かいじゃ様は、健太郎
ドスン
甘かった。すっかり寝入ったときに、涼子に起こされた。眠い目をこすって涼子の髪をとく。ミカも一緒に起きてくれたが、今回は、本当に疲れたようだった。
「ふぁー麻衣さん昨晩はすごかったですね」
涼子がいることを忘れて話し出す。起きたばかりのミカは、夢のことをいっぱい覚えている。だから、起きたときに私に話したいのだ。
「涼子、髪止めがないの。持ってきて」
涼子を上手くこの場から離し、ミカに釘をさす。
「涼子に、ミカの話は早いわ。後で、話してあげるから」
「すいません。もう一回寝ます」
ミカはあわあわ言いながら、また、布団に潜った。戻って来た涼子の髪を梳きながら、今日の予定を話す。
「鯨さんたちとも仲良くなったから、一回、白門島に戻って、テツや、みっちゃんの練習振りを見に行かない?」
「ええな、麻衣、塩じいに好かれたんじゃろ」
「そうよ、阪本のおじいちゃんに、仲良くなったって言うつもり」
「私も行く」
「涼子はダメよ。夏休みの宿題全然やっていないでしょ。今朝こそ頑張って。お昼を食べたら帰るからね」
「ぶー」
「おじいちゃんにスイカをいっぱい貰ってくるから」
「彩に教えてもらって直ぐ終わらせる」
「よろしい、はい、出来上がり」
涼子は、いつものように彩のところに走った。
朝日の中、私は、昨日の出来事を美代子と潔にメールした。美代子から直ぐ電話が掛かってきた。
「朱雀が見つかったのね。直ぐに会いに行くの」
「ダイビングしないと無理なところよ。みっちゃんは、小5のときやったって、言っていたけど、私とミカは、全然よ。どうせ潔もだめでしょう」
「島のダイビングスクールで、講習を受ければ直ぐ潜れるようになるよ。信ちゃんに言っとく」
「信ちゃんって」
「信ちゃんは、信ちゃんよ。青海衆の」
「わかった。青海衆の頭ね。ダイビングスクールやっているの?」
「お父さんがね。青海島でやってるよ」
「それじゃあ、潔は、中学の部が終わるまで、講習受けられないね」
「そうなるかな。潔ちょっとあれでしょう。コウさんに絞られているの。麻依が活を入れて」
「分かった。じゃあ一週間先に伸びるか。だったら、一回龍の里に帰るね。コンやおずち様にも朱雀のことを話したいし」
「一回は、こっちに来るでしょう」
「涼子たちもいるし、電話だと詳しく話せないから一泊してから帰る。たぶん、お昼過ぎ」
「妙子おばさんに言っとく」
美代子の電話を切ると、潔から、もっと詳しく教えてメールが来た。お昼には帰るからと突っぱねると、寝ているミカにもメールしていたから、根負けして、長文メールを返信してやった。朱雀の為に、それから、難破船の慰霊のためにも、全員で迎えに行こうと力説するので、ダイビングスクールは、海賊戦中学の部の後でね。と、メールすると、納得メールが帰ってきた。潔も、今日は、ちょっと練習に身が入るのではないかと思う。
阪本家三回目の訪問
健太郎にミカも連れて阪本爺さんのところに行くことになった。電話したら、畑の方に来てくれと言われて、畑を知っている健太郎の後に付いていく。畑は、山の斜面を切り開いた段々畑で、スイカ以外にみかんを栽培している。阪本家から上がっていくのだが、今日は、一番手前の何でも植えている小さな畑にいるそうだ。
「おばあちゃんの畑と同じです」
ミカの家の前にもこんな小さな畑があって、ミカのおばあちゃんが世話をしている。きゅうりやトマト、ナスが収穫期を迎えていた。
畑の奥に屋根のついた作業場があり、阪本爺さんはそこで、タバコをふかしながら、海を見ていた。テレビの時代劇でしか見たことのない、キセルでタバコをふかしていた。
「おじいちゃん」
阪本爺さんは、私を見もしないで話し出した。
「ぎのうは、チゴがさわいどった」
健太郎が説明する。
「チゴってコククジラのことだよ。塩じいたちのこと」
「すみません、私です」
ミカが、誤る。
「いや、喜んどった。あんだは?」
「ミカです」
「おぼことは大違いじゃ。かわいいの」
やっぱりむかつく、このじいちゃん。
