表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オカルトクラブと翼の少女  作者: 星村直樹
美代子
81/108

阪本じいさん

 阪本のおじいちゃんの家も岸壁に建てられていた。息子さんは、漁師をやっていて、岩場伝いに海岸に降りると大きな船が停泊している。夜の7時になったが、たずねると、歓迎されておじいちゃんが待つ海が良く見える部屋に通された。


 おじいちゃんは、真っ黒で、まったく脂肪がない筋肉のみの、ちょっとやせた体に、白のステテコとシャツだけで、海を眺めていた。ここは、蚊がこないので、窓が開けっ放しだ。海から吹き上げてくる風が心地よい


「ようぎだ」


「おじゃまします」


 私は、潔の背中を押しておじいちゃんの前に出した。なんとなくとっつきにくい。しかし、私に興味を持って、こっちに来いと手招きする。


「じょうは?まあええ。あんだ、ぢぢばんどしとらんじゃろ。おぼこか?」


 言葉が分かりにくいとは、聞いていたが、なんかむかつく。


「やあね、おじいちゃん」と、言って、思いっきり叩いてやった。


「うほ、わがいの」


 おじいちゃんにはぜんぜん効いていない。美代子が見かねて前に出た。


「お嬢は、私よ」


「じょう! そうが、さえごに似とる」


「城山神社の潔が聞きたいことがあるそうなの、朱雀のことを教えてあげて」


 おじいちゃんは、急に神妙になり、何度もうなずく。


「わがっだ。潔、まあ飲め。薬じゃ」


 本当に分かったのか怪しい。阪本爺さんは、潔に梅酒を勧めた。潔は酒など飲めるわけもないのだが、逆らうと話が続かないと思い、諦めたようにコップを持ち、注がれた梅酒をちびちびやった。


「薬じゃ」


 じいちゃんに脅され、潔は、ぐいっといってしまった。もう顔が真っ赤だ。


「綾瀬、後は頼んだ」

 潔は、その場で寝入ってしまった。


「なんじゃ、おめえ、かっかっかっかっ」

 おじいちゃんは上機嫌で、梅酒を飲む。仕方なく私が潔を引き継いだ。


「おじいちゃんは、海上がりの徳利を揚げた事があるんでしょ。何処で?」


 阪本爺さんは、また神妙な顔になった。


「それをぎいて、どうする」


「朱雀を助けたいの。私達は見つけることが出来るわ」


「ほんまか」

 阪本爺さんは黙りこくってしまった。


「海じゃ様に会え。わしゃよう分からん」


「海じゃ様って誰」


「海守様のことよ。海を守っている人。この島には、居ないわ」

 残念そうに美代子が首を振っている。


「漁で揚げたんじゃあないのね」


 私の鋭い突っ込みに阪本爺さんは、伏せていた目を一瞬上げて私を見た。


「普通じゃ行けん。豪いおぼこじゃ。飲むか?」


「結構です。もしかしたら、この近海に海溝があるの」


「海じゃ様にぎけ」


 阪本爺さんは、また黙りこくってしまった。そこに、阪本のおばさんが、冷えたスイカを持ってやってきた。


「おじいさん良かったですね。若い女の子がこんなにたずねて来て」


「ほんまじゃ」


「皆さん、おじいちゃん自慢のスイカよ。食べてね。あらこの子、おじいちゃんね。タオルケットを持ってきてあげるわ」


 おばさんは、潔を見て仕方ないという顔をして部屋をそそくさと出て行った。潔は、赤ら顔こそ引いてきたが、気絶したように眠っている。私はスイカを食べながら、考えをめぐらせ出した。


「美味しいです」

「ほんと」


「じゃろ」


 美代子たちは和んでいるが、何かおかしい。潔は、簡単に撃沈させられた。たぶん、白門神社の宗治さんもここに来ているはずだ。それなのに、宗治さんは何も知らない。ところが、おじいさんは、何か知っていることを隠そうとしない。


「みっちゃん、海守様ってどんな人」


「海の中に神社が有るのよ。そこの神主さん。海のことだったら、何でも知ってる。でも、その神社に行き着くことが出来ないと、海守様にはなれないの。もう、居なくなって何年も経つから、古い話を聞くのは無理じゃないかな」


「白門島には居ないの」


「青海島だけよ。小さいころに一回だけ会った事あるみたい。おじいちゃんなのに泳ぐのが上手なの。最初に泳ぎを教えてくれたのが海守様だって」


「覚えていないの」


「だって二歳よ」


じょうが最後じゃ」


「そうなの」


「あのあど、しんだ」


 私は、潔の代わりに決心しないといけないと考え出した。阪本のおじいちゃんは、答えはあると言っているようなものだ。朱雀は見つかったが蘇生しないのだろう。誰の呼びかけにも答えない。だから、海守が居るのだろうと思った。


