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オカルトクラブと翼の少女  作者: 星村直樹
美代子
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ホエールウオッチング

 みんな、水羊羹を食べてホエールウオッチングすることになった。彩は、こうなった経緯をミカに聞いていた。さすが城山家。


 みんな水着になって、岩場側の出入り口に着くと健太郎がたわしを持って追いかけてきた。


「たわしは、三つしかなかった」


「触るだけでも満足するんでしょ、いいんじゃない」


 と、言う私を尻目に、涼子が、デッキブラシを持ってきた。


「涼子ちゃん!」


「これぐらいやらんと効かんじゃろ」


 いやな予感がする

 私は、先が思いやられた。


 コククジラは、大きいもので、15メートル33トンにもなる。ひげ鯨なので歯はない。沿岸部を回遊する鯨だが、南北2万キロも移動する。背びれはなく尾びれまでこぶがあるのが特徴だ。食べ物は、海底の泥や砂を髭で濾してカニやエビなどを食べる。体にフジツボやえぼし貝を寄生させているから、まだら模様に見える。これを、ブラシで擦ろうというのだ。


 夏は、オホーツク海にいる。冬に中国広東地方の沖で繁殖する。何かの事情で、瀬戸内に来たのだろうが、食べ物は豊富だ。こちらも赤潮になるよりよっぽど良い。私達は、仲良くなることに決めた。


 五人で、四人乗りの大人用海賊船に乗り込んだ。健太郎にしてみたら、涼子たちと自分たちの海賊船に乗りたかったのだろうが、私とミカの実力を過大評価しすぎだ。特に長距離は、途中で降参するしかない。それは、舟を漕いで、健太郎が納得するのにあまり時間が掛からなかった。


「麻衣ネエも、ミカねえちゃんも、あんまり漕げんのか」


「町の子なんだから、こんなものよ」

 とりあえず開き直って見せた。


「よう海賊戦で勝てたな」


「みっちゃんが居たからよ。でも、団体戦は、操船技術も居るから、テツにはずされているでしょ。私達は、みっちゃんを島対抗戦に送りたかっただけ」


「そうじゃ、お嬢が居たら、負けん」

 健太郎は、とても嬉しそうだ。


「私らが中学になったら、頭はみっちゃんじゃ」涼子もかぶって話す。


「そうじゃの、ぼくらも負けなしじゃ」


 健太郎と涼子は、大笑いしている。彩も楽しそうだ。舟は、島の西側に向かっている。


「こっちは、巣とは反対方向ね」


「昼間は、こっちにおる」

「あそこ、漁船と並んでる」

 彩が指差した方向に、天昇丸が見えた。髭親父の舟だ。髭親父は、一本釣りをしていた。船には、中学生らしい子が乗っている。


「和ちゃーん」

 涼子が立って手を振った。


「あっ、チーム青魚の船長だわ」

「あの顔、覚えています」

 必死な形相で、ミカに突っ込みそうになった子だ。天昇丸の横には、親子の鯨が、のんびり、ぷかぷか浮いている。


 天昇丸はまだ遠く、船上で「和ちゃん言うな」と叫び返していた。船に近づくと私達も指差された。


「あーチームタマ」

「もう、終わったでしょ」

「こりゃ、魚が逃げる」

 和が、髭親父に殴られた。


「何しに来たんじゃ」

「鯨と仲良くなりによ。和ちゃんも来る?」

「あほ、仕事中じゃ」

 涼子の誘いに真っ向否定する。そういえば、チーム青魚は、操船に長けていた。この子達を利用しない手はないと思う。


「私達、鯨と仲良くなりたいの。チーム青魚のクルーを貸してくれない。ちゃんと舟を漕げないのよ」

「そんなん、自分で漕げ」

「あら、私達に負けたくせに、そんな大口叩いていいの」

「和、同じ中学生なんじゃ。仲良くしとけ」

 髭親父が後押ししてくれた。和は、悔しそうな顔をしたが、髭親父に言われて頭を縦に振った。


「分かった、明日から付きおうちゃる。石田ん所に行きゃあええんか。それ、カイジの海賊船じゃろ」

「和ちゃんたち来るの!、健ちゃん、お昼、何とかならない」と、涼子。

「母ちゃんに言うとく」

「じゃあ、十時ごろ来て」

「わかった」


 強い味方を得て、二艘で、鯨と仲良くなることになった。


 ザブン


 和と話し込んでいたら、鯨が、舟の横まで来て顔を上げたりしてくる。フジツボやえぼし貝に寄生されていない。子供の鯨だ。


「こいつは、ハナ、メスじゃ。尾びれを見てみ。花みたいな模様じゃろ」

「メスって何処で分かるの」

「潜るとわかる」

「潜るって、鯨と一緒に泳ぐんですか」

「気持ちええんじゃろ」涼子は泳ぐ気満々だ。


 私は、まさか頭をなでることになるとは思わなかったが、たまたまそうなった。ハナは、人懐っこい。


「きゃ、かわいい」

「おーい健太郎。あっちでやってくれ。釣りに集中できん」

「ごめんなさい」ミカが代わりに謝る。


 髭親父に怒られて、天昇丸から離れた。花は、体長四メートルぐらいしかない。私達についてくる。その後を12メートルの母鯨が追ってきた。コククジラの寿命は、50から60年、人と同じぐらいの動物寿命だ。


