海賊戦小学生の部
白川翔太は、ずっと剣術の道場に通っていた。それも今日の為だ。親戚の、桂木涼子、石田健太郎と海賊戦を戦う。まず、一対一のトーナメントを勝ち上がり優勝すると団体の紅白戦で、頭になれる。海賊船は、全員三人乗り。操船二人に船長一人だ。船長の鉢巻を取るか、海に落とすと勝ちになる。ドローだと剣による決闘になり一本取ると勝ち。紅白戦は、10対10。三組あるので、総当たり戦になる。先に全員倒したほうの勝ち。作戦や指示は、頭が行う。
海賊船は船首が角ばっていて四角い。船長はそこに立っている。不安定な足場。いくら瀬戸内海が穏やかな海だといっても波はある。オールを漕ぐ二人は、敵船にぶつかりに行く。横にぶつけられると船は揺れ、船長が海に落ちることもある。落ちなければ、ぶつかった船に乗り込み、敵船長を海に落とせば勝ちだ。自分まで落ちたら、落ちた順番にかかわらず、ドローになる。決闘だ。小学生の海賊船は小さい。船首と船首をぶつけて足場を作る。そこで、スポンジを巻いた竹刀での戦いになる。先に一本取った方が勝ちだ。船首をつなぐといっても押し付けているだけだ。操船技術も必要になる。決闘が終わるまでは、ほかのプレイヤーは手出しできない。
翔太は、敵船長を海に落とすのが得意だ。しかし、涼子は、敵船長の鉢巻を華麗に取る。涼子は、一対一のトーナメント向きだ。涼子は、操船に徹するつもりでいたが、翔太から、トーナメントで、船長をやってみないかと提案された。食後の作戦会議から試合は始まっている。
「船に慣れるまで、涼子が船長やってよ。トーナメントは涼子が船長でいいよ」
「翔太のほうが強い。私は、操船でいい」
「剣術で、手一杯だった。姉ちゃんが強すぎるから、がんばりすぎた。だから、ずっと考えてたんだ」
「翔太、立派になって、姉ちゃんは嬉しいよ」
「何で、姉ちゃんが、作戦聞いてるんだよ。あっちに行ってよ」
「翔太ったら、照れちゃって」
美代子はうるうるしながら、その場を離れない。私とミカで、翔太の邪魔にならないところまで連れて行った。食事の後片付けもある。
午後の海賊船は刻一刻と迫っていた。トーナメントは、海水浴場の砂浜で観戦できる。小学生の部なら、紅白戦もだ。だから、場所取りに、おじいちゃんと、潔に向かってもらった。二人は、真ん中の一番良い席を取ってくれた。
「オレ達は、中学で、みんな船長をやろう。だから、健ちゃんも一回ぐらいは船長を試合でやったほうが、いいと思うんだ」
「うん、わかる」
三人の結束は固い。
小学生の海賊船はカーボンになっていてとても軽い。船首には、はかまがついていて上は平べったく決闘用の舞台になる。しかしトーナメントで、決闘になることは少ない。体も男女同じぐらいの体格で、甲乙はなく、むしろ女子が活躍することも多い。
トーナメントは、3ブロックに分かれて戦う。中学の宝探しと違って、30組全員、宝をとっての出場だ。翔太たちは、Aブロック。あみだによって、三回勝てば優勝する組6組と四回勝たなければ優勝できない4組とに分かれる。
島のサイレンがなった。船長は、チームの名前の登録とあみだをしに大会のテントに向かう。翔太達のチームは「楽笑」ゆるい名前である。トーナメント表を見たテツなどは、高笑いして「涼子達が楽勝するからじゃろ」と、いい名前じゃと言っていた。チーム楽笑は、長く戦いたい翔太の思惑がはずれ、3回勝てば優勝する組に入った。
全員が一度に並んで戦うので初戦は全員参加になるから小学生でも壮観になる。
朝礼台に倭人船団首長代頭の石田のおじさんが出てきた。
「みんな、ええか、銅鑼が合図じゃ」
オー
大きな声。私も興奮してきた。
「そんなら、いくで」
船長代理は、手を上から下ろして戦いの合図を出した。
シャン、シャン、シャンシャンシャンシャン、シャンシャンシャンシャン。
銅鑼の音で、一斉に海賊船が前に出た。
「翔太、いっけー」
「涼子やっちゃれ」
「ケンタロー」
銅鑼より、私の後ろにいる三人の姉や兄のほうがうるさい。
初戦の船長は、涼子だ。翔太があみだで、いい場所に入ってくれたので一番手前で見ることができる。チーム楽笑は、すごい勢いで、船首を相手にぶつけると、涼子が、敵船長に向かって飛び出した。
早い。あっという間に後ろに回りこんで、鉢巻を奪う。取った鉢巻を掲げて飛び跳ねた。
「ええぞ、りょーこー」
そうでなくても、大きな声のテツは、手前で戦っている涼子に、渾身の声で応援する。涼子はそれを聞き、私たちの方に向いて手を振ってくれた。
「涼子ちゃーん」
テツがうるさいと思っていた私も応援の声が大きくなった。
「涼子ちゃん、早いですね」
のんびり屋のミカがあっけに取られている。
「ええ事言うてくれる。涼子は、ほんま、早いわ」
テツは、腕組みして自慢する。
二回戦目は、1ブロック4艘で行われる。チーム楽笑の試合もある。今度は、健太郎が、船長になった。後ろにいる兄のカイジの声が今度は大きくなった。
「健太郎、海に落としちゃれ」
健太郎は、飄々と腕組みして船首に立っていた。
「健ちゃんバランス感覚いいね」
こういうのが分かる美代子が健太郎を褒める。
「そうじゃろ、船の上でボーっとできる五年生は健太郎だけじゃ」
兄の自慢の仕方はともかく、健太郎が癒し系だと分かった。
石田首長代頭が出てきて銅鑼を鳴らす人に合図する。
「今度の銅鑼は、二回だけならすで」
シャン、シャン!
