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オカルトクラブと翼の少女  作者: 星村直樹
守り神
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真理子

 本屋は、私の家から近い。駅は、海側にある。私の家は、更に海側だ。城山神社などは、石段の下に電車が通っている。あの暗い石段と、電車が通る音だけを聞いていたら、更に怖いだろう。もう、暖かくなっていたから、いい加減な格好をして出てきた。遠くから手を振りながらやってくるミカを見て驚いた。男の子だったら、萌えるって言うのかな、とにかく、めちゃめちゃ可愛い。フリルのスカートに重ね着のキャミソール。そりゃそうだ。背中に天子の羽が生えている人だから。私には、それも見えるからなおさらだ。羽は、小さく背中に収まっている。夢の中では、これが広がってかっこいい。ちなみに1枚、羽根を貰って私の部屋の一輪挿しに飾っている。触ることは出来ないけど、ずっとそこにあるから不思議だ。


「おまたせしました」

「かわいい!男子がほっとかないんじゃない」

「そうですかね。良くわからないです」

「センスもいいと思う。背中の羽とのバランスもいい」

「今は、背中に収まっているんですよね」

「知りたい?突っつくと分かるかも」

「だめです。人がいないところじゃないと、変な人に見られます」

「そうよね。そうだ、あそこの喫茶店、気になっているのね。今日は、本を買うからお小遣い足りないけど、チャンスがあったら、行ってみない」

「私も気になってました。本がいくらするか分からないし、今度ですね」


 手話の本は、そんなに高いものではなかったが、いっぱい種類があって驚いた。だから二人で違う本を買うことにした。どれが、自分に合う本なのか分からないので、最初3冊選んで、えーいこれだと1冊に絞ってちょっとパラぱらっとしていたら、後ろから呼び止められた。


「あれー、麻衣子!」


 呼ばれて振り向くと従姉の真理子がいた。従姉と言っても、年が離れている。真理子は、大学を卒業して実家に帰って来ていた。やりたい事が、大学で見つからなかったからだそうだ。料理が得意だから、結婚するのも悪くないと言っていた。


「へー手話か、興味有るんだ」


 真理子が、私の本を取って見ていた時に、ミカが私の後ろから出てきて頭を下げた。


「かわいい子連れてるじゃない。お名前は」

「木野ミカです」

「ミカちゃんか。わたし暇なんだ。せっかく会った事だし、お茶おごってあげる。いい喫茶店が有のよ」


 私達は、目を合わせてニッコリした。手話の本を買って、真理子の後をついていく。やっぱり、あの喫茶店に入った。喫茶店の名前は、杜甫。中国の詩人で、詩聖といわれた人だ。ここの一押しは、レアチーズケーキセットだった。レアチーズケーキに眼がくらんで、ゆっくり周りは見ていなかったが、古民家風の落ち着いた感じの店で、この、古い町に合っていると思った。


「上京した時は、この店なかったわ」

 窓際の席を取って、真理子は、店内を見回している。


「麻衣子も中学生になったんでしょう。喫茶店ぐらい入っても平気よ」


 そう言いながら、レアチーズケーキセットを注文してくれた。私と、ミカは、喫茶店のコーヒーが苦手だ。ミカも言っていたが、ちょっと濃すぎる。それに寝られなくなるので、紅茶にした。真理子は、普通にコーヒーを頼んだ。


 それにしても、ふわふわなのに、中身がずっしり詰まっていて、口でとろけるおいしさ。私は、レアチーズケーキにはまった。


 わたしゃーコイツの虜だよ


 多分、鏡で、自分の顔を見たら、星がリアルに出ていただろう。ミカもそんな感じだった。真理子は、この味を知っているのか普通においしくいただいている。レアチーズケーキをたんのうして、真理子を見ると、フッって顔をしたので、ちょっと気になった。


「なんで就職しなかったの。有名な大学だったんでしょ」


 真理子は、肘をついて手に顎を乗せている。ちょっとたそがれポーズだ。


「そうよ。でもね、私が専攻した学科は、研究者にでもならないかぎり、就職にならなかったのよ。少し違う分野に行くのもどうかなって思ってちょっと考え中よ」

「なんだか難しい学科でしょう。もったいない」

「うふ、量子力学よ。名前ぐらい覚えて、これでも、4年も勉強したんだから」

「聞いたことあります。葉子さんも同じようなのだと思います」と、ミカ。

「葉子さんって」

「ミカに連れられて日曜に会いにいく人。観測気球で、オーロラを撮るそうよ。その前に、気球を体験したいんだって。今は人が乗れるのを製作中なの。私も、会った事ない」

「そうなんです。葉子さんも量子力学って言ってました」

「波動力学かしら、ミカちゃん私も興味ある。私も、日曜に連れてって」

「本当ですか、葉子さん喜ぶと思います」


 真理子は、やっぱり自分の研究をあきらめていなかった。急に、自分が勉強してきた事を話しだした。はっきり言って、難しい話だったから、話し半分だったけど、落ち込んだ顔を見るより遥かにいい。ミカにつき合わせたのは、悪かったけど、レアチーズケーキ代だと思えば安いものよね。


「私の研究は、光子力学よ。光は、重さがないとされてるわ。相対性理論もそれで成り立っているの。だけど、説明つかないことも有るのよ。光りより早いニュートリノなんかがそうよ。だから、光を粒子だと考えて、もう一度理論構築するのが、私の研究よ」


 今の話しは、注釈をいっぱい付けて貰わないと全然分からなかった。しかしがんばって質問する。


「光が粒子だと、どんな世界になるの」

「世界か。なかなかいい質問するわね」


 私は、ミカを見て苦笑いした。ミカは、私の気持ちが分かったようだ。


「そうね、光のスピードが、一定でなくなるわ。最高スピードが存在する事になる。逆に低周波になると光の世界が存在するかもしれないわ。私達が、精神世界だと創造している世界よ」


 私と、ミカには、身に覚えがある。


「今分かっている物質の組成は、陽子とか電子、中性子よ。もうすく麻衣子たちも習うんじゃない。元素番号とか勉強するわよ。もし、光にもその原子番号が当てはまったら、物質を光レベルだけで構成していると考える事も出来るわ。元素に張り合って仮に光素って呼ぶ。そうしたら、光素番号があっても不思議ないじゃないでしょ。たぶん、元素も光素もお互い干渉し合っていると思うの。じゃあないと、多次元の説明ができないのよ」


 ひえー全然わかんない。負けないぞ。


「要するに、お化けがいてもおかしくないって事」

「言うわね。可能性は、有るわ。麻衣子、理解早いわね」

「ごめん、全然わからなかった」

「えーそうなの、でも、私より確信があるって感じで話していたわよ」


 そりゃあ---、ねえ


 私は、チラッとミカを見た。ミカも、チンプンカンプンだったのだろう、だけど気になるという顔をしている。


「私達、中学一年なんですけど」


「ごめん、そうだった。誰かに聞いてもらいたかったのよ。でもちゃんと受け答えするから、つい突っ込んだ話しをしちゃったわ。また今度聞いて。ここのレアチーズケーキセットをおごるから」

「本当、うれしい」

「麻衣子は数少ない私の理解者よ。分からなくても、又、聞いてね」

「そりゃもう、レアチーズケーキの為なら」

「現金ね」

「私も聞きます」

「ミカちゃんもありがとう」


 真理子は、ちょっと元気になった。私はそれで満足した。

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