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才能に愛されし者  作者: きんめ
第一章 幼少期編
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新たな命

「ほらほら~」


 母様の間の抜けた声が訓練場に響き渡る。

 俺は母様が放った無数のウォーターボールを回避しながら、身体強化を発動させ母様との間合いを詰めようとするが……


「っ!?」


 母様が発動させた地魔法のマッドカーペットに気づかず、足を取られてしまう。

 

「くそっ……」


 勢い良く足を引き抜き、一旦態勢を整えるためにアースウォールを発動させる。

 すると、俺の三メートルほど前に岩の壁が形成された。


「えいっ!」


 だが、母様は瞬時にウォーターランスを発動させる。

 母様から放たれたウォーターランスは、容易に岩の壁を貫く。


『風刃』


 俺に向かって飛んできているウォーターランスを風の刃が切り刻み、消滅させる。

 ウォーターランスを切り刻んだ勢いをそのままに、風刃が母様に向かって飛んでいく。


『炎刃、水刃、岩刃』


 俺はさらに三属性の魔法の刃を作り出し、母様に放つ。

 だが次の瞬間―――


「おーわりっ!」


 ―――俺の背後には、母様と数種類の魔法が浮かんでいた。


「負けました……」

「いえぃっ!」


 俺が敗北を宣言すると、浮かんでいた魔法が姿を消す。

 それと同時に、母様が後ろから俺を抱きしめた。


「強くなったね! 昨日よりも魔法の発動が早くなってる!」

「そうですか? 母様が魔法を発動させるのが早すぎて皮肉にしか聞こえません」


 俺が魔法を一つ発動させる頃には、母様は魔法を二つ魔法を発動させている。

 魔力の変換がめちゃくちゃ早いのだ。

 俺も無詠唱を使えるのだが、同じ無詠唱でも母様は魔法を発動させるのが早すぎる。


「そうかな?」

 

 母様が唇に指をあてながら首を傾げる。


「まっ、魔法は使えば使うほど発動が早くなるからね。ってことで……」


 そう言いながら、母様が魔力を高めていく。

 相変わらずマイペースだな……。


 母様から距離を取り、魔力を高め、いつでも魔法を発動させられるようにしておく。


「「…………」」


 長い沈黙。

 だが突如、俺と母様は示し合わせたかのように同じ魔法を発動させる。


『『ロックバレット』』


 数多の石礫が俺と母様の間で衝突し、砕けていく。


『ウォーターショット』


 新たに魔法を発動させると、今度は水の礫が母様に向かって飛んでいく。


「効かないよ~」


 母様の周囲に、薄い水の膜が生み出された。

 水の膜が、俺の放った水の礫をすべて吸収する。

 あれは……ウォーターカーテンか!


『ファイアーウェーブ』


 俺の発動させた火魔法が、炎の波のように母様に向かって拡がっていく。


「おっ、いいねぇ~」


 間の抜けた声を出しながら、母様が新たな魔法を発動させた。


『グラビティ』


「ぐっ……」


 押し潰されていく感覚の中、俺はグラビティに抵抗(レジスト)する。


 闇魔法のグラビティは、対象者の重力を何倍にも上げる魔法だ。

 重力は魔力を込める量によって変動するが、今グラビティを発動させているのは母様だ。

 魔力の量も、その扱いもピカイチの母様がグラビティを発動させると――


「……俺の負けです」


 ――訓練場の固い地面に足首が埋まったあたりで、俺は敗北を宣言した。

 

「いてて……」


 限界までグラビティに抵抗(レジスト)したせいで、体中の骨がきしんでいる。

 埋まっている足を何とか引き抜くと、すごい勢いで母様がぶっ飛んできた。


「ルナ、大丈夫!?」

「体中が痛いです……」

「っ!? ごめんね! 今すぐ治すからから……『ハイヒール』」


 母様が治癒魔法を発動させると、温かい何かが俺の全身を包み込む。

 そして、体中の痛みがスッとなくなった。


「まだ痛む……?」


 今にも泣きだしそうな顔で、母様が俺に尋ねる。


「もう大丈夫です。ありがとうございます」


 笑顔で礼を言うと、母様がまた抱き着いてきた。


「グラビティに魔力込めすぎちゃって……」


 申し訳なさそうに母様が頭を掻く。


「母様が魔力を込めすぎるなんて珍しいですね」


 母様は魔力の扱いがとても上手い。

 それこそ、絶技と言ってもいい程だ。

 そんな母様がミスをするなんて珍しい。


「体調でも悪いんですか?」

「うーん。最近ちょっと悪いかも?」

「いや、なんで疑問形なんですか……」


 食事も睡眠も十分とっているはずなんだけど……。


「うぷっ……」


 考え事をしていると、突然母様が口元を抑えて(うずくま)った。


「母様っ!」


 俺は急いで母様の背中をさする。


「誰か! 誰かいないか!」


 母様の背中をさすりながら、大声で叫ぶ。

 俺の声が聞こえたのか、数人のメイドが訓練場に小走りでやって来た。


「どうなさいましたか?」

「見ての通り、母様の様子がおかしい。急いで医者を呼び、母様の容態を見てもらってくれ」

「「「かしこまりました」」」


 メイドの一人が担架を持ってきたので、その担架に母様を寝かせ、メイド達に運ぶように指示する。

 そんな様子に気づいたのか、メイドが一人、また一人と集まり、母様の苦しそうな姿を見たメイド達は迅速に行動を開始する。


「母様……」


 苦しそうにしている母様の手を握りながら、俺はメイド達へ指示を飛ばす。


「父様も呼んで来い! 今の母様の状態を伝えたら来てくれるはずだ!」

「はいっ!」


 俺の指示を受けたメイドが、執務室へ繋がる螺旋階段に走っていく。


「……頼んだぞ」

「「「「「お任せください」」」」」


 母様の部屋に到着し、母様が部屋の中に運ばれていく。

 俺が小さな声で呟くと、メイド達から力強い返事が返ってくる。


「―――どうか、無事でありますように」


 懇願するように、俺は母様の部屋の前で膝をついた。






 翌日、俺は母様の部屋の中にいた。

 部屋の中には、俺と父様、リーラの三人に加え、セドナとカーリーの姿があった。

 母様はベッドの上で横になりながら、ニコニコと微笑んでいる。


「みんな集まってくれてありがとう。それとルナ、昨日は心配かけちゃってごめんね」

「いえ、問題ありません。そんなことより、お体は大丈夫なんですか?」

「そのことなんだけどねぇ……」


 ベッドの上でお腹をさすりながら、母様が囁いた。


「赤ちゃん……できちゃったみたい……」


 小さな声だった。

 だがその声は、部屋の中にいる全員に聞こえた。


「「「「「…………」」」」」


 長い沈黙。

 その沈黙を破ったのは、やはり父様だった。


「……おぉ……おおぉぉぉおおおおお!!!!!」


 椅子から立ち上がった父様が、両こぶしを掲げながら吼える。


「やったなぁぁあああ!!!」


 カーリーは椅子から立ち上がり、母様の手を取って喜んでいる。


「これはこれは……」


 リーラも口元に手を当てている。

 大きく目を見開いているのを見ると、相当驚いているようだ。


「赤ちゃん……?」


 セドナは状況が呑み込めていないようで、翠色の瞳をぱちくりさせている。


 そして、俺はというと――


「…………」


 予想もしていなかった母様の言葉に、息をするのを忘れていた。


 赤ちゃんができた。

 それってつまり―――俺が兄になるってことか?


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