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才能に愛されし者  作者: きんめ
第一章 幼少期編
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初戦闘



目の前に困ったような顔をしている人魚がいる。


「はぁ……」


 どうしよ。

 正直、こんなところに人魚がいるなんて思ってもみなかった。

 これが魔物とかだったら襲い掛かってくるのを向かい打てばいいんだけど、どっからどう見ても人魚だしな……。


「えっと……」


 何か言いにくいことなのか?

 まあ種族が違うし、言いにくいこともあるのだろう。


「……家出してきちゃったの」


 は?

 家出?

 家出って、あの?


「でも帰り道がわからなくって……」


 なるほど。


「家出して適当に泳いでたら帰り道わからなくなったってところか?」 

「そう……」


 うーん。

 少し面倒だけどやるしかないか。


 俺は魔壁を消し、身体強化も解く。


「これから少し集中する。周囲の警戒を頼んでもいいか?」

「えっ? 何するの?」

「見てればわかる」


 探知は基本、俺を中心として円のよう広がっている。

 リーラはそういうものだと言っていた。

 だが森の中を走っている時、一つの疑問が生まれた。

 この円の形は変えられないのだろうか?


 結果として、形は変えられた。

 だがこれが結構難しかった。

 上手く魔力を操作しないと一瞬で円の形に戻ってしまうのだ。


 俺が今からやろうとしていることは、海に向けて探知を使い人魚の住処を見つけるということだ。

 だが、何処に住処があるのかわからない。

 しかも海はめちゃくちゃ広い。

 ある意味賭けだ。

 

 全魔力を探知に注ぎ込み、人魚の住処を見つける。

 俺以外の人間ならば見捨てたりしたかもしれないが、生憎(あいにく)俺は困っている者を見ていると助けたくなる(たち)だ。

 何故なら俺には力があるから。

 困っている者を助けられる力が。


 俺は海に溶け込ませるように魔力を広げようとして―――



「クソッ!」


 俺は瞬時に人魚の後方に魔壁を展開させる。


 すると、人魚に向かって放たれた数本の矢を魔壁が弾いた。


「……えっ?」


 間の抜けたような声を出しながら、人魚が尻餅をつく。

 俺は尻餅をついた人魚の前に出て、迎撃態勢を整える。


 少しして、森の中から四体のゴブリンが現れた。

 その内の二体は弓を持っている。

 恐らく、先ほどの矢はこの二体が射ったものだろう。


 さて……どうするかね……。


 目の前にはゴブリンの上位種であるゴブリンアーチャー二体に通常種のゴブリン二体。 

 俺の背後には腰を抜かした人魚が一人。


 ……俺の中に人魚を置いて逃げる選択肢はない。

 こうなると、必然的に殲滅するしかないわけだ。


「俺から離れるなよ」

「うん……」


 後ろで腰を抜かしている人魚に告げ、魔刃を生成する。 


 初めての戦闘だ。

 それに守らなければならない者もいる。

 決して打ち漏らさねよう、大量の魔力を注いでいく。


『魔刃』


 巨大な透明な刃がゴブリンどもに向かって飛んでいく。 

 ゴブリン二体とゴブリンアーチャー一体の首が飛ぶが、残り一体のゴブリンアーチャーはギリギリで躱したようだ。


 狙いが甘かったか。

 


「ギギィ!?」


 残っているゴブリンアーチャー奇声を上げる。

 いきなり仲間の首が飛んで驚いているようだ。


「ギギィ!!」

 

 だが次の瞬間、憤怒の表情を浮かべながらこちらに突進してくる。

 人型なだけあって、表情を読むことは容易い。


 仲間の首が飛んだのにも拘わらず、俺が子供なので油断しているようだ。

 ただただ突進してくるだけのこいつの行動がそれを物語っている。

 

