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才能に愛されし者  作者: きんめ
第二章 魔法学院編
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思い定める

 何処までも本気だと理解させられる、真剣な眼差し。

 アミーは瞬きもせず、俺の目をずっと見つめている。


 アミーの好意は素直に嬉しい。

 俺は最早アミーがいなければ生活できないだろう。

 それくらい依存している。

 だが、俺とアミーは王子とメイドの主従関係にあるのだ。


「分かってる。私は()()()やシンディ様ほど可愛くないし、ルナに釣り合うほどの身分もない。でも……それでも! 私はルナのことが好きなのっ!!」


 それは、アミーの魂の叫び。

 不退転の覚悟を持った告白。

 

 たかがメイドが、王子に恋をする。

 傍から見れば、何の冗談かと思う者もいるだろう。

 嘲笑う者もいるだろう。


 それでもアミーは意を決して、俺に告白してきた。

 変化を恐れず、前へ進むために。

 

 それに比べて俺はどうだ?

 未だに返事をしていない。

 この関係が壊れるのが怖い。

 ……本当に情けない。



 ―――何故悩む必要があるの?


 ……またこの声だ。

 いつからか俺に話しかけてくるようになった、謎の声。

 幼い少年の声だ。

 

(何故かって、こんなこと俺の一存で決められることじゃないだろ)


 ―――なんで決められないの?


(俺は一国の王子だぞ。そうやすやすとこういうことは決められない)


 ―――ルナの人生なのに?


 ッッ!!

 ……そうだ。

 これはほかの誰でもない。

 俺の人生だ。

 

 ―――ほら、アミーの顔を見てみなよ。


 少年の声を聞き、アミーの顔を見る。

 いつの間にかアミーは目を瞑っており、その身体は微かに震えていた。


 ―――アミーだって、この関係が変わるのが怖いんだよ。それでも意を決して告白してきたのは何故だと思う?


(それは……)


 ―――ルナのことが好きだからだよ。ルナは王子だ。だけど王子がなに? 誰がルナの人生を決めるの?


 誰が俺の人生を決めるか?

 そんなの――


(俺に決まってるじゃねえかっ!)



「アミ―」


 目の前で目を瞑って震えているアミーに呼びかける。


「……なに?」

「本当にすまなかった。俺はバカだ。王子とメイドの主従関係がどうのこうのと、くだらない理屈を並べてアミーを拒絶するところだった」


 俺の言葉を聞いたアミーの目から、涙が零れ落ちる。


「王子が何だ? メイドが何だ? 決めるのは、俺だ」


 俺はアミーを強引に胸元に抱き寄せる。

 アミーは一切の抵抗をせずに、俺の胸元に収まった。


「俺も好きだ」


 ただ一言。

 シンプルに、偽りなく俺の気持ちを伝える。


 俺の言葉聞いたアミーは、顔を上げ、何か信じられないものを見たと言わんばかりに目を見開いていた。


「う……そ……」

「何が嘘なんだ?」

「だって……私、メイド……だよ?」

「それがどうした」

「本当に……こんなことがあっていいのかな?」


 アミーの目には、今にもあふれ出しそうなほど涙が溜まっている。

 

「私、元は平民で、死んじゃいそうなところをルナとメイド長に拾ってもらって、その上城仕えのメイドにまでさせてもらって、今はルナ専属のメイドまでやらせてもらって……」

「……」

「ダメだって、言われると思ってた。叶わないと思ってた」

「叶ったぞ」

「うん……うんっ!」


 アミーは俺の胸に顔をうずめ、大声で泣きだした。


 叶うはずがない。

 そう思っていたに違いない。

 王子だから、メイドだからと。

 

 事実、俺もあの声が聞こえるまではアミーの気持ちを拒絶しようとしていた。

 

「誰が俺の人生を決めるの……か」


 あれがなければ、俺はきっと後悔が残る選択をしていただろう。

 またいつ話しかけてくるかわからないけど、次にあいつ出てきたら礼を言おう。

 心の中で、そう呟く。

 

 俺は胸の中で泣き続けるアミーが落ち着くまで、ずっと頭を撫でていた。


 

 

 

 

 叶うはずがない。

 そう思っていた。


 私がルナに告白しようと決めたのは、シンディ様がルナと婚約をすると聞いた時だった。

 ルナの性格を考えると、これ以上妾を増やすということは積極的にはしないだろう。

 それでも、ルナの周りには多くの女性が集まると私は確信していた。


 ルナには婚約者が一人いる。

 セドナという人魚の国の王女だ。

 それに加えて、今日はシンディ様と婚約した。

 二人とも王女。

 ルナとも釣り合う身分の持ち主だ。


 それに比べて、私はどうだろうか?

 だかが一介のメイド。

 とてもではないけど、ルナに釣り合うような身分じゃない。


 これからルナの周りに集まってくる女性達は、多分ルナに釣り合う身分の持ち主だ。

 そうなったら、私はルナの近くにいられなくなる。


 私の気持ちを伝えるのは今しかない。

 そう思い、私は意を決して夜にルナの部屋に乗り込んだ。



「私はルナのことが好きなのっ!!」


 紛うことなき、私の本音。

 でも、私はメイドでルナは王子。

 振られるってことは分かってる。

 それでもこの言葉だけは伝えておきたかった。


「アミ―」


 きたっ!

 覚悟はしていたけど、やっぱり怖いなぁ……。

 

 名前を呼ばれた私は、ゆっくりと目を開ける。

 

「……なに?」

「本当にすまなかった。俺はバカだ。王子とメイドの主従関係がどうのこうのと、くだらない理屈を並べてアミーを拒絶するところだった」


 何を……言ってるの?

 

「王子が何だ? メイドが何だ? 決めるのは、俺だ」


 その後ルナが言った言葉は、私が聴けるはずのない、だけど最も聴きたかった言葉だった。

 

「俺も好きだ」


 諦めていた。

 叶うはずがないと。

 でも、私の気持ちはルナに届いた。


 ポロポロと、涙が零れ落ちていく。

 だけどこの涙は、決して悲しい涙じゃない。

 私はルナの胸の中で、意識がなくなるまで涙を流し続けた。


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