「おじいちゃん、海の中の神社は、何神社。なんて名前なの」


「じょう、この子は?」


「私が一番信頼している人よ」

 阪本爺さんは、納得したように私を見た。


「ズザ・・・ズサ神社じゃ」


「海守様が現れないと、誰も、神社にいけないのね」


「じゃ」


「おじいちゃん、行けなくても、その神社を探しても、いい」


 おじいさんは、大きく何度も頷いた。

「じゃが、そごにはちがづぐな。しぬ」


「私には無理かもしれないけど、場所は特定させてもらうわ。だって、私達の声だったら、朱雀に届くもの。私達には、龍神様の加護があるんです」


 きっぱりと言う私を阪本爺さんは、目を見開いて見た。たぶんこのおじいちゃんが、海守様の代理だ。


「そうが、あんだも、スイカ食え」


 探すと決めたら、なんだかスッキリした。私も、美味しそうにスイカを食べた。

「本当、このスイカ甘いわ」


 阪本のおばさんが、タオルケットを持ってやって来た。なにやら、おじいさんと話をして、今度は、海上がりの徳利を持って戻って来た。私達は、それを食い入るように見た。口の大きさが、普通の徳利の倍はある。土肌に炎のような模様が自然と浮かんでいる。釜の中でそうなったのだろう。とても力強い。


「徳利に蓋はないんですか」


「栓はないのよ。昔は、同じ陶器で作ったものがあったはずなんだけど、木でも代用できるじゃない」


 おばさんは、気さくに答えてくれる。この徳利は、口が大きく雀の大きいのぐらい平気で入れることが出来るだろう。朱雀を入れたものと、同じものだと思う。持たせてもらってみると思ったより重い。


「重いわ」


「丈夫なのよ。ちょっとぐらい投げても割れないの」

「よぜ寿子さん」


「冗談ですよ」

 寿子さんは、ニコニコしながら話してくれた。

「これは、室町時代のものだから、今から五百年は経っているかしら、古備前でも、実用的な器が作られた時代の末期ね。その後は、茶器とか、ちょっと粋な感じになるのよ」


「どうして海から出てくるんですか」


「それは、海賊のせいでしょ。この頃は、通行料を取ったりして一番活気が有ったころよ。通行料を払わなかったらねえ」


「沈没させたんですか」


「備前焼は丈夫だったから、人気だったのよ。販売されていた地域もとても広かったのよ。普通、船で運ぶじゃない。水先案内人をつけなかったらそうなることが多かったみたい」


「おばさん、詳しい」


「おじいちゃんの受け売りよ。もっと聞きたかったら、おじいちゃんに聞いてね。海賊の裏話は、十六歳になってからよ」


「裏話!」

 急に潔がガバッと起きて、つぶやいたかと思うと、また眠ってしまった。みんな目を合わせて笑った。


「一番おじいちゃんの話を聞きたかったのは、潔です」


「城山神社の後継さんね。これじゃあまた今度ね」


「私達中一なんです。今度は、お酒なしでお願いします」


「酒じゃない。薬じゃ」


「はいはい、分かりました。でも、たぶん誰か飲まないと話さないわよ。今度は、大人も連れていらっしゃい」


 ちょっと納得してしまった。


 三十分ぐらいして、潔がやっと目を覚ました。梅酒だろうが、お酒はこりごりという顔をしている。真っ先に私に聞いてきた。


「綾瀬、話を聞けたか」


「事情ぐらいは分かったわ。予想だけど。もっと聞きたかったら、海の中に有る神社の場所を見つけないと話してくれないと思うわ」


「海の中に有る神社?そんなの初めて聞く」


「文献にないのね。判る気がする」


「潔、もう一杯行け」

 潔はとんでもないという顔をした。


「今日は、ありがとうございました。白川、木野、帰ろう」

 潔は逃げるように、おじいちゃんの部屋を出た。阪本のおばさんが、スイカを持って帰りなさいと、おじいさんのことを謝った。


「また来ます。と、言っても、海賊戦の練習があるから、厳しいかもしれません」


「あら、潔君が。すごいわね」

「補欠です。白川は、頭船に乗りますけど」


「さすが、お嬢」


「私とミカは、参加していませんから、もしかしたら、青海島で、のんびりするかもしれません」


 ミカが、えーっと言う顔をした。

「麻衣さん」


「麻衣ちゃん! もしかして綾瀬さんの」


「はい」


「それを聞いたら、おじいちゃん喜ぶわ。二人で、酔いつぶれるまで、お酒を飲んだことがあるのよ」


「ありそうな気がします」


「そのときの話を今でもするの」


 苦笑いをしながら阪本家を後にした。道行、潔に、私の予想を話すと、また考え込んでしまった。石田家に着く頃、急に話し出した。


「綾瀬、ズサ神社を探してくれるのか。それが、朱雀がいる神社なんだろ」


「出来るだけね。ミカにも頼んで、一人だと危ないところみたいなのよ」


「木野」


「分かりました。しばらく青海島に居ます」


「石田のおばさんには、私がお願いする。私と潔は海賊戦の練習があるけど、麻衣たちは、ここでのんびりしたいって言えば、喜ぶから」


「頼むよ白川」


「中学の海賊戦は、8月12日よ」


「もしかしたら一回家に帰るかもしれない」


「入盆までには、白門島に来てね」


 こうして私達のやることは決まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