「おい、目を瞑ってろ」


 後ろにいる人魚が目を瞑るのを確認してから、俺は()()()()()()()()()()()()()()()魔壁を展開させる。


「潰れろ」


 そして、魔壁をだんだんと小さく圧縮していく。


「ギ……」


 魔壁に圧縮されてゴブリンアーチャーが押し潰されていく。

 ベキベキ、ブチブチと、骨が折れ、肉が潰れていく音が聞こえてくる。


「……ふぅ」


 魔壁が俺の手と同じくらいの大きさになったところで、魔壁の圧縮をやめる。

 魔壁の中には、もはや原型を留めていないゴブリンアーチャーだったものが詰まっていた。

 生きた生物が肉塊になっていく光景はだいぶグロテスクだった。

 初めて魔物を殺した俺だが、不思議と恐怖などは湧き上がってこない。


「終わった……ぞ?」


 後ろにいる人魚に視線を向けると、何故かわからないが俺の顔を見て固まっている。

 俺は暗くてよく顔は見えないが、その視線だけはしっかりと感じることができる。


「どうした?」

「…………」


 人魚は黙りこったまま、微動だにしない。

 

「聞こえてるか?」


 固まっている人魚に聞くと、コクコクと頷く。

 どうして動かなくなったのかはわからないが、耳が聞こえなくなった訳ではなさそうだ。


「今からお前の故郷を探すから、その間の警戒を頼む」


 人魚にそう告げ、俺は探知の魔法を発動させる。

 先の戦闘で多少の魔力を使ってしまったが、まあ問題ないだろう。

 


 

 


 薄く、薄く、ひたすらに薄く魔力を引き伸ばしていく。


 だが、なかなか見つからない。

 何キロ伸ばしたのか自分でもわからないが、反応がない。

 ふと、探知に馬鹿でかい生物引っ掛かった。

 俺は何か関係がないか人魚に尋ねる。

 

「馬鹿でかいタコ見つけたけどなんか関係あるか?」

「ッ!?」


 人魚が目を見開いたかと思うと、突然ブルブルと震えだした。


「それは……」

「それは?」

「ク、クラーケンよ」


 クラーケン……神話に出てくる海の怪物か。


「クラーケンは私達人魚を食べるのよ……」


 つまり、人魚の天敵ってわけか。


「大丈夫だ、ここからは数キロは離れている」


 俺の言葉を聞くと人魚は安心したようだ。

 そんなことよりも、こいつの住処だ。


 俺はさらに魔力を伸ばしていく。

 しばらくして、ようやくそれっぽいものが引っ掛かった。

 けどこれって……。


「国……なのか?」


 探知の間違えじゃなければそこには数多くの家が立ち並び、大勢の人魚らしき生物がいて、城がある。

 立派な国だ。


「見つかった?」

 

 人魚が興奮した様子で近づいてくる。


「見つかったが、お前よくこんな遠くまで来たな」


 あんな遠くからここまで来るなんて、どれだけ泳いできたんだか……。

 方向の場所もわかったし、探知を一旦解除しようとする。

 だが――。


「むっ?」


 何者かが俺の魔力を掴んで離さない。

 そしてそこから何者かの魔力が流れ込んでくる。

 どうやら逆探知されているみたいだ。


「どうしたの?」


 人魚が心配した様子で俺の顔を覗き込む。


「何者かが俺の魔力を掴んで離さないんだ。何か心当たりはないか?」

「それってまさか……」


 人魚が何かを言い終える前に、すっと探知が解除された。

 何者かが掴んでいた魔力を離したってことだ。



 つまり、逆探知が完了した。

 俺の居場所がバレた。



 刹那、俺は周囲にありったけの魔力を込めた魔壁を展開する。

 その直後、無数の何かが俺に向かって飛んできた。

 

