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才能に愛されし者  作者: きんめ
第一章 幼少期編
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洗礼

 ゆっくりと目を開ける。

 ベッドから起き上がり、軽く伸びをした後、姿見で自分の姿を確認する。

 姿見に映っているのは、腰まで伸ばした銀髪と蒼色の目に、透き通るような白い肌、親譲りの整った顔立ちの少年。

 一見、美少女にも見えるような容姿で、身長は百二十センチくらいか。



 生まれ変わってから五年が経ち、俺はこの世界の生活に慣れていった。

 だが、前世とは似ても似つかない習慣や日常に、今でも戸惑うことがある。

 この世界は地球の常識が全く通じない。



 まず、魔法がある。

 初めて魔法を見たときは、開いた口が塞がらなかった。

 この世界で五年間生活してきた俺だが、その辺は今でも慣れない。

 そのせいで教育係のリーラにしょっちゅう叱られている。



 次に、亜人がいる。

 有名どころで言うと、獣人、エルフ、ドワーフなどだ。


 獣人には、犬人、猫人、兎人などの様々な種族がいるが、人々はそれらを纏めて獣人と呼んでいる。

 獣人はその特異な容姿のせいで差別を受けているという。

 俺がいる“ウィンデール王国”では父様が獣人の差別を禁止しているが、やはり人間は自分達と違う存在が怖いのか、他の国では獣人を差別しているところもあるようだ。

 この国でも一部の人間はそのようなくだらないことをやっているらしい。


 エルフは長命で容姿が整っている者が多い種族だ。

 ただ、出生率が低いため、その数は人族よりもはるかに少ない。

 エルフは精霊魔法という特殊な魔法が使える種族であり、魔力の量も人族よりも多いのだとか。

 希少価値が高いため、エルフを奴隷商に売ろうとする人族が多い。

 そのため、エルフは人族のことを敵視している。


 ドワーフはイメージの通り、鍛冶が得意な者が多い。

 背は低く、気が強い、酒が大の好物である。

 人間とは持ちつ持たれつの関係だそうだ。

 ちなみに、宝物庫に国宝の剣がしまってあるが、その剣を打ったのも有名なドワーフだとか。


 

 最後に、魔物がいる。

 スライムやゴブリンをはじめとし、オーガやワイバーン、ドラゴンもいるらしい。

 魔物の素材などは日々の生活に必要なもので、その素材などを集める組織、“冒険者ギルド”というものもある。


 まるで漫画とかの題材になるファンタジーの世界だ。

 他にもいろいろあるが、それはまたの機会に説明しよう。






 今日は教会に行かなければならない。

 理由は、貴族は五歳になると教会で洗礼を受けなければならないからだ。

 洗礼を受けることで、この先何か困難に直面した時に神から助けてもらえるとか。

 もっとも、前世であれだけ苦渋を舐めて生きていた俺としては、そんなもの当てにならないと思っている。

 

「おはようございます、ルナ様」


 一人のメイドが扉を開けて入ってくる。

 メイド長兼、俺の教育係のリーラだ。

 今日も相変わらずの仏頂面だが、十人いれば十人が振り返るくらいの美人なので、不思議と嫌悪感を抱けない。

 美人って得だよな。


「今日は、午前中に教会へ行き洗礼を受けていただきます。午後からは、ルナ様に王子として相応しい態度を身に着けていただくために、私とマンツーマンで勉強です」

「げっ……」


 思わず変な声が出てしまった。

 午前中は別にいい。

 教会に行って洗礼を受けてそれで終わりだから。


 問題は午後からだ。

 何が問題かって、リーラはめちゃくちゃ厳しい。

 俺が本当に王子なのかわからなくなるくらい容赦ないのだ。

 

「何か問題でも?」


 リーラはにっこり微笑んでいるつもりなのだろうが、目が笑っていない。

 ……怖すぎる。


「いや、何の問題もない」

「そうですか。では、準備が整い次第教会へ向かいましょう」






 朝食を終え、俺は教会へ向かう馬車の中でボーっと空を眺めるている。

 雲一つない綺麗な青空は、俺の憂鬱な心を少し楽にしてくれるのだ。


 

 教会へ向かっている途中、城下町を通るのだが、城下町は活気にあふれている。

 ウィンデール王国の近くには海があるため、海洋資源が豊富だ。

 遠くの方にある店では、新鮮な魚を手に入れたい飲食店を営んでいるであろう者達による“せり”が行われている。

 他にも、冒険者達が大きな魔物の死体などを運び込み、町の住人などが大きな歓声をあげたりしている。



 先代の国王……俺の叔父が国王だった頃は、ここまでの活気はなかったらしい。 

 先代国王は横暴な人物だったらしく、病に倒れるまでは国政などそっちのけで自由に生きていたそうだ。


 父上が国王に即位してからだんだんと景気が良くなり、このような街になった。

 笑顔の住人達を見ていると、俺の心も明るくなってくる。 



 馬車に揺られながら窓の外を見ていると、大きな建物が見えてきた。


「あれが教会です」


 俺の向かいに座っているリーラが教えてくれる。

 

「んー……()の方が大きいな」

「当たり前です。ルナ様の家はこの国の象徴ですよ」


 リーラから鋭いツッコミが飛んでくる。

 そんなやり取りをしながら馬車を降りると、杖を持ち、白いローブを羽織り長いひげを生やした老人が教会の中から出てきた。


「お待ちしておりました。バルムと申します。この教会の司祭をさせていただいております」


 バルムがゆっくりと一礼する。

 

「ルナ・ウィンデールだ。今日はよろしく頼む」


 俺は自分の名を名乗りつつ頭は下げない。

 リーラ曰く、俺は偉そうにしていなければいけないらしい。

 貴族や王族が頭を下げる相手は自分より立場が上の者だけだそうだ。

 バルムは俺よりも立場が上ではないため、頭は下げないのが正解……だと思う。

 不安になり、リーラの顔をちらりと見ると、小さく頷いたので少し安心する。


「こちらです」


 バルムの後に続き教会の中に入っていく。

 奥に進んでいくと、一体の神の像が佇んでいた。

 日の光が大窓から差し込んで神の像を照らし、幻想的に光り輝いている。


「ではルナ様、この神の像の前で片膝をつき、祈りをささげてください」


 バルムの指示に従い俺は片膝をつき、神の像に祈りをささげる。


「神よ、ルナ・ウィンデールがこの先、健やかに成長できるよう見守って下され」


 バルムが何やらぶつぶつと呟きながら持っていた杖を掲げた。


 ――その瞬間、俺の視界は真っ白に染まった。






 だんだんと視界が開けてくる。


 周りには様々な種類の美しい花が咲き誇っている。

 明らかに教会ではない場所だ。

 

「……どこだ?」


 自分に何か異変がないか確認しながら周りを見渡す。


「やあ!」


 声がした方にバッと体を向ける。


 そこには――()がいた。

 

 なぜ俺と同じ姿をしている存在がいるのかはわからない。

 だが、一つ言いたいことがる。

 俺はそんなに気楽に人に話しかけない。


「やあ! じゃねえよ!」

「むっ……反応悪いな~」


 目の前の俺の笑みが崩れる。


「しょうがないなあ~」


 俺の姿をしたそいつは「えいっ!」という掛け声とともに、眩い光に包まれた。

 光が収まるとそこには――――


 


「やっと会えたね、“才能に愛されし者”」




――――女神がいた。


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