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才能に愛されし者  作者: きんめ
第一章 幼少期編
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月への誓い

 貴族達が大扉から退場していく。 

 俺はその様子を眺めながら、ようやく肩の荷が下りた気がした。


「ご苦労だった、今日はもう休んでいいぞ。あと、明日の朝、執務室へ来るように」

「ありがとうございました」


 俺はお披露目会を開催してくれた父様に礼を言い、会場を後にした。


 

 俺は今、無駄に長い廊下を歩いている。

 大窓から差し込む月の光が俺とセレネを照らしだす。

 相も変わらず、肩にはセレネが留まっている。

 会場では俺の懐に隠れてもらっていたのだが、終わったので出てきてもらった。

 

「主様、どうしてお潰しになられなかったんですか?」

「潰す? 何を?」

「とぼけないでください。主様を目下したような目で見ていた者が何人かいたでしょう」

「そのことか……」


 大勢の貴族の中には、俺のことが気に入らないという態度の奴らが何人かいた。

 セレネが言っているのはそいつらのことだろう。


「無理を言うな。あんなのでもこの国の運営に携わっているんだ」


 俺が気に入らなかった貴族全員を潰してしまったら国が回らなくなる。


「そんなことより今日はもう寝させてくれ。くたくただ」


 強烈な眠気に襲われている。

 腹黒い貴族達を数百人も捌いたのだ。

 前世ならばまだしも今は五歳。

 身体強化を使っていれば体が活性化し眠気も吹き飛ぶのだが、今日は使う理由もない。

 ゆっくり寝たい。


「仕方がありませんね。主様には早く大きくなってもらわないと……」






 翌朝、朝食をとり、父様の執務室へと向かう。

 豪華な扉を二回ノックし、許可が出たので入室する。

 部屋の中には大きなソファーに座っている父様と、その後ろに控えているリーラがいた。


「父様、おはようございます」

「おはよう。まずは座ってくれ」


 俺は父様に促されるままソファーに座る。


「それで……」


 俺は部屋に呼び出された要件を問う。


「ルナに留学の話が来ているんだ」

「留学……ですか」


 俺に留学の話?

 どの国の学院からだ?


「どの国の学院なのか気になるか?」

「……はい」

「魔法国家ピランジェだ」


 魔法国家ピランジェか……。

 魔法国家ピランジェは魔法の研究に力を強く入れており、その軍事力はこの大陸でもトップクラスだ。

 

「なぜ魔法国家にある学院から留学の話が?」

「私とフーリの影響だろうな……」


 父様と母様の影響?


「私には“炎帝”という異名がある。同じくフーリにも“賢者”という異名があるんだよ。その二人の子が優秀でないわけがない、という考えだろうな」


 なるほど……。

 前世でも、親が優れていれば子も優れているという訳の分からない考えがあったな。

 

「いつからですか? 今すぐに、というわけではないでしょう?」

「ルナは本当に(さと)いな。五年後だ」

 

 五年後……十歳か。

 魔法国家からの誘いだ。

 断るわけにはいかないだろう。


「その件ですが、私から一つ、ショーンにお願いが」


 父様の背後に控え、じっと黙っていたリーラが口を開いた。


「なんだ? 申し訳ないが、リーラの同行許可は出せないぞ?」

「はい、それは承知しております」

「では……?」

「私の代わりにアミーの同行許可を頂きたいのです」


 アミーの同行許可?

 いったいどうして……。


「ルナ様の従者としてなら何の問題もなく同行できるしょう。あの子は要領もよく、必ずルナ様のお役に立ちます」

「ふむ……。ルナはそれでいいか?」


 見知らぬ国で一人は心細いし、アミーは明るい子だ。

 一緒にいて不都合になることの方が少ないだろう。

 であれば、答えは一つだ。


「問題ありません。よろしくお願いします」

「わかった。ただ一つ、懸念があるとすれば……」


 懸念?

 

「ライギア帝国の第九皇女も誘いを受けているらしい……」


 ライギア帝国……圧倒的な武力によって周辺の国々を吸収し、あっという間に大国になった国だ。

 

「噂によると、相当わがままな皇女だそうだ」


 わがままな皇女か、絶対関わりたくない。

 帝国の権威を笠に着て、やりたい放題しそうだしな。

 あくまでも噂、ということだが。


「猶予は五年です。これからは武術にも手を出しますよ!」


 いつもは仏頂面のリーラだが、今は珍しく花が咲いたような笑みを浮かべている。


 何故だろう?

 悪い予感しかしない……。


「リーラは“剣聖”の異名を持っている。その剣聖から武術の指導を受けられるなんて光栄だな」

 

 父様が言葉とは裏腹に憐みの視線を俺に送る。

 絶対光栄なんて思っていないだろう。


 というか、剣聖?

 

「父様、剣聖って、吟遊詩人の歌にも登場するあの剣聖ですか?」

「その剣聖だよ」


 そうか……。

 俺は十歳まで生きていられるのだろうか?

 吟遊詩人の歌に出てくる剣聖は、最強の魔物であるドラゴンを一人で討伐したという。

 それも無傷で。

 その剣聖がリーラだったなんて……。


 あぁ、リーラの雰囲気がいつにも増して鋭い気がする。

 これまでよりも、もっとハードな教育を受けさせられる予感が……。

 

「主様のお父様、私はもちろん付いて行っていいのですよね? ダメと言われても付いて行きますけど」


 俺の肩に留まっているセレネが父様に問う。

 ダメと言われても付いて行くって、聞く意味あるのか?


「付いて行くのに関しては何の問題もないのだが、あちらではルナとアミーの前以外では極力喋らないでくれ」

「わかりました」


 セレネが付いてきてくれるなら退屈はしなさそうだな。


「では、早速武術の内容を始めていきましょう。時間は有限ですよ」


 興奮したリーラに手を引っ張られ、執務室を後にする。

 俺の脳裏には、執務室を出る間際に見た父様の憐みの眼差しが焼き付いた。






 夜、リーラのいつもより激しい指導をなんとか乗り切り、夕食、入浴を済ませた俺はバルコニーで涼んでいた。

 

 リーラの武術の指導の内容は、ただひたすらに実戦をして、技は盗むか自分で身に着けろ、みたいな感じだった。

 身体強化も使っていたのだが、如何せん経験が違いすぎる。

 フェイントなどを一切見破れず、ただ打ち込まれるだけだった。

 最後の方にはなんとか防御できるようになったが、反撃などできる気配がない。

 五年間耐えきれるか不安だ……。



 いつものように空を見上げる。


 ああ……なんて月は美しいのだろう。

 

「主様……今宵は良い日です」


 セレネが夜空に飛び立ち、月光をその身に受ける。

 月光に照らされたセレネは、この世のどんなものよりも美しく見えた。


「気分がいいですね」

「……そうだな」


 静寂が訪れる。

 だが、とても心地良い静寂だ。


「主様に一つ、お伝えしたいことが」


 伝えたいこと?


「私は主様を見捨てはしません。たとえ前世がどんなものであったとしても」

「っ……」

「主様は弱者を誰よりも理解していらっしゃる。だからどうか……自分を見失わないでください」


 セレネが澄んだ瞳で俺を見つめる。

 

「……俺はいつも苦汁をなめ続けてきた。だが、それでも自分を見失わなかった。そんな俺が、今更自分を見失うと思うか?」

「いいえ、主様はお強いお方です。それでも絶対、というものはないのです」


 絶対というものはない……か。


「ならば、俺はこの月に誓おう」


 絶対に――自分を見失わないと。


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