 何かが魔壁とぶつかり合う。

 俺は魔壁が突破されないように一定の魔力を込め続ける。


「お母さん!」


 俺の後ろに隠れていた人魚が叫んだ。


 突然魔壁とぶつかり合っていた何かが消滅した。

 俺も敵対意識がないことを証明するため魔壁を消しさる。


 すると、真っ暗な海の中から冷たい目をした人魚が現れた。

 倒れていた人魚よりもだいぶ大きい。

 俺の後ろにいる人魚が子供の人魚で、今現れた人魚が大人の人魚ということか。


「貴様……何者だ?」


 冷たい目をした人魚が俺に問う。


「俺はルナ・ウィンデール。ウィンデール王国の王子だ」

「ウィンデール……? ッ!? フーリは息災か!?」


 俺が名乗った途端、冷たい目をした人魚のテンションが急に上がった。

 っていうかフーリって……。


「母様を知っているのか?」

「知っているも何も、フーリは私の姉だ」



 …………ん?

 ちょっと待て。

 落ち着け?

 ……うん、とりあえず。


「はあぁぁぁあああああ!?」

「どうした? なぜ叫んでいる?」


 いや、訳わかんねえ!

 母様が人魚の姉!?

 どういうことだ!?


「確かに、俺の母様はフーリという名だ。だが俺の母様は人族だぞ?」

「ふむ……そのフーリと同じ美しい銀の髪、魔力の波長。間違いない、君はフーリの子であろう? それにフーリは我ら人魚族に秘術により二本の足を手に入れただけで、人族ではない」


 むぅ……そう言われると……。


「ここは少し暗いな」


 母様の妹を名乗る人魚がそう言いと、俺の周りに明かりを放つ小さな球体が現れた。

 周りが明るくなったことでようやく倒れていた人魚や母様の妹を名乗る人魚をちゃんと見ることができる。


 俺は倒れていた人魚に目を向ける。

 その姿を見た瞬間、俺の脳天に衝撃が走った。


 肩で切りそろえられた銀色の髪に、つけまつげかってくらい長いまつ毛。

 エメラルドのような翠の瞳に、スッと通った鼻、桜色の瑞々しい唇。

 小さな顔に、まるで人形のように整った顔立ちの美少女。

 下半身は人間と違い尾があるが、寧ろそれが神秘的な雰囲気を醸し出している。

 不覚にも、俺は彼女に見惚れてしまった。


「どうしたの?」

「名前を……教えてくれないか」


 俺は固まった口をやっとの思いで動かす。


「私? 私の名前はセドナ・エルナバスよ」

「エルナバス……貴族なのか?」

「貴族っていうか、王族ね」


 王族……俺と同じか。

 

 少しセドナの顔を見ているのが恥ずかしくなり、視線を逸らす。

 今度は母様の妹を名乗る人魚に目を向ける。


「母様……?」


 そう錯覚してしまうほどに、そこにいた人物は母様と瓜二つだった。

 母様が美しい銀髪なのに対し、目の前にいる女性は藍色の髪で下半身には尾がある。

 だが、母様と同じような美しい顔立ちは姉妹なのだと一目でわかる。

 

 この人魚が言っていることはどうやら本当のようだ。


「私の名前はカーリー・エルナバスだ」


 母様の妹ってことは、俺の叔母さんってことになるのか?


「そうか……フーリにも子供が……」

 

 カーリーが俺の目の前で感極まっている。


「何か無性にフーリに会いたくなってきたな……」


 そう言うと、カーリーの周りに魔法陣のようなものが浮かび上がった。

 その魔法陣から天に向かって藍色の光が放たれる。


「これでフーリも気づくだろう」


 満足そうな顔で頷いた後、カーリーが俺に詰め寄ってくる。


「坊や、私の魔法を防ぐなんてやるな。フーリと同じで魔法の天才なのか?」


 さっきの冷たい感じはどうしたんだか、カーリーが興奮した様子でいろいろ聞いてくる。

 

「あれはただ魔力を具現化させて壁を作り出しただけだよ。硬度は込める魔力の量に比例する」

「へぇ~……そうなんだ」


 聞き覚えのある声が後ろから聞こえる。

 だがその声はいつもよりずっと冷たい。


 俺は恐る恐る後ろを振り返る。

 そこには、微笑んでいるようだが目がまったく笑っていない――母様が仁王立ちしていた。


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