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あべこべ世界へようこそ!  作者: みぃーや・きゃっと
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2/7

*2* 春美と秋美

  *2*


(ウサギは僕たちをどこに連れていくんだろ……。まさか不思議の国?)


 ウサギにひっぱられ叫びながら、陽介は考えていた。すると、宙に浮いていた体や足が引力に引き寄せられているのに気がついた。速度が落ちてきている。ずるずると地面に引きずられるほど遅くなっていた。

 陽介と春美は叫ぶのをやめ、閉じていた目をパチっと開けると、赤信号の前に立っていた。

 車は一台も通っていない道路の前。後ろを振り返るといつもの通学路の並木道。ウサギの姿はなかった。


「春美ちゃん、だいじょうぶ?」

「うん……ここっていつもの場所だよね?」

「だよね。僕たちウサギに捕まって、ものすごい力とスピードでひっぱられて……」

「ウサギさんいない……もっとお話したかったのに」


 と春美が残念そうにうつむく。

 カァー、カァー、とカラスの鳴き声が聞こえてきたと思ったら、道路の向う側から一人の女の子が、横断歩道を渡ってくるのが見えた。陽介は首をかしげた。

 似ていたのだ。髪の長さも服も靴も、何もかも同じ。ピンクのパーカーにデニムのスカート、ハートがいっぱいの黒い運動靴。

 陽介が近づいてくる女の子をじーっと見ていると、目が合った。あっ。思わず声に出してしまったあと彼女は、


「あんた居残りおわったの?」

「へ? え?」


 突然そう言われた陽介は、一瞬ビクッとしたが、彼女の顔を見て二度びっくりした。目の前にやってきた女の子は、春美にそっくりだった。うり二つ、まるで双子のように同じ顔と声。春美も彼女の声に反応して顔をあげると、

「えっ」

 目を見開いた。春美のそっくりさんはそんな春美に今気づいた。春美と同じ反応をしていたが、すぐに冷静な顔をした。

 すると、春美がそっくりさんの目の前に手のひらを向けて、鏡じゃないか確かめた。しかし、目の前の彼女は春美のマネをしなかった。


「鏡じゃない……えっ、なんで! なんであたしがいるの!?」

「えっ。だってここは私の世界よ」

「私の世界?」

 陽介が言葉を繰り返した。

「あなた達、どうやってこっちの世界に来たの?」


 陽介たちのように、驚いた感じではなく、とても落ち着いた様子の彼女は訊いた。しかし、それを訊かれても、陽介たちは何も答えられなかった。逆に、陽介が春美のそっくりさんに訊いた。


「ここは僕たちの世界じゃないの?」

「ここはあなた達からしたら、あべこべの世界よ」

「「あべこべの世界?」」


 陽介と春美は首をかしげた。春美のそっくりさんは、「例えば」と言って、春美に名前を訊いた。

 「春美」と答えた。

「へーそうなんだ。私は秋美あきみって言うの」

 

 春美は目をぱちくりさせて、「どういう意味?」と言った。頭の良い陽介は何かに気づいたようで、ぶつぶつとつぶやきだす。


「あべこべ……逆? あっ、春の逆は秋だ!」

「そうそう! 君は頭がいいんだね!」


 春美のそっくりさん――秋美にそう言われて、陽介は変な感じがしたが、うれしくて照れた。

 そんな陽介の隣で、春美はまだ考えていたけれど、やっとわかったようで手をポンとたたいた。


「あー名前のあべこべ……てか、もう一人のあたしがいるってことは。もう一人の陽介くんもいるってこと?」

「そうよ。てか、陽介くんって言うんだ」

「こっちの僕はなんていうの?」

陰介かげすけ

「か、陰介ぇ~? なんか暗そうな名前……。陽介くんより暗いのかな」

「僕暗くないよ! おとなしいんだ」


 と、陽介は主張するが、春美は聞こえないふりをした。すると秋美が、


「今から会いに行く? あいつまだ学校にいるから」

「あ、行く行く~」

「ちょ、春美ちゃん! 帰らないと、お母さんたち心配するよ!」

「大丈夫よ、ちょっとぐらい。てか、帰り方わかんないし」

「あ……」

「さっ! 行こう!」


 春美たちは並木道の方へ歩いていき、学校に向かう。陽介は、もう何を言っても止められない春美に、ため息をつきつつ二人のあとを歩く。すると秋美が振り返り、陽介の肩をぽんと叩いて耳元で囁いた。


「そっちは、君が大変なんだね」

「え?」

「さっ、行こ」


 そう言ってきた秋美の後ろ姿を見て、陽介は思った。


(なんだか変な感じだ。春美ちゃんがしっかり者になったみたいで……少し、気味が悪い)

陽介がボソッと「別人じゃん」と言うと

「ん? 陽介くん。なんか言った?」

「う、ううん! 何でもないよ!」


 慌てて首を振る陽介。よく聞こえたなぁと思いながら、二人のそっくりさんの後を追う。


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