研究者 真理子
翌日、汽船の桟橋に、美代子と潔が見送りに来てくれた。今日、帰って、真理子に会う。
「みっちゃん、ごめんね」
「いいって、さっちゃんに、また、作ってもらう」
美代子から光サイドのトマトで染められたハンカチを預かった。本当は、これにトマトを包んで、美代子へのお土産にする予定だった。
「後で、メールくれよ」
「潔は、頑張るのよ。早めに上がって、ダイバー免許取らないといけないのよ」
「操船だし、控えだから、だいじょうぶさ」
「美代子さんは、大丈夫ですか」
「私は平気。免許は間に合わないかもしれないけど、元々できるもん」
汽船は、ポーーと、言って、桟橋を離れた。二人は手を振って、見送ってくれた。
私たちは、夏休みの半分以上を白門島で過ごすことになった。私も潔も大丈夫だが、ミカは、おばあちゃんに全部話して、味方になってもらう気でいる。沙江子さんも、それがいいだろうと賛成してくれた。おばあちゃんの後押しがあれば、ミカも、島にずっといられるだろう。
町の桟橋に安子と幸子が迎えに来てくれた。その足で、駅前の喫茶店「杜甫」に、向かう。そこに真理子がいる。
「お帰り」
「おかえりー」
安子と幸子が、手を振っている。
私と安子は、手を取り合った。
ミカと幸子は抱き合って喜んだ。二人は、ファーストキス仲間だ。潔の性なのだが、二人の絆は深い。
「朱雀が見つかったんだって」と、幸子が話を聞きたがった。
幸子は、四神のコンと、仲が良い。朱雀も友達になれると思っている。
「死んでも、すぐ、生まれ変わるんですよ」と、ミカが、潔の受け売りをする。
「すっごい!」
「でも、今は、500年も、死んだままの状態です。光サイドにもなっていません」
「そうなんだ」
「だから、さっちゃんの出番です」
「わかった、がんばるね」
今日、真理子に、幸子を紹介することになった。私が、光サイドが見えることも話すのだが、ミカの話は、しない。お土産は、美代子のハンカチだ。幸子は、真理子の研究の手助けをする。条件として、必ず、誰かが幸子に付く。安子が多いと思うが、私やミカも空いていたら顔を出すことになる。
杜甫に着くと真理子が、窓から手を振ってくれた。店に入ってみると、もう、全員のレアチーズケーキセットが注文されており、真理子は、コーヒーを半分飲んでいた。紗江子さんの時と一緒だ。幽霊に会うのは気が引けるのだろう。幸子のことが分かれば、どうってことないのに。自分たちの紅茶は、ポットに入っているので、すぐには冷めない。レアチーズケーキに会えたから、ちょっと嬉しくなった。
一ヵ月、いいえ、二ヵ月ぶりだよー レア、会いたかったぜー
私の反応に気づいたミカが、ひじで、つついてくる。「ごめん」と、謝って席に着いた。窓際が、真理子。その隣が幸子。対面に、私、ミカ、安子が座った。真理子は、隣が空いているので落ち着かない。
「緑川安子さん。葉子さんの所で会ったでしょう」
「えっ、うん、知ってる。よろしくね」真理子は、初めて会ったように安子と握手した。
重症だ
「それで、隣にいるのが、石田幸子さん。さっちゃんとは、もう、二回会ってんだよ。沙江子さんの家で、光サイドの話をしてくれた時と、葉子さんの所で、安子に会った時もいたよ」
「幸子でーす」
幸子は元気に挨拶した。
「そうなの、光サイドって」
「光素体の世界のこと。さっちゃんは、活動しているから、幽霊って呼ぶの変でしょう。それに、隔慮もイメージしにくい。だから、みんなで考えたの」
「へえ、いいんじゃない」
「真理子、さっちゃんを無視しないで」
「ごめん、実感ないから。ごめんね、さっちゃんって呼んでいい」
「さっちゃんでいいの」
「いいって」
「ありがとう」
真理子は、全然落ち着きがない。自分が、レアチーズケーキを食べたいばっかりにここにしたのだが。葉子の家にした方がよかったかなと思った。
「麻依さん」
ミカが、また肘でつついてきた。
「あっ、これ、光サイドと繋がっているハンカチ」
そう言って、美代子のハンカチを真理子に差し出した。
「これを検証してもらいたいの。さっちゃんが光サイドのトマトで染めたハンカチよ」
「これが!」
「真理子さん、右の膝の上にハンカチをおいてください。それで、さっちゃんって呼んでみてください。トントンって、ハンカチを指で突いてくれますから」
真理子は、ミカに言われるままにした。
「さっちゃん!」
トントン
「わかる」
真理子は、このトントンにビックっとしたが、研究者の顔もした。
「私は、この、トントンでさっちゃんと話しています」
安子が、モールス信号のことを話す。
「モールス信号ね。沙江子さんから聞いたわ。私も、覚える」
「麻依ちゃん、真理子さんと話したい」
「いいわよ。真理子さん、さっちゃんが話したいって。私が、ホローするね」
幸子は、自分が一番知りたいことを聞いた。
「私ね、昇天し掛けたんだけど、戻って来ちゃったんだ。私、どうなるのかな」
ミカが、二人でキスしたことを思い出して真っ赤になった。
「どういうこと?」
解説する私も、困った。話せば、長い話だ。それは、おいおい、話していこうと思った。
「さっちゃんの願いがかなったのね。それで、昇天しそうになったのよ。そのとき、可視光線の領域を超えて光りだしたわ」
「だから、私にも見えました」と、安子。
「でも、何て言えばいいんだろ。その時、光サイドのトマトみたいな果汁を飲んでしまったのね(ミカの唾液)。それで、光色化が解けて、元に戻っちゃったの」
ミカと幸子は、真っ赤になった。
「高周波側にずれて光ったってことね」
「そうです」と、安子。
「さっちゃんは、低周波帯から、高周波帯にずれたのね。ところが、低周波で安定している果汁を飲んだ。だから、その記憶で安定周波数帯に戻れたのね」
「幸子は、もう、昇天しないの」
「そんなことない。もし、光色化だったかしら、それを操作できるようになっても、地球には、太陽の放射線が降り注いでいるのよ。自然と、生まれ変わりを目指すと思うわ」
「さっちゃん安心した」
「うん」
「もしかして、光色を操作できるようになった?」
「ちょっとだけ、ねっ、さっちゃん。さっちゃんは、指先をちょっとだけ光らせることができるのよ」
幸子がやって見せるが、真理子には見えない。
「すごい、高周波帯の光色を覚えたってことね」
トントン
さっきより強くなったトントンに、ビクッとはしているが、真理子は、さっそく光色と言う新しい言葉を喜んで使っている。
ここで、真理子に、くぎを刺すことにした。沙江子さんに、もう一度そうしてと、言われていた。
「ねっ、私たちのことは、黙っていてほしいの。じゃあないと、みんな大変なことになる。さっちゃんのことは、お兄さんの洋介君しか知らないのよ。他の家族に話したら身動きできなくなるって言ってた。私のことが、お父さんにばれたら、もっと大変。だからお母さんに話していない。それから、これから話すことは、街の繁栄に関わることだって、それに白門島の人や海賊の人たちにもかかわることよ、紗江子さんが言ってた。倭人海賊団のこと自体秘密だから、お父さんなんか、要注意人物なんだって」
「私は学者よ。マスコミじゃあないわ。自分で研究した成果を発表する。みんな協力してくれるんでしょう」
私たち全員で頷いた。




