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才能に愛されし者  作者: きんめ
第二章 魔法学院編
35/69

入学式

 手の中に柔らかい感触を感じ、ぼんやりと意識が覚醒していく。


「あんっ……」


 突如発せられる、艶めかしい声。

 重たい瞼を上げると、俺の腕の中には、一糸まとわぬ姿で穏やかな寝息を立てているアミーの姿があった。

 そして手の中には、湯船に浮くほど大きい胸の、片方が収まっている。


 一回、二回と、手の中にはあるそれを揉む。

 おおっ……マシュマロのような手触りだ。


「んんっ……」


 再度発せられる、艶めかしい声。

 俺はもう片方の胸にも手を伸ばし――


 ――ガチャッ。


「おはよー! ……って、あれ?」


 ノックもせずに部屋に入ってきたマリリエルが、目を点にして俺のことを凝視する。

 

「あ、あんたなんで裸なのよ!」

「……」


 俺は今、服を着ておらず、上半身裸の状態だ。

 何故服を着ていないのかはご想像にお任せする。


 ベッドの下に落ちていたシャツを無言で手に取り、袖に腕を通す。

 シャツのボタンを留め終わった頃、隣で寝ていたアミーがのっそりと起き上がった。


「……おはよう」

「ああ」

「なんでアミーまで裸なのよ!」


 マリリエルに指摘されたアミーが、上半身をシーツで隠す。

 そんなアミーを見たマリリエルが、顔を真っ赤にして体を震わせる。


「あんた達、人の家で何やってんのよー!!」


 屋敷中にマリリエルの叫び声が響き渡った。






「信じられないっ!」


 レクシス魔法学院に向かう馬車の中で、何度目かわからない愚痴をマリリエルこぼす。

 その愚痴を聞いた俺とアミーは顔を見合わせ、お互い苦笑を浮かべる。

 朝っぱらからこんな感じなのだ。

 そろそろ機嫌を直してほしい。


 まあ、人の家で致すのは確かに不謹慎かもしれない。

 だがアミーから誘われて断れる人間がいるだろうか?

 答えは否だ。

 いたとしても、俺には断ることなんてできない。

 

「今後は気を付けるよ」


 心のこもっていない謝罪を口にする。

 とりあえず謝っとけの精神だ。


「ほんとよ! 朝っぱらからあんな素晴らしい肉体を見せつけられて……」


 ……ん?

 今、なんて言った?


「ああ……あの六つに割れた腹筋。引き締まった二の腕。たまらないわ……」

 

 ……やばい奴だった。

 十歳の少年に欲情するなんて……。

 魔女の異名を持つ俺の上司は、『ド』がつくほどの変態だったようだ。

 これからはどんなことをした後でも、ちゃんと服を着てから寝るようにしよう。



 馬車が進むにつれ、だんだんと外が騒がしくなってくる。

 レクシス魔法学院に近づいている証拠だろう。

 

「人口が密集している地域に近づいてきたようですね」


 アミーも俺と同じようなことを考えていたようだ。

 

 マリリエルの屋敷は庭がやたらと広かった。

 敷地内には巨大な池や人工林などがあり、何とも言えない風情を醸し出してる。

 ちなみに、庭の管理は池の掃除から木の剪定まですべてガウディが行っているそうだ。


 話が逸れたが、マリリエルの屋敷の周りは人通りが少ない。

 それ故に、ウィンデールの城とは比べ物にならないくらいマリリエルの屋敷は静かなのだ。

 一日ぶりとはいえ、こうして活気のある場所の方が気持ちが落ち着く。

 活気のある場所の方が気持ちが落ち着くなんておかしな話だが、静かな場所より活気のある場所の方がいい。



 体感なのだが、馬車の速度がだんだん落ちてきている気がする。

 馬車の速度が下がるのに比例して、外も騒がしくなってきているようだ。



 馬車が完全に止まり、周囲から歓声が沸いた。

 御者が扉を開け、マリリエルが立ち上がり馬車から降りていく。


「あっ、ルナ。外に出るときはその白いローブを羽織って出てきなさいよ。あと、フードも被るように」


 振り返ったマリリエルの言葉通り、俺は白いローブを羽織ってフードも被る。

 

