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才能に愛されし者  作者: きんめ
第二章 魔法学院編
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学院長のスカウト

 マリリエル・レクシス。

 レクシス魔法学院の学院長にして、魔女の異名を持つ女性だ。

 世界中に数人しかいないSランク冒険者でもある。


「何故魔女がウィンデールに?」

「何故って、私はレクシス魔法学院の学院長でもある。学院長自らスカウトに来るのはおかしいかい?」


 疑問に思い聞いてみると、マリリエルから納得できる返答が返ってきた。

 だが、気になる単語が一つ。

 スカウトだって?


「俺を迎えに来たんじゃなかったのか?」

「迎えに……? ああ、最初はそのつもりだったわね」


 最初はそのつもりだった?

 

「じゃあ今は?」

「言ったでしょ。スカウトだって」


 ……全く話が見えてこない。

 何が言いたいんだ?


「ルナ王子、あなたをレクシス魔法学院の教師として迎え入れたい」

『…………』


 マリリエルの放った言葉は、謁見の間に沈黙をもたらした。


「マリリエル……どういうことだ?」


 しばしの沈黙の後、父様が絞り出すように声を出す。

 父様も大いに驚いているようだ。


「だからスカウトだって言ってるじゃない。炎帝も耄碌したものね」

「そんな冗談はいらん。ルナをレクシス魔法学院の教師として迎え入れいれたいだと?」

「そうよ」

「何故そうなる!?」


 突拍子もないマリリエルの発言に、父様が鋭いツッコミを入れる。


「だって、もう()()じゃない。下手をしたら()()()()……」


 マリリエルの言葉に、父様、近衛騎士達も首を縦に振る。

 まあ、あの鬼畜(リーラ)にみっちりと仕込まれたからな。


「それで……ルナ王子、返事を聞かせてくれる?」


 返事って言われてもな……。

 どう答えればいいのかわからない俺は、父様に助けを求める。


「父様……」

「教師……人との関わり方を学ぶにはもってこいだな。マリリエル、ルナのことをよろしく頼む」

「父様!?」


 予想外だ。

 まさか父様がマリリエルの提案を受け入れるなんて。


「いいではないか。ルナは基本城内にいる者としか関わりがない。だが、王になるのであれば当然のように他人とも関わらなければならない。他人との関わり方を学ぶ上で、教師というのはもってこいだと思うのだ」


 確かに。

 教師というのは嫌でも他人と関わらなければならない職業だ。

 

「ですが父様、俺はまだ十歳ですよ?」

「問題ない。レクシス魔法学院は実力主義の学院だからな。年なんて関係ない」


 正論を返され、俺は何も言えなくなる。


「多くを知り、多くを学んできなさい。これは王命である」


 王命。

 王の命令だ。

 王の命令はたとえ王子でも逆らうことができない。

 よって、俺はマリリエルからの誘いを受けなければならない。


「マリリエル学院長、そのお誘い、お受けいたします」


 俺の返答を聴いたマリリエルは、嬉しそうに頬を緩めた。






 謁見の間でのあれこれが終わったので、俺は近衛騎士団の訓練場にやって来た。

 目の前には十人ほどの近衛騎士が様々な武器を構えて立っている。


「シンディのこと脅かしやがって、覚悟はできてるんだろうな?」


 こいつらはシンディのことを脅かした。

 許されないことをしたのだ。


「ルナ様、謁見の間で殺気を放つのは近衛騎士の決まり事なのです。その点をご理解いただけると嬉しいのですが……」

「問答無用!」


 俺は身体強化を発動させ、無手のまま近衛騎士達に突っこんでいく。


「今日こそは一太刀浴びせてみせるぞ!」

『おおっ!!』


 掛け声を上げた近衛騎士達が散開する。

 いや、一人だけ動かずにその場にとどまっている。


「王子! 今日こそは!」


 筋骨隆々ノ騎士が大剣を横なぎに一閃する。

 近衛騎士というだけあって、なかなか鋭い一撃だが……


 俺は身をかがめることで大剣を回避する。

 そして身をかがめた勢いをそのままに騎士の懐まで潜り込むと、リーラ直伝の体術を発動させる。


「発勁!」


 騎士の胸元に手を当て、そのまま掌から魔力を放出する。


「グハッ!」


 筋骨隆々の近衛騎士が弧を描きながら飛んでいく。

 発勁は魔力を相手の体内に叩きつけるという技だ。


「見事……」


 数メートルほど飛ばされた筋骨隆々の近衛騎士は一言だけ呟くと、白目をむいて意識を失った。


「副団長がやられたぞ!」


 筋骨隆々の近衛騎士が動かなくなり、それを見た近衛騎士が叫ぶ。


「「王子! ご覚悟!」」


 今度は二人の槍使いが同時に槍を突き出してきた。

 俺は半身になることでその攻撃を回避する。


「「なっ!?」」


 二人の近衛騎士の顔が驚愕に彩られる。

 

 一瞬の硬直。

 俺はその隙を見逃さず、この二人にも発勁を発動させる。


「こんなの俺達いらねえじゃ……」


 二人のうちの一人が、そんな言葉を漏らし意識を途絶えさえた。

 もう一人は言葉を発することもなく気絶している。


 

 その後も次々と近衛騎士達の意識を刈り取った俺は、最後の一人と向かい合っていた。


「王子……目が怖いです……」

「そうか?」


 俺の目の前にいるのは、とても気が弱そうな青年だ。

 青年の手には、青年の背丈を超えるほどの大太刀が握られている。


「往くぞ」


 俺は地を蹴って青年に向かって駆け出す。

 その瞬間――青年が笑った。


 青年が大太刀を捨て、両手をだらりと下げる。


()()! 俺達の仇を!」


 先ほど戦闘不能にさせたはずの槍使いが叫ぶ。

 どうやら意識を取り戻したみたいだ。


「はっ!」


 青年が俺に足払いを仕掛けてくる。

 ほかの近衛騎士とは比べ物にならない速度の攻撃だ。


 だが、俺は青年の足を蹴り返すことによって足払いを止めた。

 

「くっ……」


 青年の顔が苦痛に歪む。

 今ので骨に罅くらいは入ったかな。


 それでも青年が動きを止めたのは一瞬だけだった。

 青年は俺の顎めがけてアッパーを放ってくる。

 動きも最小限で無駄のないアッパーだ。


『団長ーー!!』


 近衛騎士達の声援が青年を後押しする。


 俺はそのアッパーが顎に直撃する瞬間、アッパーと同じ速度で体を後方に回転させた。

 そして、回転の途中で青年の顎を蹴り上げる。


 青年の身体が宙に浮き、そのまま地面に背を付ける。

 俺はバランスを崩さず、華麗に着地して見せた。


「相変わらず強すぎですよ……これ、僕達いらないんじゃないですか?」

「馬鹿言え。お前らがいなくなったら誰が使用人達を守るんだ」

「僕達が守るのは王族の方々なんですけどね……」


 起き上がった青年と言葉を交わす。

 俺の攻撃を食らっても意識を失わない。

 さすが近衛騎士団長と言ったところか。


 

 パチ、パチ、パチと、手を叩きながら誰かが近づいてくる。


「さすがだね、ルナ王子。私の目に狂いはなかった」

「ありがとうございます。マリリエル学院長」


 俺に賛辞を送りながら近づいてきたのは、レクシス魔法学院の学院長であるマリリエルだった。


「それじゃ、行きましょうか」


 ……何処へ?


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