宝さがし小学生の部
翌朝早く、ドンと、いう感じで涼子が、私に飛びついてきた。夏なので、大きなタオルケットしか掛けていないから、ダイレクトに来る。もう、大きいから重い。
「涼子ちゃん、勘弁して」
「麻衣ちゃん、朝じゃ」
柱時計を見るとまだ五時半だ。
「もう明るいよ」
涼子は、ぼさぼさの髪をしている。私にまたがって、飛び跳ねる。ブラシを持っているのが見えた。
「降参、起きるから。髪を梳いてほしんでしょ」
「今日は、ツインテールがいい」
「縁側で待ってて、今行くから」
髪止め用の赤いゴム輪を二つ持って縁側に向かう。ブラシは、涼子が自分で持ってきていた。あくびをしながら、ブラシを受け取り、縁側に座る涼子の髪にブラシを入れた。
「涼子ちゃんは、癖っ毛ね」
「大きくなったら、みっちゃんみたいに綺麗な髪になるかな」
「どうだろ、みっちゃんは、初めっからああだったわよ。涼子ちゃんは、細くて、ボリュウムのある髪だからどうかな。そうね、癖は残るけど、もう少しストレートになるんじゃない」
「麻衣ちゃんぐらい」
そいうことか!
涼子の方が赤いが、私と涼子の髪質は近い。
「そうよ。綺麗な髪になるわ」
「えへへへへ」
「今日は宝探しの日ね。翔太は、間に合わないでしょう」
「健ちゃんが来るよ」
健太郎は、涼子の親戚で、青海島の石田家の子だ。
「小学生の宝探しは三人で探すんじゃないの」
「彩ちゃんに、お願いしといた」
「そうなんだ」
「絶対勝つ」
涼子の赤い髪が、燃えるオーラのせいで、もっと赤く見える。気持ちよさそうにしているので、ゆっくり梳いてやった。
健ちゃんは、兄の海士と一緒に海賊船で朝食に間に合うようにやってきた。朝の食卓はにぎやかになった。
「健ちゃんー」
「涼子―」
二人はガシッと抱き合った。おばあちゃんは、健太郎とカイジに、後で、居間に来るように言っている。テツと涼子もそれに続く。何が話されるのか見当がつく。私たちは、妙子さんを手伝って、朝食の片づけを始めた。 居間では、「やったるで」と、テツが、気勢をあげていた。
午前中は、海賊船を漕ぐ練習をしていたが、午後は、涼子たちの応援に海水浴場に向かった。島中の小学生が集まっている。その上、近くの島の小学生も先生に引率されてやってきた。
「すごい人数ですね」
ミカが驚く。
宝は、全員に渡らないが、参加賞のお菓子は十分もらえる。海賊戦に参加したい子達は、この人数の中で、宝を勝ち取らなければならない。海水浴場の中央には、朝礼台があり、ここに、島会長をしている桂木のお父さん、雄一さんが、宝探しを進行しに出てきた。
「みんな、よう来た。宝を見つけたら、海賊戦に出れる。代表は、地図を受け取りに前へ出てきてくれ」
全員地図を受け取った。
「人数がおおいけえ、一チーム5枚は無理じゃ。じゃから、どんな地図が渡るか分からん。でも、必ず宝はある。制限時間は二時間じゃ、がんばってくれ。まだ地図は見んでよ。そしたら、用意ドン言うけえ、鉄砲鳴らしてくれ」
海賊戦に出たい子達は、前に並ぶ。
「用意、ドン」
ドオン
スターターピストルの合図とともに、前に並んだ子達は、白門山の大岩を目指して走り出した。後ろにいる子達は、地図を見ながらゆっくり歩いている。しかし、人数が多い、壮観だ。
「涼子は何処」
美代子が興奮して私に聞く。
「もう見失ったわ。きっと先頭よ」
「涼子、ガンバレー」
美代子は、恥ずかしいぐらい大きな声で応援した。
「涼子ちゃん、大丈夫でしょうか」
あまりの人数に、ミカが気後れした。
「彩がいるから大丈夫。城山の子がついているのよ」
美代子は、腕組みしている。テツは、山の天辺、展望台で涼子を待っている。出発して二十分と経たないうちに美代子の携帯が鳴った。
「一等じゃ。涼子が一等じゃ」
離れている私たちにも聞こえる大声で、テツが、電話してきた。
「ばあちゃんに言うてくれ」
