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才能に愛されし者  作者: きんめ
第二章 魔法学院編
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閑話 とあるメイドの話

 私はウィンデール王国の王城に勤めているメイドです。

 名前は……まあいいでしょう。

 所詮大勢のいるメイドの中の一人ですから、覚えていただく必要はありません。


 王城に勤めることができるメイドというのは、ほんの一握りの優秀なメイドです。

 ですがある時、小さくて痩せこけている一人の少女が私達の同僚になりました。


 その少女の名はアミー。

 最近ウィンデール王国の景気を上げているタミーシャの街から連れてこられたそうです。

 ……どうしてこんなにボロボロなのでしょうか?


 

 気になった私は、メイド長のリーラ様にお話を伺いに行きました。


「アミーは違法奴隷として働かせられていました。ですが、奇跡的に労働所から抜け出せたらしく、死にかけているところをルナ様が発見され、ルナ様とショーン様のご温情で城仕えのメイドとして雇うことになったのです」


 違法奴隷!?

 だからあんなにボロボロで痩せこけていたんだ……。

 奇跡的に抜け出せてよかったわ。


 

 

 アミーが来てから数日が経ち――

 お城の内部の豪華さに悲鳴を上げたり、メイド長のしごきのキツさに悲鳴を上げたり、最初のうちは悲鳴ばかり上げていたアミーでしたが、器量がいいようですぐにある程度の仕事はこなせるようになりました。


 そして、この数日で面白いことがわかりました。

 どうやらアミーはルナ様に恋をしているようなのです。


 ルナ様とは、このウィンデール王国の王子、ルナ・ウィンデール様のことです。

 腰まで伸びている銀髪、蒼色の目に透き通るような白い肌。

 国王様、王妃様の良いところのみを合わせたような絶世の美男子。


 はっきり言います。

 惚れないわけがない。

 

 私もアミーと同じくらいの年だったら間違いなく一目惚れしているでしょう。

 ええ、間違いありません。


 ですが、私達は所詮メイド。

 王子様のお手が付くことなんて、万に一つくらいしか可能性はありません。

 それでもアミーは本気なようです。

 

 ……私は少しアミーの背中を押してあげたくなりました。




「……副メイド長。それ、本当なんですか?」

「ええ、本当よ。殿方は胸の大きな女性を好む傾向があるわ」


 夜、ほぼすべての仕事を終えた私は、アミーの部屋の押し入り、私の持っている様々な知識を叩きこもうとしていました。

 

「そして、こうすれば胸は大きくなる」


 二の腕のお肉を胸の側に流します。

 一回、二回、三回と。

 私はこのストレッチを始めてから、胸が大きくなりました。

 自慢ではないですが、私の胸は一般の女性達と比べてもかなり大きいと思うのです。


「この胸が大きくなれば……」

「ルナ様のお手が付く可能性が高くなるかもしれないわ」


 女性の魅力が胸だけとは言わないけれど、魅力の一つであるのは間違いない。

 今はまだアミーの胸はぺったんこだけど、五年もすればそこそこ大きくなるんじゃないだろうか。

 

「まあ、じっくりと続けていれば成果は出るはずよ」

「胸が大きくなれば……」


 アミーはぺったんこの胸をさすりながら、ぶつぶつ独り言を言っている。


「あたし、頑張ります!」


 アミーは早速、私が教えたストレッチをやり始めました。

 だけどアミー、あなた胸に流すほど二の腕にお肉ついてないじゃない……。






 今日、城内に激震が走りました。


 

 ―――王妃様、ご懐妊。



 城内はお祭り騒ぎ。

 ですが、一番騒いでいたのは国王様でしょうか。

 国王様は城内を目にもとまらぬ速さでを走り回っていたのです。


 私達メイドは王妃様の体調管理や周囲の環境への配慮など、少し仕事が増えましたが何の問題もありません。

 元気なお子が生まれてくるのを心待ちにするばかりです。

 

 


 この頃、ルナ様が戦闘訓練を始められました。

 ルナ様に手ほどきをしているのは我らがメイド長。

 城内でも知っている者は僅かなのですが、メイド長は剣聖の異名を持つSランク冒険者です。


 メイド長の訓練は熾烈を極めていました。

 ルナ様はメイド長の攻撃を防ぎそこない、何度も地面を転がっています。


 まだ五歳の子にここまでする? という気持ちを抑え、私は訓練をずっと眺める。

 ルナ様は何度地面に転がされても、メイド長に立ち向かって行きます。

 

「まだまだっ!」


 ボロボロになりながらも、ルナ様の瞳には闘志が宿っています。

 アミーが落ちるのも無理ありませんね。

 私もあと二十歳若かったら……。



 

 最近、ルナ様はよくメイド長と王都から少し離れた森に行っています。

 あの森には危険度が低い魔物が生息しているので、魔物の討伐訓練でもしているのでしょう。


 夕方、日が沈み始めます。

 ですがこの日はいつもと違うことがありました。


「えっ……」


 後輩のメイドが西の空を見上げて見上げて声を上げました。

 私もつられて空を見上げます。


「……っ!」


 この日見た光景を、私は一生な忘れないでしょう。

 

 何せ―――()()()()()()のですから。






「副メイド長……」


 シンディ様が誕生されてから四年。

 今やルナ様の専属メイドになったアミーが私の部屋を訪ねてきました。

 アミーは私の伝授したストレッチを毎日欠かさず行っているようで、胸は十歳とは思えないほど育っています。


「どうしたの?」


 もうアミーは私の娘のようなものです。

 そんなアミーが、どうしてか浮かない顔をしています。


「シンディ様が……()()と婚約した……」

「なっ!?」

 

 ルナ様とシンディ様が婚約!?

 

「それ、本当なの?」

「……本人から聞きました」


 不味いわね。

 あまり知られていないけれど、ルナ様にはもう一人婚約者がいる。

 そこに二人目となると……。

 

 ルナ様の性格を考えると、今後積極的に婚約者を増やそうとはしないでしょう。

 これからは、時間が経てば経つほどアミーにルナ様のお手が付く可能性は低くなる。


 そこで私は、アミーに一つの提案をすることにした。


「アミー。アミーは本気なんだね?」

「何の……」

「アミーは本気でルナ様のことを愛しているのよね?」

「ッ……はい……」

「なら……」


 ―――夜這いをかけなさい。


「失敗したらどうなるかわからない。でも今勝負をかけないと、アミーの想いは届かなくなる」

「……やります。……私、やってきます!」

「わかったわ。じゃあ、先ずは服を着替えなさい。メイド服じゃアミーの良さが隠れちゃうわ。私のをあげるから」


 クローゼットからネグリジェを出して、アミーに渡す。

 胸元が大きく空いたもので、アミーの魅力を際立たせてくれるはず。


「アミー、行ってきなさい!」

「はい!」




 ―――翌日。


「遂に! 遂にルナとアミーが結ばれたわよ~!」


 大声を出しながら、王妃様が城内を駆け回っていました。

 

 どうやらアミーの夜這いは成功したようね。

 

 この日から数日の間、城内の使用人達の興奮はおさまることがありませんでした。

 私達の間では、アミーがルナ様に想いを寄せていたことは周知の事実だったからです。

 かく言う私も、仕事をほっぽり出して同僚達と騒ぎまくりました。

 後からメイド長の鉄槌が下されることになっても、後悔はありません。


 アミー、おめでとう!


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