学校探検
お昼、美代子のクラスに行くと、ミカが、寝不足なのか、ボーッとしていた。お弁当を広げて、食べ出すと元気になったが、美代子に、後で、ノートを見せて欲しいと言っていた。
「服作れた?寝てないんでしょ」
「そうでもないんですが、普通の人より寝ていないかも。他の神社も、廻ってみませんか。やっぱり、布が足りないですよ」
美代子は、ははーんという顔をした。
「もしかして、試して見た? 鏡に映るって言ってたよね」
「まだ完成じゃあないです。でも、これを着ているほうが、もっとHっぽく見えます」
「見てみたい」
「私も」
「面白がらないでください。必死なんですから」
しかし、美代子は、ウインナーを食べながら難しいかなと話した。
「でも、特別だと思うよ。本殿の、それも、勾玉の敷布なんて普通もらえないよ。麻衣がいたから、潔がくれただけで、普通は、ありえないと思うな」
「潔さん、麻衣さんの事が好きなんですか」
私は、食べていた卵焼きを逆流させた。
ぶっ
「ちょっと違うかな、潔は、保育園のころ、ずっと麻衣の後ろに、くっついてた。付き人みたいなものよ」
「一緒に遊んでただけよ」
「結構、命令してたよ。潔もすぐ反応してた。いっそ、潔もオカルトクラブに入れたらいいんだよ。そうしたら、もっと協力してもらえるよ。先生にだって創部を相談しなくっちゃいけないんだから」
「ちょっと厳しいです」
ミカは残念そうな顔をしている。
「そのうち馴れるって、どうせ潔も、帰宅部だから。考えといて、力仕事要員も必要だよ。猫ちゃんみたいに、いい子ばかりとは限らないじゃない」
「猫ちゃんなんだけど、明日にしない。みっちゃんも一緒に行けるし」
「私もそのほうがいいです。相当手直し、しないといけないから」
美代子は、潔も巻き込みたくて仕方ないようだ。確かにあいつなら、私の事を変な子だとは思わないだろう。小さいころは、潔の方が、お化けとか妖怪が好きな子だった。興味示すだろうな。ミカきっかけで、潔も誘おうかと、思い出した。
「御飯食べたら、学校の探険に行くからね」
「探険ですか」
「私は、クラスが違うでしょう。ずっと、此処で、お弁当食べるの、気が引けるのよ。いい場所が見つかったら、オカルトクラブの打ち合わせも、しやすいでしょ」
「良いと思います」
ミカも賛成してくれて、この後、学校探検に出かけることになった。良くテレビの学園ドラマで、お弁当を屋上で食べるシーンが有るけど、うちの校舎は、木造だから、屋上はない。部活をやっている人は、部室で食べている人もいる。でも、私達は、今のところ帰宅部だから、真剣に探さないと、いい場所は見つからない。
校舎は、コの字型になっていて、隣が体育館、向かいが、運動場になっている。2階建ての古い校舎だ。体育館とは反対に、特別教室がいっぱい入っている別棟がある。音楽室や、家庭科の教室、視聴覚教室などもある。理科の実験室は、ちょっと酢酸くさいし、家庭科の実習室は、人でいっぱいだ。とにかく別棟が、可能性高いという事になり、まずそこに向かう事になった。ここは、雨が降っても連絡通路が有るから、いつでもこられる。体育館もそうだが、運動場の運動部関係の部室は、大変だ。別棟の校舎は、生徒達で、勝手に特別棟と呼ばれていた。購買部は、その通り道にある。コの字型のちょっと出っぱった所だ。
特別棟に着いた。入り口からすぐあがった所は、音楽室だ。2階にある音楽室の隣は、視聴覚教室で、ここが、ねらい目だと真っ先に向かった。しかし、みんな考えることは同じだ。上級生もいて入りずらい。パソコン教室もそうだ。鍵がかかる教室は、部室にもなっている。人気があるか、部室になっていて、ちょっと厳しいのが特別棟だった。音楽室から対面の第2視聴覚教室が、ブラスバンド部の部室だ。ここも、いっぱいだ。家庭科の実習室は、女子ばかりだったから、何もない時はいいかもと思った。でも、私達の話しは、他の人が聞いたら変だから、もっと人が少ない所を探すことにした。
「なかなか、いいところないね」
美代子は、ブラバン(ブラスバンド部)の先輩と話して、結構充実していた。
「そうですよね。あまり他の人に、私達の話しを聞いて貰いたくないし」
「そんなの教室だって同じじゃん」
「まだ、みんないるから、まぎれて分からないだけよ。そのうち、先輩達みたいに、部室で食べたりするようになるんじゃない」
「分かってる、今、先輩から情報貰ったんだ。体育館に行って見ようよ。穴場かもしれないから」