美代子が、あわてて、朝礼台の後ろに行く。おばあちゃんはそこに居た。美代子の報告を聞いて、手をたたいて喜んでいる。ずっと走っていないと、二十分で天辺には着かない。美代子の携帯を受け取った私が、涼子と代わってもらったが、ハアハアとしか言わない。
「よくやったわ。おばあちゃんも、大喜びよ」
「うん、ハアハア」
「涼子、水じゃ」
「ハアハア、ありがと、みんなは」
「まだじゃ、ぶっちぎりじゃ」
彩が宝を見つけ、健太郎が取りに行き、受け取った涼子が展望台に走った。
「五点じゃ、もう負けん」
とんでもない記録にスタッフも驚いている。今までの小学上級の部でトップは、三十分前後のゴールだった。当分破られない記録だろう。身内の勝利というのは気持ちいい。私は、ミカと抱き合って喜んだ。
表彰は、展望台で行われる。
一発逆転がないわけではないので、二時間、時間いっぱいまで待つ。
表彰は、倭人海賊団首長代頭の石田仙太郎が行う。涼子たち三人に拍手が鳴り止まない。
「涼子ちゃーん」
私もエールを送る。ちょっとお父さんに似てきたかも。隆さんだったら、涼子―かっこいいぞーと、叫んでいただろう。ツインテールの涼子が、私のところに走ってきて抱きついた。
「すごいでしょ」
「うん、うん。すごい」
「涼子―写真撮るぞ」
テツが後ろから声を掛ける。見覚えがあるバックの前で、三人が写真に映った。優勝者は、こんなに大勢の前で、写真に映っていたんだ。父さんたちの写真の後ろに、誰も居なかったから、人が居ないものだと思い込んでいた。見ている人がいようが、いまいが、みんな堂々としている。私たちには美代子がいるから、涼子のスピードが出せないことはないと思ったが、運も必要だ。涼子たちは、大岩の先にある岩陰で、宝を見つけている。距離も直線コースだった。明日は、私たちだ。午後には、小学生高学年の海賊戦がある。
桂木家の夕飯は、とても豪華なものになった。涼子のお父さんは、海賊戦の役員会で、帰ってこない。しかし、珍しく、おばあちゃんが厨房に入って、鯛の刺身を作ってくれた。鯛は残すところがない。骨の出汁を使って鯛汁を 頭は、煮付けにして涼子たちに振まわれた。
「涼子たちのおかげで、勢いがついた。涼子、健太郎、ようやった」
割烹着と頭巾を取りながら、涼子たちを慰労する。おばあちゃんは、襟を正して座り直し凛とした表情で、私たちに発破をかけた。
「ええか、涼子たちは、明日が本番じゃ。翔太が、剣術の試合で六年生を破って優勝した。明日一人で来るそうじゃ。迎えにいってやれ。皆は、宝探し、涼子に続くんじゃ」
妙子さんがニコニコしながら号令した。
「じゃあ、食べましょう」
みんな、数はあるのに、取り合うような食事になった。私たちも海賊一家になった気分で、お代わりした。食事が美味しい。
「高校生は、宝探しはないの」
横で、私のおかずを狙っているテツに聞いた。
「それどころじゃないで、マジ海賊戦やらんといけんけえ必死じゃ。大人にまじって、何度も模擬戦やっとる」
「大人の部もあるの」
「あほ、大人が本番じゃ。負けなしじゃけどな。それ食わんのか、くれ」
「大皿にもあるでしょ。なくなってから言ってよ」
「わるい、わるい」
大人の部もあることは知っているが、海水浴場で戦える規模ではない。紗江子さんの応援に白門島に来たときは、高台から望遠鏡をのぞくしかなかった。私は、戦局など、どうでもよく、紗江子さん中心で見ていたから周りは良く覚えていない。
「紗江子さんの応援で見に来たことはあるけど、望遠鏡で紗江子さんばかり見てたのよ。そういえば、審判は何処に居るの」
「小島の天辺。特等席じゃ。首長が勝敗を決める。誰も逆らえん」
「首長って倭人海賊団の?」
「当たり前じゃろ。海賊団全部ひっくるめて倭人海賊団じゃ」
瀬戸内海の元海賊たちを束ねる海賊の頂点。首長が、今年から新しく就任したことは知っているが、公の場に、出てこない。どんな人だろう。