔法学院教師陣の第三席についている男。

 片や、魔女の異名を持つマリリエルがその実力を認め、白いローブを授けた謎の少年。

 

 いきなり実戦というものを見ることができると、新入生達は目を輝かせている。

 この完全実力主義の学院に入学してきた少年少女達にとってはいい刺激になるだろう。

 マリリエルの密かな(たくら)みは、誰にも知られずに成功していた。

 

「ルールを決めようか」


 赤いローブを羽織っている男……ナックルが、白いローブを羽織っている少年に声をかける。


「近接戦闘、魔法戦、私はどちらでもいいが……」

「両方で」


 白いローブを羽織っている少年がぶっきらぼうに返す。

 心底面倒だと言わんばかりの言い方に、ナックルの丁寧だった口調が変わった。


「……いいだろう。お前にその白いローブを持つ資格があるのか……私が見極めてやる」


 明らかに白いローブを羽織っている少年を格下とみている発言。

 身長か、それとも声か。

 どちらかはわからないが、外見だけでナックルが目の前の少年を格下だと思っているのは確かだ。


「往くぞ……」


 ナックルが身体強化を発動させ地を蹴る。

 そんなナックルの様子を見て、白いローブを羽織っている少年がフードの中で驚愕の表情を浮かべた。


「集いし水よ、我が意に従い敵を穿つ礫となれ!」


 ナックルが瞬時に詠唱を終え、虚空に幾つもの水の礫が生み出された。


『ウォーターショット』


 移動しながらも正確に詠唱を唱えたナックルを見て、周りの観戦者達が驚嘆の声を上げる。

 一介の魔法使いでは、移動しながらの詠唱というのは難しい。

 だがナックルは、それを難なくこなしたのだ。


(所詮この程度か……)


 ナックルは自身の勝ちを確信すると同時に、若干の落胆を見せる。

 白いローブは学院長が認めた実力者にしか渡さないという決まりになっているのだが、目の前の少年は自分を前に、何もできずに負けるのだ。


 だがそれと同時に一つの疑問も浮かぶ。

 何もできない少年に白いローブを渡すことなんてあるのか? と。

 自分が眼前に迫っているというのに、目の前の少年は一向に行動を起こす気配がない。

 いくらなんでもこれはおかしい。

 そしてこの疑問は、すぐに解決することになる。


「……その程度?」


 突如耳元から聞こえた、まだ声変わりも経ていない少年の声。

 ナックルはその声を聞いた瞬間、足を止めた。


 目の前の少年からは一瞬たりとも視線を外していない。

 だが、確かにナックルは聞いたのだ。


(今……何をした!?)


 目の前の少年に動きはない。

 だがナックルが聞いた声は、確かに目の前の少年の声だった。


(聞き間違いか?)


 一瞬、そんな考えが浮かぶがナックルはその考えを切り捨てる。

 仮にも、これは戦闘の最中だ。

 そんな状況の中、自分が聞き間違いをするなんて()()()()()


「もういいか?」


 再度、心底面倒だと言わんばかりに少年が問う。

 だが逆に、ナックルはそんな少年の様子を見て警戒を強めた。


 ナックルは目の前の少年を観察しながら思う。


 ―――異常だ。


 今になって気づいたのだが、目の前の少年からは()()()()()()()()()

 どんなに幼い子供でも、常に一定の魔力は放っているものだ。

 それなのに、目の前の少年からは一切魔力を感じられない。


(まさか……私が読み違えた!?)


 目の前の少年の実力を測ることができない。

 知らず知らずのうちに、ナックルは勝手に相手の実力を決めつけていたのだ。


「申し訳ない、私は()()()の実力を測りかねていたようだ」


 目の前の少年は、魔力を完全に遮断している。

 自分にはできない芸当だ。

 少なくとも……いや、確実に目の前の少年の実力は自分よりも上位に位置している。

 今更ながらに、ナックルはそのことを自覚した。


「……見所あるよ、あんた」


 少年の口調は上からだが、それにいら立ちは覚えない。

 目の前の少年は、自分よりも圧倒的に格上の人物なのだ。

 

「じゃあ……少しだけ見せてあげようかな」


 少年が呟いた瞬間、空が漆黒に包まれ――


「ッ!?」


 ――星々が降ってきた。






 あー、面倒。

 なんで俺がこんなことしなきゃならんのだ。

 目の前には、ナックルとか呼ばれてた赤いローブの男。

 厳格な雰囲気で、堅物そう……っていう印象を受ける。


「ルールを決めようか」


 ルール?

 ああ、そうか。

 これはデモンストレーション。

 つまり模擬戦だ。

 ルールくらい決めとかないと大怪我するかもしれないからな。


「近接戦闘、魔法戦、私はどちらでもいいが……」


 近接戦闘と魔法戦?

 うーん……。

 

「両方で」


 考えるのが面倒だったので適当に返すと、ナックルの口調が乱暴なものに変わった。


「……いいだろう。お前にその白いローブを持つ資格があるのか……私が見極めてやる」


 やっぱりこの白いローブが絡まれた原因か。

 面倒なものを押し付けられたなぁ……。


「往くぞ……」


 掛け声とともに、ナックルが身体中に魔力を循環させ始める。

 そして、身体中に魔力が行き渡った途端に俺との距離を詰めてきた。

 詰めてきたんだけど……おっそ!

 ちょっと待て、それはいくらなんでも遅すぎるだろう。


「集いし水よ……」


 走りながら、ナックルが詠唱を唱え始めた。

 ……ちゃんとした詠唱を始めて聞いた気がする。

 母様とかリーラは詠唱なんてしないし、なんだか新鮮な気分だ。


『ウォーターショット』


 ナックルが詠唱を唱え終えた。

 虚空に幾つもの水の礫が生み出される。

 

 移動中に詠唱するのは難しいって本に書いてあった気がするんだけど、ナックルはそれを難なくやって見せた。

 まぁ、俺も移動中に魔法を唱えることくらいできるんですけどね。

 

「……その程度?」


 あまりにも走るのが遅いので、俺は一瞬でナックルの後ろに回り込んで一言だけ囁き、元の位置に戻ってきた。

 ナックルが驚愕の表情を浮かべて足を止める。

 それから数秒、数十秒経ってもナックルは動きを見せない。


「もういいか?」

「申し訳ない、私はあなたの実力を測りかねていたようだ」


 動かなくなったナックルに問うと、数秒で返事が返ってきた。

 実力を測りかねていた……?


 もしかして身長? それとも声?

 この声のせいで弱い人間だと思われてたのか?

 ……どっちにしろ、俺の実力を認めてくれたのなら別にいいか。

 

「……見所あるよ、あんた」


 俺の容姿に惑わされずに実力を測れる人は数少ない。

 最初は俺のことを侮っていたみたいだが、ナックルは俺との実力差に気が付いたようだ。

 この学院の教師をやっているだけはある。

 他の教師は知らないけど。


「じゃあ……少しだけ見せてあげようかな」


 デモンストレーションだし、少しは観戦者達を沸かせないとね。

 

流星群(メテオ)


ブックマーク等、ありがとうございます。

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