「ミカに朱雀神社を確かめてもらったのよ。海賊戦中学の部が終わったら、みんなで会いに行くって朱雀と約束した」
キセルを口から離し、信じられないという顔をして、ミカを見る。ミカは、おじいちゃんのひざに手を置いて話す。
「ずさ神社の入り口見たか」
「やっぱり、朱雀神社じゃなかったんですね。ずさってひらがなで、書いてありました」
「古い名じゃ。これで元に戻る」
二人には、私達のことを話してもかまわないと思っているが、阪本爺さんは細かいことを聞いてこない。
「昨日は、鯨の神様も一緒でした。朱雀さんと友達みたいです」
「ほうか、ほうか」
阪本爺さんはこっくり、こっくりと頷く。
「なんじゃ、鯨の神様って」
健太郎は聞いてくるが、阪本爺さんが聞かないので、細かくは答えないことにした。
「海守様になったら教えてあげる。まだ見習いでしょ」
「鯨さんたちともみんな仲良くなりました。鯨の巣の横は、通っていいみたい」
「そうなんじゃ、塩じいとも仲良くなったんじゃ」
「うほっ」
「それで、おじいちゃん、お盆に朱雀の所に行きたいの。難破船の慰霊もしたいし、健ちゃんを借りたいんだけど、いい」
「いけん言う訳にもいかんか、おぼこにゃかなわん。 健太郎」
「じいちゃん、ちゃんと勤めを果たすけえ」
「言うようになったのう」
阪本爺さんは、またキセルを咥えて海を見ながらタバコ吸った。それが最後だったので、灰をぽんと落とす。
「ずさ神社は、遠いで」
「私達が、酸素ボンベで、健ちゃんを助けるから」
「だめじゃ、一週間、わがっとるの健太郎」
「練習する」
しかし、これは、命がけだと思う。それでも、私は、健太郎を後押しする。
「神社の中に、空気がたまっているところがあるわ」
阪本爺さんが、ぐっと頭を起こす。
「涼子と彩に手伝ってもらえ」
「ええんか」
多分、緊急時で、譲歩してくれたのだろう。
「二人をここに呼べ」
「直ぐ呼んでくる」
健太郎は、あわてて涼子たちのところに走り出した。残った私達に、阪本爺さんは、深く頭を下げてお礼を言う。
「ありがとう、ほんまに、ありがとう。朱雀をお願いします」
綺麗な標準語のイントネーションだ。なかなか頭を上げないおじいさんに、ミカがひざをゆする。
「おじいちゃん、おじいちゃん」
「それじゃあ、お礼にスイカを貰うわ」
「好きなだけ、持って行くとええ。ほんま、おぼこにゃかなわん」
「麻衣子よ」
「そうじゃった、そうじゃった」
阪本爺さんは、どうせどれが甘いかわからんじゃろうと、スイカを選んでくれた。私とミカは、特大のスイカを貰った。
「麻衣子さんミカさん、健太郎を頼めるか」
「任せて」
いざとなったら、助けてということね
私達が、やすみ休みスイカを持って帰る道行きで、涼子たちとすれ違う。
「涼子、彩ちゃん」
「じいちゃんに呼ばれたんじゃ」
「知ってる。後で聞かせて、スイカを冷やして待ってるから」
石田家に帰ってきた三人は、すまなそうに私達に謝った。
「麻衣ネエごめん」
「私たち、中学戦までには、戻ってみせるね」
ミカも彩と話している。
「ミカお姉ちゃん、道標の詳細を教えてほしいの。ずさ神社のことも」
「そうですね。健太郎さんが、海流に巻き込まれないで、海面に浮上するポイントはあるはずです。彩さんが見つけてあげてください」
「神社近くだと、海底に引きずり込まれそう」
「鯨の巣まで戻れば、海上には出れると思います。でも、潮には巻き込まれるでしょうね」
「私も自分で確かめるようにする」
「彩ちゃんがそんなこと言うなんて珍しいです」
「健ちゃんの命が掛かっているから」
そうですと、ミカが、頷く。
二人は、手を取り合って話している。
私は涼子を叱咤した。
「いざとなったら涼子が健ちゃんを助けるのよ」
「わかってる。潮の流れも見て、その場所で、健ちゃんを待ってみせる」
「偉いわ、私達は一回、町に帰らないといけないの。お盆にあいましょう」
「うん」
私達も手を取り合った。健太郎は、オーラが、激しくなり、岩に打ち付けられる波のようになっている。涼子も彩もそれに呼応するようにオーラが膨らんだ。