「よしっ、じゃあ行くわよ」


 マリリエルを先頭にして、俺、アミーの順番で降りていく。

 馬車を降りて視界に入ってきたのは、広場を埋め尽くしている人々、多くの列を作って並んでいる学生服を着た少年少女達だった。


「「「「「わああぁぁぁああああ!!!」」」」」


 馬車から壇上までの道が、それこそ海が割れるように出来上がる。

 マリリエルはその道を悠然と歩き出した。

 それが当然と言わんばかりに。


「遅れないでね」

 

 俺とアミーだけが聴こえるくらいの小さな声だった。

 「遅れないでね」とは、「気後れしないでね」という意味だったのだろう。 

 そう思えるくらい、周囲からの歓声が大きいのだ。

 

 異名持ちにはそう簡単に会えるものではない。

 俺は父様や母様、リーラといった異名持ちと毎日会っていたためにそういう意識が低かったのだが、一般人、ましてや貴族でも異名持ちには一生に一度会えるか会えないか。

 その一生に一度会えるかわからない異名持ちが目の前にいるともなれば、歓声が大きくなるのも不思議ではないだろう。

 

「行くぞ」


 歓声に呑まれかけているアミーに声をかけ、壇上までの道を歩いていく。

 周囲もそんな俺達の様子に気づいたのだろう。

 

「おい……誰だあれ……」

「し、白いローブ!? どういうことだ!?」

「メイド服……? ここ、レクシス魔法学院よ?」


 など、様々な声が聞こえてくる。

 だが、俺とアミーはその声を無視して壇上に上がる。


『静粛に!』


 マリリエルの声が広場に響き渡った。

 風魔法で声を拡散させているため、広場にいる全員に聞こえているはずだ。


『皆知っているかもしれないが、私がこのレクシス魔法学院の学院長、マリリエル・レクシスだ。私から諸君らに言いたいことはただ一つ。強くなれ! 知識を得て、それを実践し、そして強くなるんだ』


 俺のイメージとは違う雄々しい態度で演説を行うマリリエル。

 今の演説を聞いている限り、この学院は頭の良さだとか関係なく、ただひたすらに実践的な強さを求めているのかもしれない。

 

『皆、もうこの学院の入学説明書は読んだな? 私の横にいる者は白いローブを纏っている。これがどういう意味か分かるだろう。私が認めた実力者……私と同等以上の力の持ち主ということだ』


 マリリエルの言葉に、広場に集まっている人々がざわつく。

 それはそうだろう。

 異名持ちのマリリエルが、横にいる俺を自分と同等以上の実力者と言っているのだ。


『この者は教師としてこのレクシス魔法学院に勤めてもらう。皆、この者から知識を……技術を盗み、高みを目指してくれ。私からは以上だ』


 マリリエルが俺のことを変な風に紹介したせいで、俺に様々な視線が向けられる。

 まったく困った上司だ……。

 

「お待ちください!」


 壇上の近くの列の先頭にいる赤いローブの男が声を上げた。

 なんか嫌な予感が……。


『その白いローブを纏っている者はまだ子供だと見受けられます! 本当に学院長と同等以上の実力があるのでしょうか?』

『私の言葉が信じられないと?』

『はっきりと言えば、その通りです』


 風魔法で声を拡散させるマリリエル。

 顔にはおかしな笑みを浮かべているし、絶対今の状況を楽しんでやがる。


『……いいだろう。ナックルがそこまで言うのなら、この場でこの者の実力をお見せしよう! 今から第三席ナックルと、白いローブ所持者によるデモンストレーションを行う!』


 俺の同意もなしに、マリリエルは俺とこの赤いローブのデモンストレーションを宣言した。


 ……嫌な予感というものは、高い確率で当たるものだ。


 誤字報告、ありがとうございます。

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