「ハナは、生まれたばっかりじゃ」

「繁殖の時期とあわないわね」

「よう分からんけど、瀬戸内海生まれじゃ」


 そうか、ここは、人間という天敵さえ居なければ、いい生息地なんだ。


「お母さんは、なんて名前」

 ハナに、べたべたな、みんなを尻目に母親の名前を聞く。


「静、しずくみたいな点々があるじゃろ」

 私は、思い切って静を呼んでみた。


「静、いらっしゃい」

 舟の反対側に静が来た。大きいので、船が揺れる。


 パー、ザブン

 海水を思いっきり掛けられた。


「麻衣さん!」

「ごめん、舟の海水を掬い出して」


 私は、静をたわしで擦ってみた。嫌がるどころか、体を舟に摺り寄せてきた。


「静、近すぎる」

 健太郎も驚いている。


「大丈夫、ちょっと離れて」

 静を触りながら、話しかけるとおとなしくなった。


「ブラシって、気持ちいいのかも」


 ここで、涼子が調子に乗った。私には、2割り増しに燃えているように見える。


「わかった、わたしがやる」


 涼子は、デッキブラシを持って静を擦りだした。静は、気持ちいいのだろうが、えびぞった。舟は、転覆するのかと思うぐらい揺れる。


「海上でおとなしくするのよ」

 涼子は、静に乗り移り、更にデッキブラシで擦る。コククジラに背びれはない。


「涼子ちゃんむちゃしないで」


 あの状況で、笑っているから豪気だ。


 静は、最初こそおとなしくしていたが、頭を空中に上げたかと思うと、ザブンと海に潜った。涼子は投げ出されデッキブラシが宙を舞う。


「涼子さん!」

 ミカが、口を手で押さえた。健太郎は、直ぐ海に飛び込んで、涼子のところに行く。良く見たら、涼子は、静とハナ、それから、健太郎と一緒に泳いでいた。私達は、デッキブラシを拾うので、精一杯だ。


 最初にハナが戻ってきた。続いて、静。涼子は、健太郎に船上へ押し上げられた。


「涼子のやつ、ちゃんと息をいっぱい吸い込まないで潜ったから、へろへろじゃ」


 涼子は少し海水も飲んでいた。


「はあはあ、ぶっ、はあはあ、ハッ、アハハハハハ」

「ちょっと、涼子ちゃん」

「面白かった」

「面白かったじゃないですよ」

「デッキブラシは、禁止よ」


 静の背中には、涼子が削ったブイ字が残っている。静が怒ったのではないことも分かる。クーンと心配そうに涼子を見ているからだ。


「静、大丈夫よ」

 その言い方を涼子が、まねる。

「大丈夫よ」


 静は、安心したのか、ハナを連れて、舟を離れだした。舟は水浸しだ。彩が、ずっと海水をかき出していた。


「彩ちゃん代わります」

 ミカが、彩と交代した。


「ハナちゃん、またねー」

 彩が、ハナたちを見送る。ハナが嬉しそうにはねた。


「健ちゃんハナたちと仲良くなったわよ。後何頭」


「五頭、塩爺と、みんなをまとめているクロが居る」


「後は?」


「親子鯨、ここは、食べ物が豊富だから、みんな散らばってる。たまに肌を擦り合わせてフジツボを落としているみたいじゃ」


「わかったわ、今日は十分涼子ちゃんに、はらはらさせられたから、帰りましょう」


「そうじゃな。明日は、和ちゃんも来てくれる。二艘で出航じゃ」


 涼子が船長席に立って高笑いをしている。私のお父さんと気が合いそう。はい、はいと思いながら、健太郎とオールを漕いだ。帰り際、また鯨に会った。三郎だ。


「三郎は、ぼくの船着場の近所におることが多いんじゃ。三郎ー」

 健太郎は、三郎と叫ぶなり、直ぐ海に飛び込んだ。信じられないスピードで潜っていく。三郎もその後を追い。今度は海面に上昇してきた。


 ザブーン

 健太郎と三郎は、同時に海上に跳ねた。


「健ちゃん跳ねすぎ」

 涼子もこれにはついていけない。


「涼子、お前も来い」

「うん」と、涼子も海に飛び込む。


「彩ちゃんはいいの」


「私は、普通の人だから」


「そうよね」


 三郎もOKだから、明日は、もう二頭の親子を探すかと、思う。


「三郎の尾びれに三本の白い線を見つけました」ミカは、のんびりしているが確実だ。


「こうしてみると、みんな違うのね」


「丘の漁師は、鯨を狩るけど、海賊は、みんな仲がいいんですね」


「不思議ねーお父さんも紗江子おばさんと関わっているんだから、もっと、倭人海賊団のことを知っててもおかしくないはずなのに。こういうことを教えてくれたことがないわ」


「それはー」


「彩ちゃん何か知ってるの」


「確か、倭人海賊団の秘密保持のため、綾瀬隆さんには、教えるなって、御触れが出ていたような」


「ごめんなさい。海賊団の人の方が正しいわ」

 彩に言われてとっても恥ずかしい思いをした。お父さんの騒ぎ癖は、妙な所に轟いていた。


「先に帰るわよー」


 私の声に、涼子と健太郎が手を振っている。こうして鯨と関わってみると、普通に共生できるような気がする。相手は、とても大きいのだが、頭もいい。


「麻衣さん、瀬戸内海の鯨は、一度全滅したんですか?」


「ネットで調べた限りではそう。だけど、追い出された子もいると思う。公害もひどかったって書いてあったわ」


「じゃあ大切にしないと」


「ほんとうね」


 楽しそうに遊んでいる、鯨の三郎は、たぶん涼子や健太郎と同じ年ぐらいなのだろう。こうやって見ると、ちっとも不自然ではない。ほかの鯨とも仲良くなれる気がした。

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