それは、体育館の2階にある備品室の事だった。1階の備品室と違い、殆ど使われていない物を置いているから、人も来ない。でも、汚いよと、言われていた。行って見ると、確かに埃っぽい。でも、思ったより広いし、窓から明かりが取れているから、明るい部屋だった。置いている物も、体育祭や文化祭で使うものが主なものだったので、ちょっと大変だけど、片付けて掃除をすれは、立派な部屋ではないかと、なんだか希望が出てきた。
「椅子は、体育館の椅子を拝借しようよ」
「体育祭用の長机もあるし、いいんじゃない」
「最高ですよ」
「先生に相談するのは、もうちょっと後かな、ミカ次第だよ」
「そうだね。正式部員二人はきついか」と、美代子。
「潔さんですか」
「かな」
とりあえず部活申請は、急がないと言うことで話はまとまった。体育館では、お昼休みも終わりが近づいたからか、生徒が、まばらになっていた。麻衣子とミカが、放課後掃除をする事になり、急いで教室に帰った。
放課後、体育館の1階から掃除道具を持ってきて、私とミカは、大掃除を始めた。掃除をしたから分かった事だが、この部屋の床は、体育館と同じ板でできていた。多分拭き掃除をすると、綺麗な木目が出ると思う。ついでに、棚の埃も落とす事になり、ブレザーを脱ぐことになった。私は、そんなに身長が低いわけではないが、ちょっと前のほう(胸)が、未発達だ。ブラウスが、少し透けているのも気になる。ミカも同じぐらいの身長で、もう、全部見ちゃったから、分かるけど、私と同じ感じだ。でも、胸は、私よりある。しかたないか、と、思いブレザーを脱いだ。ミカは、やっぱり私の胸を見た。こういう時は、同姓の方が大胆発言をする。何気ない一言が、友達を傷つけるのよ。
「麻衣さん、胸ないんですね。牛乳飲んでます」
ほっとけ、ミカー
「うん、飲みだした」
「大丈夫ですよ。多分私の1年前と同じぐらいだから、すぐです」
うー、1年
「うん、ありがと。掃除しよ」
私は、笑顔で応対した。この後、家に帰って、いつもの倍、牛乳を飲んで、良子さんに、お腹を壊しても知らないからと怒られた。それで、良子さんに教えてもらったんだけどヨーグルトもいいみたい。牛乳だと自棄で飲んでいるように見られるので、それからこういうことがあった日は、ヨーグルトを食べるようになった。
部屋を片付けていると、サルとか牛とか動物のお面がいっぱい出てきた。多分文化祭のだ。もう一回使うのは、無理っぽいと思ったが、埃を払って綺麗に整理した。重いものも出てきた。大型のテントや、雨避け用のビニールなどだ。重くて触れないので、寄せてごまかした。それでも終わってみると、立派な部屋になった。自画自賛かな。あまり綺麗になっても、他の人に使われるだけだから、こんなものだろうと思った。
私が、腰に手を当てて、部屋を眺めていたら、ミカが、こそこそと、目立たない所に小さく、『オカルト部』と、ネームプレートをつけていた。私も、賛成だ。これは、我が部の小さな一歩である。今のところ帰宅部だから部長はいない。
「それじゃあ帰ろう」
私は、相当気分が良くなっていた。部活の方針など、のんきに忘れていた。
「本屋さんに寄りますよね」
「なんで?」
「手話やるって決めたじゃないですか」
そうだった。夢の世界のミカとは、話せないんだった。
「テレビでも、手話教室有りますけど、二人いますから、一緒にやるのがいいと思います」
手話ができるようになると、世界が広がる。今まで話せなかった人とも話せるようになる。私は、小学校の通学路にいる、いつもニコニコしているお坊さんを思い出した。ミカと一緒に会って話をしたいのだが、今は無理だろう。まだ、ミカの水着スタイルは見ていないけど、多分、ミカに言っても、殆どストリップ状態の格好では、会ってくれない。本当は、水着姿だと思ってもらいたいのだが、シーズン的に無理だろう。何をやるにしても、第一歩からだ。それで、手話を勉強する事にした。本屋さんは、駅前のロータリーにある。CD屋さんとかが並んでいる所だ。でもそこに、制服で行くと怒られる事がある。私達は、一回家に帰って着替えてから本屋さんの前で待ち合わせをした。
ここの並びに、よさそうな喫茶店がある。おこずかいが、あまりないから、いつも、入り口を見ているだけだが、手作りパンのパン屋さんからも入れるから、中も見た事がある。一番気になるのは、レアチーズケーキだ。しかし、セットで買うと大変だ。せっかくミカと待ち合わせをしたが、今回は、本を買うだけにした。