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才能に愛されし者  作者: きんめ
第一章 幼少期編
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人魚

 目を覚ました俺は、夜にこっそりと城を抜け出し、王都から少し離れた森の中を走っていた。

 ちょっと魔法を試してみたくなったのだ。


 俺は『身体強化』と『探知』を同時発動させ、薄暗い森の中を進む。

 魔法の同時発動は魔力の減りが激しい為あまりやりたくないのだが、夜の森は危険だと前世で祖母が言っていた。


 それにここは異世界で魔物もいる。

 いくら俺が魔法を使えるからといっても、もし出会ったらどうなるかわからない。

 なので、俺は下半身に重点的に魔力を集め足腰を強化して移動速度を上昇させ、直径五十メートルほどの探知を発動させている。

 これでとりあえずは安全を確保できていると思う。


 俺は尋常じゃないスピードで森の中を駆け抜ける。

 周りの景色が変わり続ける。

 探知では、先ほどからウサギやネズミなどの小動物しか感知できない。


 

 三十分ほど走り続け、俺は走るスピードを落とした。

 探知で人型の生物を感知したのだ。

 

 気配を殺し、慎重に人型の生物との距離を詰めていく。

 茂みをかき分けてそっと顔を出すと、そこには緑色の体の人型の魔物――ゴブリンがいた。

 

 ぞっとするような醜い容姿に濃い緑色の体、俺とそう変わらないような身長。

 手に小さなナイフが握られている。


 ゴブリンが三体、小さなウサギの死骸を貪っていた。

 幸いまだ俺は気づかれていないようだ。


 ゴブリンは発見したら討伐するのが常識だ。

 だが今の俺には戦闘手段がない。

 もし戦っても勝てるとは限らない。

 

 俺はゴブリンを見なかったことにしてそそくさとその場から立ち去った。

 ゴブリンのいたところから離れるとまた先ほどと同じ方向に走り始めた。


 俺は走りながら考える。

 今の俺には戦闘手段がない。

 ない訳ではないが、不安要素が多すぎる。


 俺はまだ身体強化と探知しか使えない。

 それだけで魔物と戦うのは御免だ。


 どうしようかと考えていると、俺は前世で読んだマンガの必殺技を思い出した。

 その必殺技は体内の気というものを凝縮させ一気に放出する技である。


 この世界には気はないが、魔力がある。

 善は急げということで俺は身体強化を解き一時的に探知の範囲を五十メートルから百メートルくらいまで伸ばす。

 これで安全確保は大丈夫だと思う。


 俺は早速、体内で渦巻く魔力を高め、凝縮させる。

 ゆっくりと(てのひら)に凝縮させた魔力を集める。

 すると、ぼんやりとだが半透明な球が浮かび上がってきた。

 さらに魔力を込めていく。

 ぼんやりとした半透明だった球は、透明な水晶のようなくっきりとした球になった。


「ふぅ……」


 額の汗を拭いながら掌の上に浮かぶ球を近くにあった大木に飛ばす。

 球が当たった木はバキバキッと大きな音を立てて粉砕された。


「……」


 これはちょっと予想外の威力だ。

 ゴブリン相手でもオーバーキルだろう。

 人間相手に放つなんてもってのほかだ。

 確実に殺してしまう。


 でも俺は確かに戦闘手段を手に入れた。

 さっきの球は「魔弾」と名付けよう。

 魔弾なら込める魔力によっては遠距離からの攻撃手段にもなるだろう。

 次々とイメージが湧いてくる。


 さっきの魔弾をより薄く、より鋭利に。

 そして濃密に。

 こうして出来上がったものは透明な刃だ。

 これは「魔刃」と名付ける。

 見るからに凶悪そうな刃を大木の横に生えていた木に向け放つ。

 

 放たれた刃は進行方向にある木を次々と切り倒し、やがて見えなくなってしまった。


「いや、やばすぎだろっ!」


 今更ながら俺は魔法の恐ろしさに気づいたのだった。


 その後も魔力で鎧を作ってみたり、魔力で壁や板を作ってみたりといろいろ試した。


 俺は魔法の便利さとともに危険も知った。

 魔法は便利だが簡単に人を傷つけられる。

 力の使い方は気を付けよう。



 一通りやりたいことをやった俺は再び森の中を駆け抜ける。

 身体強化を発動させているので疲労感が全くない。

 一時間ほど走り続け、ようやく目的地に到着した。






 潮の香が心地いい。

 まだ日が昇っていないので周囲は真っ暗だが、探知で周りの状況はよくわかる。


 馬車の中で俺が探知の範囲を広げた時、この辺りで妙な気配がしたのだ。

 そして、それは今も変わらずにある。


 俺は崖に沿って歩いていく。

 そして妙な気配を発しているものを見つけた。


「まじか……」


 そこには―――


「……この世界には人魚もいるのか」


―――人魚がいた。



 俺は崖から飛び降りて人魚が打ち上げられている岸に向かう。

 身体強化で俺の体は大幅に強化されているので崖から飛び降りても何の問題もない。


 人魚の近くまで近づいてみる。

 暗くて顔はよく見えないが、どうやら気を失っているらしい。

 俺は海水を両手で(すく)い上げて気を失っている人魚の顔にかけた。


 

 ゆっくりと人魚が目を開ける。

 大きなあくびをした後、ぐーっと伸びをする。

 寝ぼけているのだろうか?


 人魚がきょろきょろと周りを確認する。

 そして俺の存在に気づくや否や、水の槍をぶっ放してきやがった。


 俺は先ほど考えたばかりの「魔壁(まへき)」を瞬時に展開する。

 水の槍は魔壁と衝突し、消えた。


「ふざけんなッ! 殺す気か!」

 

 俺が人魚に向かって怒鳴ると、人魚の顔が驚愕に染まった。

 

「な、なんで人族が人魚の言葉を話せるの!?」

「……何言ってんだお前?」


 人族が人魚の言葉を話せる?

 俺は普通に話しているだけなんだけど。


「俺はお前がそこで倒れてたから来てやっただけなんだけどな……」

「…………」


 人魚が難しい顔をしたまま黙り込んでしまった。

 俺は魔壁を展開したまま、じっと人魚が動くのを待つ。

 しばらくして、ようやく人魚が口を開いた。


「さっきはごめんなさい。人族って私達人魚を捕まえて奴隷にしようとするやつらばかりなの」

「俺はお前を見つけるまで人魚が存在することすら知らなかったぞ」

「この近辺の人間なら知ってるはずだけど……」

「俺は王都から来たんだ。この辺りのことは全く知らない」


 まあ、そんなことはどうでもいい。


「どうしてお前はずっとこんなところで寝ていたんだ?」


 人魚の困ったような顔を見て俺は悟った。

 今夜は長くなりそうだ。

 

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