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才能に愛されし者  作者: きんめ
第一章 幼少期編
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両想い

 いつもならのほほんとしているはずの母様が笑っていない。

 俺は背筋が凍りつくような思いで立っていた。


「さて、ルナ? なんでこんなところにいるのかな?」

「か、母様……これにはちょっとした事情があって……」

「問答無用ッ!」


 母様はそう言って、俺のことを強く抱きしめた。

 

「もうっ! 一人で城を抜け出しちゃダメでしょ!」

「……ごめんなさい」


 これに関しては俺が全面的に悪い。

 俺は素直に謝った。


「フーリ! 久しぶりだな、息災だったか?」


 カーリーが笑みを浮かべながら母様に話しかける。


「カーリー」

「ひゃいっ!」


 母様の凍り付くような声に、カーリーがビクッとする。 

 しかもさっきの尊大な喋り方はどうしたんだか……。


「あなた……ルナに攻撃したの?」

「いや……あれはまだフーリの子だって知らなかったから……」

「問答無用ッ!」


 カーリーは母様の拳骨を食らった。

 ゴンッという鈍い音が響いた後、カーリーが膝? から崩れ落ちていく。

 痛そうだな……。


「で……そっちの子は?」


 母様がセドナの方を見る。


「ああ……その子はセドナ。私の一人娘だよ」


 母様の拳骨から復活したカーリーが説明する。

 復活早いな……。


「セドナちゃんね。カーリーの姉のフーリよ。ルナと仲良くしてあげてね」

「は、はい!」


 母様がセドナに声をかけると、セドナが体をビクッと震わせる。

 どうやら母様の拳骨を見て、少し怖くなったようだ。


「それで……ルナは何でこんなところにいるの?」

「今日、馬車の中で探知を使った時、ここに妙な反応があったんです」

「それが気になって来たってこと?」

「はい。それで来てみたらセドナが倒れていました」

「ふーん……」


 母さんがちらりとセドナに視線を送る。

 それに気づいたセドナが硬直する。


「セドナちゃんはなんでこんなところで倒れてたの?」

「セドナは家出して、帰り道がわからなくなってここにいたそうです」


 セドナが涙目で可哀想なので代わりに俺が説明する。


「なんでセドナちゃんは家出なんかしたの?」

「それは……」

「縁談が来たからよ」


 母様とセドナの会話にカーリーが割って入る。


「ほら、セドナって可愛いじゃない? だから縁談がしょっちゅう来るの。いつもなら断ってるんだけど……」

「無視できない相手からの縁談が来たってこと?」


 カーリーの言葉に母様が反応する。

 王族が無視できない相手となると……。


「他国の王族や公爵とかか……」

「仲のいい国じゃないんだけどね……」

「ちなみに相手の年齢は?」

「四十歳」


 四十歳!?

 おっさんじゃねえか!


「とある貴族の結婚パーティーに招待されて、そのパーティーにセドナも連れてったんだよ。そしたら醜い豚どもがセドナの美貌に囚われたみたいでねぇ……」


 なるほど。

 それが嫌で家出したってことか。

 それにしても醜い豚どもって……。


「そんなこと簡単に解決できるわよ!」


 ずっと黙っていた母様が明るい声をあげた。


「簡単に解決できる……?」


 暗い雰囲気だったセドナの表情がパッと明るくなる。


「ど、どうすればいいんですか!?」

「……知りたい?」


 母様が悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 よかった……いつもの母様に戻った。


「知りたいです!」


 セドナがグッと母様に近寄る。

 すごい食いつきだな……。


「それは……やっぱどうしよっかなー」

「母様……勿体ぶりすぎだよ……」


 さすがにそれは意地が悪い。


「じゃあ、セドナちゃんに一つ確認したいことがあるの」

「はい! 何ですか?」


 セドナがはきはきした声で答える。

 よっぽど縁談が嫌なんだろうな。


「ルナのこと、どう思ってるの?」


 え?

 俺のこと?

 

「えっと……それは……」


 セドナが急にしおらしくなる。

 どうしたんだ?


「私のことを助けてくれてる……王子様みたいな人です!」


 まあ俺、王子なんだけどね。


「それだけ……?」


 母様がさらに追及する。


「カッコよくて……優しくて……」


 セドナの顔がどんどん赤くなっていく。


「もういいわ、合格よ」


 母様がストップをかける。

 それにしても合格?

 セドナは何か試されていたのか?


「カーリーもそれでいいわね?」


 母様が隣でだんまりを決め込んでいたカーリーに話しかけた。

 

「相変わらずフーリは大胆なことを考えるなぁ」


 カーリーは尊敬したような眼差しで母様を見た後、大きく頷いた。


「セドナちゃん、婚約すれば万事解決だよ!」

「だから私はそれが嫌で……」


 セドナの目にみるみる涙が溜まっていく。


「母様ッ! それは……」


 それはあまりにも……。


「待って、二人とも何か勘違いしてない?」

「「勘違い?」」


 俺とセドナの声がハモる。

 俺達は何を勘違いしているんだ?


「セドナちゃんが婚約するのは縁談を申し込んできたおじさんじゃないわよ?」

「じゃあ誰と婚約するんですか?」

「ルナどうしたの? いつもならもっと静かなのに」


 母様が俺を不思議そうな顔で見つめた後、パーッと花が咲いたような笑みを浮かべた。


「あーっ! もう、私ってば天才ね!」


 ……どうしたんだ母様。

 ついに壊れてしまったのか?


「カーリーわかる?」


 母様がカーリーに問いかける。

 だがカーリーは首をかしげている。

 妹でもわからないらしい。


「まだわからないの?」


 母様がカーリーの耳元で何かを囁くと、カーリーも母様と同じような花の咲いたような笑みを浮かべる。


「フーリ……やっぱり天才……」


 ……なんだこの姉妹。


「セドナちゃんが婚約する相手は縁談を申し込んできたおじさんより偉い人よ」


 おっさんより偉い人?


「……誰ですか?」

「ルナ」


 ……はい?


「聞こえなかったの? ルナよ」






 ……………………。






「今……なんて言いました?」


 聞き間違いだよな?


「何度でも言うわ。ルナよ」


 ……何が俺なんだ?


「えーと……何が俺なんですか?」

「だから、セドナちゃんの婚約相手」


 セドナの婚約相手が……俺?

 

「ルナなら王族のセドナちゃんとも釣り合うし、何より……」


 母様は俺とセドナの両方を見て……。


「二人ともお互いを意識しあってるみたいだし!」


 そう言い放った。


「セドナは……」


 俺はセドナに確認を取ろうとするが、それは出来なかった。

 


 何故なら俺の唇は――セドナの唇によって塞がれていたのだから。


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