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才能に愛されし者  作者: きんめ
プロローグ
1/69

才能のない少年

 

 思い返せば、俺の人生は数奇な人生だったと思う。


 俺には才能がなかった。

 運動も、勉強も、何もできない。 

 その上、不細工。

 無為無能というやつだ。

 

小学生の頃は同級生に馬鹿にされ、その親にも馬鹿にされた。

 だから努力した。

 悔しくって、悔しくって、気が狂いそうになるほど悔しかった。

 走って、勉強して……俺は世界中の誰よりも努力したと思う。


 でも、結果はついてこなかった。

 マラソン大会ではいつもビリ。

 テストでも良い点を取れなくって親にも叱られらた。




 努力は必ず報われる、そう信じていた。

 だが俺はある出来事があってから、この言葉を信じなくなった。


 俺には幼馴染がいた。

 幼馴染は才能があった。

 運動も、勉強も、何もかもできる。

 その上、イケメンだった。

 才色兼備。

 俺とは真逆の人間だ。


 俺が同級生に馬鹿にされている時、幼馴染だけは俺を庇ってくれた。


「こいつを馬鹿にするな! 何にも知らないくせに!!」と。


 社会は結果がすべてだ。

 マラソンでは順位が、テストでは点数が、会社では業績が。

 過程なんて関係ない、結果だけがすべてなのだ。


 幼い頃から常に下にいた俺はそれが分かっていた。

 だけど、それでも俺のことを見てくれている人がいる。

 俺が出した結果だけでなく、それまでの過程も見てくれている人がいる。

 それがただただ嬉しかった。






 人は成長する。

 何もしなくても、寝ているだけでも成長する。

 成長する過程で当然、人間関係も変わっていく。


 中学生になり、俺と幼馴染は疎遠になっていき……そしてイジメが始まった。


 理由はシンプルだ。

 俺に才能がないから、不細工だから。

 運動も勉強もできない不細工な俺が、努力は報われると信じて努力し続ける様はさぞかし滑稽だっただろう。



 ある日、幼馴染から言われた。


「もう関わらないでくれ」


 一瞬、訳が分からなかった。


「お前は努力してる、誰よりもだ。でも、お前も薄々わかっているんだろう?」


 やめろ……それを言われたら俺は……。


「お前には努力の才能もないんだよ」



 俺は何も見えなくなった。

 俺を認めてくれていると思っていた幼馴染も、俺の才能のなさに呆れて離れていった。


 そして悟った。

 いくら努力しても俺は報われない。

 時間の無駄だと。


 それでも俺は努力を続けた。

 無駄だとわかっていても、努力するのをやめたら俺は俺でなくなってしまうと思ったから。



 幼馴染の周りには人がたくさんいた。

 それに対して、俺の周りには誰もいなかった。


 なぜ?

 才能がないからだ。

 不細工で、何もできない人間に近づく奴なんていない。


 幼馴染と関わらなくなってから、イジメはさらに酷くなった。


 暴力、暴言、カツアゲ。

 俺の心と体はボロボロになっていった。





 そして今日、俺はイジメられていた奴らに呼び出され、学校の屋上にやって来た。

 屋上には、イジメてくる奴らと()()()がいた。


「飛び降りろ」


 幼馴染が言った。


「飛び降りたら楽になるぞ? 人生を卒業できるんだからな。どうせお前なんてこの先、生きていたって何の意味もないんだし」



 ……そうだな。

 ここで飛び降りれば、楽になれる。

 もう、頑張らなくてもいいんだ。

 

 どれだけ努力しても、決して報われない絶望感、虚無感。

 それらが心を満たした時、散歩に出かけるかのような軽い足取りで俺は屋上から飛び降りた。

 背後から悲鳴がした気がするがそんなの関係ない。




 落ちていく感覚の中、頭の中に走馬灯が駆け巡った。




 いくら努力しても報われない自分。

 それを見て馬鹿にしてくる奴ら。

 最後に幼馴染が見せた俺を見下す目。




 気に入らない……。




 俺を生んだ親が。

 俺が育った環境が。

 俺以外の人間が。

 そして何より……才能がなかった俺自身が……。


 まるで何かを祝うような雲一つない青空を脳裏に焼き付け、俺はそっと目を閉じた。






 ……どれほど時間がたったのだろうか。

 いつまで経っても意識が途絶えない。

 それとも、もう死んでいるのだろうか?

 そんな疑問を浮かべながら、ゆっくりと目を開けようとする。


 だが、目が開かない。

 どれほど瞼を持ち上げようとしても、持ち上げられない。

 手足は動く。

 体のいたるところに違和感があるが……。


 しばらくじたばたしていると、どこからかドタドタと複数の足音がした。

 そして足音がすぐ近くで止まると、ひょいと体を抱きかかえられた。



「この子が……」


 威厳のある男性の声だ。


「おめでとうございます陛下。男の子ですよ」


 女の人の声が聞こえる。

 それにしても陛下?

 どういうことだ?



 抱きかかえられてからしばらくすると、だんだん目を開けるようになってきた。


 そして目を開けると豪華な服装のダンディなおじさん、その横にいる綺麗な女の人に、俺とその二人を囲んでいるメイド服の女性達が視界に映った。


「ショーン。この子の名前を……」


 名前? 俺は……あれ? 俺の名前ってなんだっけ?

 自分の名前を思い出そうとしていると、豪華な服装のおじさんが俺の目を見つめながら穏やかな口調で周りの人間に宣言する。


「うむ……。この子はルナだ」


 そうか……俺の名前はルナか……。

 何故だかわからないが、俺はその言葉を受け入れてしまった。



 メイド姿の女性の一人が俺とおじさんに近づいてくる。

 そして俺の目をじっと見つめると、姿勢を正して語りかけてきた。


「私はメイド長をしております、リーラと申します。これからルナ王子の教育係をさせていただきます。何卒宜しくお願い致します」

「リーラよ。まだ生まれたばかりの赤子に何を言っておる……」



 ……ルナ王子?

 ……俺、王子なの!?



「あー……」



 体はうまく動かないし、声もまともに出せない。


「あら、もう返事ができるの! この子はきっと天才ね!」


 綺麗な女の人が声を弾ませる。


 天才……か。


 今の状況を考えると、俺は生まれ変わったのかもしれない。

 親は豪華な服装のおじさんと、この綺麗な女の人。

 前の親とは違って、二人とも温かい雰囲気を纏っている。


 

 もし、これが夢ではなく、本当に生まれ変わって王子になったのだとしたら……。

 生まれ変わったからには、何かしらの才能があるかもしれない。


 俺は大きな期待と不安を胸に、ゆっくりと目を閉じた。



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