全ブロック総勢12艘が、一斉にスタートした。船の船首同士がぶつかって、船が揺れる。相手の船長は、よたよたしてしまう。健太郎は、自分側に与太ついた敵船長の鉢巻を難なく取ってしまった。まったく動いていない。
「ラッキーだったな」と、テツ。
「あほ、敵が弱すぎじゃ」地味な戦いに終わったので、カイジが悔しがる。
「勝ったのよ、いいじゃない」
美代子に言われて、みんな気分良くなった。次の試合は、一回休みだ。そこに出てきたのは、小6の大きな船長率いるチームシャチだ。
「強そうよ」
「シャチか、カッコええ名前じゃ」
「そうじゃなくて、あの6年生の子。大きいじゃない」
「あいつか、信ちゃんの弟じゃ」
「青海衆の!強敵じゃない」
チームシャチの船長は、敵船長をこれ見よがしに海に叩き込んだ。鉢巻を取る気はない。
「強いな」
テツはとても嬉しそうだ。
「あいつと決勝じゃろ」
カイジも平然としている。
決勝は、チームシャチとチーム楽笑に決まった。やはりここは、翔太が出てきた。
「翔太ー負けるなー」
「翔太いけー」
私も、美代子に負けないぐらい大きな声になる。私は、やっぱり隆さん似なのかも知れない。
相手は強い。学年も一つ上だ。どちらもバランス感覚が良い。船のスピードもある。船長の体格差だけ負けている。ちょっと不利かもしれないと思った。いつの間にかテツの横に、青海衆の信一が立っていた。
「信ちゃんの弟すごいな」
「コウ(浩二)か、そうじゃろ、でもなー」
「なんじゃ」
「強すぎるから、作戦立てんのじゃ」
「それじゃあ、翔太が、勝ってしまうぞ」
「あいつにゃ、ええ薬じゃろ」
信一は、腕組みして苦い顔になる。私には、翔太が勝てる気がしない。応援するのみだ。戦いの銅鑼がなった。
シャン、シャン、シャン、シャン
観客席にワーっとどよめきが起こった。翔太を持ち上げたコウの首に翔太の足が巻きついた。二人は一緒に海に、決勝は、決闘で決着をつけることになった。朝礼台に石田のおじさんが出てきた。
「Aブロックは、決闘じゃ。両者、剣を持て。銅鑼は十回鳴らすで」
シャン、シャン、シャンシャンシャンシャン、シャンシャンシャンシャン
すごい銅鑼の音とともに、両船突っ込んでいく。チームシャチの船長コウは、刀を振りかぶって仁王立ちしている。将太は、まだ帯剣の状態だ。
海賊船同士がぶつかった。船には、ドスンという音とともに衝撃が走る。しかし船首に立ってる両船長はびくともしない。コウが、刀を振りかぶった。翔太は、剣を抜き二歩の間合いで、コウの胴を払った。
「一本。チーム楽笑の勝ち」
最後は決闘になり、観客席は、大いに盛り上がった。
「な、考えなしじゃろ」
信一は、がっかりしている。
「そうじゃな。身長差から言って、最初に鉢巻を取っとけば、終わっとったのに」
「悪いわね。勝ちは、翔太がいただいたわ」
美代子は上機嫌だ。
「良かったんじゃないか。紅白戦は作戦もいる。翔太は、結構考えとる。団体戦で勝つほうが良かろう」
「テツに慰められてものー」
信一は、腕組みを解くことができない。
トーナメント戦が終わり、海賊戦は、紅白の団体戦に移る。各ブロックはしばしの作戦会議をやる。その後、総当たり戦を繰り広げることになる。また、私の後ろで、テツと信一が、戦いの予想を立てていた。
「わしらにゃコウがおる。チームシャチを特攻船にしたら負けなしじゃ」
「そしたら、コウも喜ぶじゃろ。勢いも大事じゃけえ、それがええな」
「特攻船?」と、私。
「一艘で、最初敵陣に突っ込んでいく海賊船のことじゃ。船長が強いだけじゃあいかん」「船も速ようないとな」と、信一。
「おまえらにゃあ、できん芸当じゃ。どうじゃ。肉刺は、まだ、破れとらんのか」とテツ。
「滑り止めつきの軍手で、ごまかしていたのよ。本番は、肉刺ができても頑張る」
「よう言うた。美代子を頼むで」




