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才能に愛されし者  作者: きんめ
第二章 魔法学院編
29/69

情事

 翌朝、俺は小鳥のさえずりで目を覚ます。

 大窓から日差しが差し込んでいるのを見る限り、いつもより遅い時間に起きてしまったようだ。


「すぅ……」


 隣で寝息を立てているアミーに目を向ける。

 普段のアミーは昔と違い無表情で仕事をしていることが多いのだが、今はそんな様子を微塵も感じさせない年相応の顔で毛布にくるまっている。


 柔らかいアミーの髪を、さらりと撫でる。

 シャンプーのいい香りが俺の周りに漂う。


「……おはよう」


 寝ているアミーの耳元で囁く。

 すると、寝ていたはずのアミーがうっすらと目を開けた。


「……おはよう、ルナ」


 俺とアミーは、お互いベッドの上で横になっている。

 それ故に、俺達の顔はすぐ近くにある。


 再び、アミーが目を瞑る。

 これは……シンディと一緒だな。


 俺は顔を更に近付け、アミーに唇を重ねる。

 

「んっ……」


 アミーの口から艶めかしい声が漏れる。

 俺は時空間魔法で、この部屋に強固な結界を張り巡らす。

 何人も踏み込めぬ空間の中で、俺とアミーは甘いをひと時過ごした。






 数時間後、俺はシャワーを浴び、汗を流していた。


 目覚めてまだ間もないのに、どうして汗をかいたのか。

 それは、まぁ……致したからだ。

 何を、とは聞かないでほしい。



 時間が過ぎるのは早いもので、空には太陽が天高く浮かんでいる。

 アミーは仕事があるからと言って、もう部屋を出ていった。


 俺は今、父様の執務室へと向かっている。

 数日中に魔法国家ピランジェから……正確には、レクシス魔法学院から俺の迎えが来るらしい。

 今日はその打ち合わせ、といった感じだ。


 見慣れた景色を視界に収めながら、大理石で作られた廊下を歩いて行く。

 途中、朝とは違いメイド服に着替えたアミーが目に入った。

 何やら、空を見上げてボーっとしている。


 俺は気づかれないように、ゆっくりと背後からアミーに近づいていく。

 そしてアミーの背後まで到達した俺は、そっとアミーを抱きしめた。


「……どうした?」


 そのまま、どこか上の空のアミーに声をかける。


「……夢……」

「ん?」

「私、今夢を見てるんじゃないかって……」


 そう言って、アミーは胸の内を語り始めた。


「だって、私メイドなんだよ。私みたいなメイドが王子様に恋をして、しかも寵愛まで受けて――っ」


 俺はアミーの言葉を遮り、強引に唇を奪った。

 しばらく唇を重ねあった後、俺はアミーの目をしっかりと見据える。

 

「アミーは俺の女だ。これは夢でも何でもない。現実だ」


 はっきりと、断言してやる。

 これは夢なんかじゃない。

 現実なんだ。


 アミーが落ち着くまで、俺はアミーの隣で空を眺めることにした。

 廊下の窓から見える空は、雲一つ見えない快晴だ。

 庭ではメイド達が洗濯物を干している。

 この天気なら、すぐに洗濯物は乾くだろう。

 

「……ありがとう」


 俺と同じく空を見上げていたアミーが、小さな声で呟いた。






 アミーと別れた俺は、父様の執務室でレクシス魔法学院についての情報を教えてもらっていた。


「つまり、レクシス魔法学院は完全な実力主義の学院だと?」

「そうだ」


 俺の問いを、父様が肯定する。

 レクシス魔法学院は結果がすべての実力主義な学院だという。

 実力主義とは、年齢・性別・身分などによらず、実際の能力や試験の結果を重視して評価を決める考え方だ。

 これは、前世での社会の成り立ちそのものだ。


「ルナなら何の問題もないと思うがな」


 父様が紅色の髪を掻き上げながら言う。

 

「まあ……そうですね」


 俺も父様と同じ意見だ。

 自分で言うのは少し恥ずかしいのだが、生まれた時からリーラにしごかれてきた俺ならば……まあ大丈夫だろう。


「そういえばルナ、少し雰囲気が変わったか?」


 突然の質問に、思わず身体が硬直する。


「そう……ですか?」

「ああ。何というか……大人っぽくなったな」


 大人っぽくなった……か。

 これは間違いなく朝の出来事が関係しているだろうが、父様に報告するようなことでもあるまい。


 そう考え、やり過ごそうとするのだが……


「ショーン! ようやくルナ様がアミーに手を出したそうですよ!」


 若干興奮した様子で部屋に入ってきたリーラが父様の前で爆弾を投下した。

 リーラの後ろには、顔を真っ赤にしたアミーが立っている。


「なるほど、道理で……」


 何かを納得した表情の父様が何度か首を縦に振る。


「して、アミ―よ。ルナは()()であった?」

「ちょっ!」


 何の動揺もなく、父様がアミーに声をかけた。


 ちょっと父様!

 息子の情事に首を突っ込まないでくださいっ!

 ……という俺の思いが届くわけもなく……


「とても優しくて……いっぱい愛していただきました」


 しおらしい顔で、アミーが先に答えてしまった。

 俺は思わず、両手で顔を覆う。

 恐らく、俺の顔は父様の紅色の髪より赤い。


「そうか……さて、早速フーリにも教えてやらんとな」


 そんなことを言いながら、父様が立ち上がった。

 

「やめてください!」


 俺は全力でそれを阻止しようとする。

 経験上、母様にこのことが伝わったら絶対面倒なことになるからだ。

 だが、俺の奮闘も虚しく……


「えっ? 何の話ー?」


 タイミングがいいのか悪いのか。

 何かあるごとに姿を現す母様がまた現れた。


「フーリ、ルナがようやく大人になったぞ!」


 いずれ知られるのはわかっていたが、まさかこんなに早く伝わるとは思ってもみなかった。

 父様の言葉を聞いた母様の体が、プルプルと震えだす。


「母様……?」


 その様子が気になり、声をかけてみると……


「ようやく……やったわね! アミー! おめでとう!」


 母様が全力でアミーに抱き着いた。

 抱き着かれたアミーは「はい……はい……」と言いながら、涙を流している。


 その光景は、まるで母が子を抱きしめているかのような光景だ。


「ルナ!」


 母様が大声で俺のことを呼んだ。

 今までに聞いたことがないくらいの大声だ。


「アミーのこと……絶対に幸せにしなさいよ」

「絶対に幸せにします」


 全員が見ている中で、俺は母様に誓った。

 俺の返事を聞いた母様は、満足そうに頷く。


 


 この日、城内に衝撃が走った。


 ―――アミーが遂に、ルナ様を落とした……と。


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