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才能に愛されし者  作者: きんめ
第二章 魔法学院編
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意外な人物

 あの日から数日が経過した。

 騒がしかった城内も落ち着きを取り戻しつつある。

 

 ここ数日、なぜ城内が騒がしかったのかというと、俺とアミーが結ばれたということが城内に知れ渡った

からだ。

 アミーが俺に想いを寄せているのは、城内の使用人達の間では有名なことだったらしい。

 だが、アミーはメイドで俺は王子。

 アミーの想いが成就する確率は限りなく低かった。


 それでもアミーはその想いを成就させた。

 アミーが城に使えるようになった理由を知る者は少ない。

 だが、その理由を知っている者からすれば、今回の件は騒がずにはいられないほどの出来事だったようだ。


 何せ五年だ。

 大抵の人間は、五年も一人の人間に想いを向けていられないだろう。

 だが、アミーは五年間も俺のことを想い続け、遂には俺と結ばれた。

 

 この事実が城内に知れ渡ってしまったため、この数日間、城内はずっと騒がしかったというわけだ。

 まあ、城内にこのことを広めたのは母様なのだが。


 

 今日は、レクシス魔法学院から俺を迎えに来る一団がウィンデールに到着する日だ。

 だが、迎えが到着するということは、俺がウィンデールを出立する日が近いということでもある。


 それを知ってか知らずか、ベッドで横になっている俺のお腹の上には、現在シンディが乗っかっている。


「やぁだ……行かないで……」


 ……俺がもうすぐいなくなるとわかっているみたいだ。


「シンディ、庭園へ行こうか」


 シンディの頭を撫でながら、俺はそう提案する。

 

「……なんでー?」

「俺が今、庭園に行きたいからだよ」

「わかった。なら、わたしも行く」


 シンディが俺のお腹から降りる。

 シンディ程度の重さなら苦しくもなんともないのだが、態勢を変えられないのが辛かった。

 ようやく動けるようになったので、ベッドから起き上がり、ちゃちゃっと着替えを済ます。


 シンディも着替えのために部屋へ戻っていった。

 さっきまではシンディがいたので寂しくなかったのだが、部屋に一人きりだと少し孤独を感じる。

 

「三日後……か」


 三日後。

 魔法国家ピランジェへ出立するまでの日数だ。

 この三日間、精一杯シンディにかまってやらないとな。 

 

 俺はこれからの行動指針を固め、部屋の外へと踏み出した。






「おにーさま、あれなーに?」


 シンディが真っ赤な花を指差す。


「あれはメシアの花だよ」

「これはー?」


 今度は黄色の花を指差す。


「これはベリルの花だ」


 シンディを連れて庭園にやって来た俺は、シンディの質問攻めに遭っていた。

 そして、シンディは今俺の腕に抱き着いている。

 窮屈だが、精一杯かまってやると決めた以上は弱音は吐きたくない。


 シンディを連れたまま、無駄に広い庭園を歩き回る。

 庭園には色とりどりの様々な花が咲いていて、どこを見ても飽きることがない。

 

 俺はこの城の庭園が好きだ。

 毎日庭師が管理している花々は、いつ見ても生き生きしている。

 いつ見ても生き生きしているということは、手を抜くことなく仕事に励んでいるということだ。


「おにーさまは物知りね!」

「まあ……そうだな」


 俺がシンディにどんな質問をされても答えられる理由。

 それは、様々な分野の情報を無理やり覚えさせられからだ。

 あの鬼畜(リーラ)に。


 だが、こうやってシンディの質問に答えられている現状を考えると、恨み言ばかり言っているのも悪い気がするな。

 



「ルナ様」


 どこからともなく現れたリーラに声をかけられる。

 相変わらずの神出鬼没ぶりだ。


「……来たのか?」

「はい」


 俺の問いをリーラが肯定する。

 どうやらレクシス魔法学院の一団が到着したようだ。


「行っちゃうの……?」

「まだ行かないさ」


 半泣きのシンディ聞かれ、俺は諭すように答える。

 だが、これから俺は謁見の間へ向かわなければならない。

 シンディも連れて行っていいのだろうか?


 気になってリーラの顔をちらりと見ると、リーラは俺の意図を読み取ったようで小さく頷く。

 シンディも連れて行っていいみたいだ。


「シンディ、俺は今から着替えなきゃいけないからシンディもリーラに着替えさせてもらいな」

「えぇー! わたしもっとおにーさまと一緒にいたい!」

「仕方がありませんね……」


 駄々をこねるシンディを、リーラがひょいっと担いでどこかへ連れて行った。

 俺達兄妹にあんなことができるのはリーラだけだろう。


 俺も服装を改めるために、自室に戻ることにした。






 謁見の間。

 他国の人間が父様に謁見する時に使う場所だ。

 決して広くはないが、狭くもない。

 それでも、優に百人は入ることができるだろう。

 謁見の間の両サイドには近衛騎士達が等間隔で並んでいる。

 騎士達の表情は仮面で隠れていてわからないが、ピリッとした緊張感が伝わってくる。


 謁見の間の最奥の玉座には父様が座っている。

 やはり、というべきか、父様の座っている玉座には様々な宝石がちりばめられているのだが、父様がそれを気にしている様子はない。

 きっと座り慣れているのだろう。


 そして、俺はというと……その玉座の真横に座っていた。

 俺が座っている椅子も、父様の玉座には遠く及ばないだろうが相当高級なものだ。

 

 最後に、シンディはというと……。

 

「えへへぇ……」


 俺の膝の上に座って、後頭部を俺の胸のあたりにこすりつけていた。

 何の意味があるのかはわからないが、シンディは気持ちよさそうにしているので放置していてもいいだろう。


「入場いたします!」


 謁見の間の大扉の反対側から大きな声が聞こえる。

 その声が聞こえた途端、謁見の間の空気が一変した。

 騎士達が若干の殺気を放ったのだ。


「ヒッ……」


 騎士達の殺気に驚いたシンディが小さな悲鳴を上げる。

 こいつら……シンディのこと脅かしやがって。

 あとで全員シメてやろう。


 そんなことを考えながら、俺は魔力をシンディの纏わせてやる。

 これでシンディは大丈夫なはずだ。 


「おにーさま、ありがとっ!」


 シンディが態勢を変えて俺の顔を見ながら礼を言う。

 シンディはまだ魔力云々わからないはずだが……感覚的にわかったのかもしれないな。

 俺はシンディの頭をそっと撫でた。



 ギイィ、という音を立てながら、大扉が開いていく。

 扉が完全に開ききると、一人の女性が背筋を伸ばしながら謁見の間に入ってきた。


 その女性は玉座まで十メートルほどの場所で立ち止まり、(こうべ)を垂れ、片膝をつく。


「……面を上げよ」


 父様の指示に従い、女性が顔を上げる。


「……これはまた……驚いたな。何故マリリエルがここにいるのだ?」


 女性の顔を見た父様がにやりと笑う。

 こんな父様の顔は見たことがない。

 父様の笑顔は、まるで友人に向けるかのような笑みだった。


「いや、少し暇ができたのでね」


 女性の方も、軽い口調で父様に言葉を返す。


「父様……この女性は一体……」


 気になったので、父様に小声で聞いてみる。

 すると、父様の口からは俺が予想していた斜め上の答えが返ってきた。


「ああ、彼女はマリリエル・レクシス。レクシス魔法学院の学院長だ」

 

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