ミカ衝撃
翌日起きてみると、空を飛んだ夢を断片しか思い出せなかった。起きたばかりの時は、いっぱい、それもはっきりと憶えていたのに残念。最初忘れそうになるので、忘れたくないって、一生懸命一番憶えておきたい所だけでもとがんばったが、殆ど忘れてしまった。結局学校に着いたときは、麻衣さんが、私の羽を広げてくれた事と、猫ちゃんの頭をなでてあげた事、それから大きな鯨。それって、いつもと変わらないぐらいしか夢を覚えてないんじゃあないかと気がついた。
夢だと寝ぼけちゃうって、リスクが有ったのね
残念に思ったけど、戦いは、終わっていない。麻衣さんは、別クラスだ。昼休みまで、がんばるぞーと気合をいれ、勉強をおろそかにしてしまった。休み時間に、美代子には、夢の話しを全部話せたけど、勉強は、後で、復習しないといけないなと、反省した。
学校は、昼休みの時間帯に入った。麻衣子は、美代子に呼ばれ、他のクラスの教室で、お弁当を広げた。
「来たわよー」と声を掛けはしたが、ほかの生徒に振り向かれ、なんだかとっても恥ずかしい。それでも、三人集まって昨夜の話ができるのは面白い。ミカの羽は、すごく大きな羽だった。
美代子は、休み時間に、いっぱいミカから、夢の話しを聞いていた。それで、本当に昨夜二人は、城山で会ったのか検証してくれた。ミカと私の話しは殆ど一致した。逆に美代子は自分が、見られないことにガッカリした。ガッカリしたくせに、お弁当は美味しくいただいている。それも食べるペースが速い。
「うんぐ、いいな、二人共きれいなものが見れて、うらやましいよ」
「私は、みっちゃんの食欲がうらやましいよ。はい、もっと良く噛んで」
「だって、おいしいんだもん。麻衣もいっぱい食べないと成長しないよ、むーね」
ぐっとつまり「大きなお世話です」と、言い返したが、後で、牛乳を買おうと思った。ミカは、いっぱい忘れてしまったので、私に城山で出会った時の事を教えて欲しいと言った。
「夢って忘れちゃうから、すごく残念です。羽のことは、憶えていますが、私、他に特徴有りました?」
「うん、裸だった」
「えー、嘘です。そんなの覚えていません」
美代子は冷静だ。
「夢だよね、ご都合的に服ぐらい着られるようになるんじゃない」
「はい・・・」
「羽が、バサッて広がった時、リアルだったら服、破けるよね。そんな感じ、した?」
ミカは、首を横に振る
「でしょう、でも、お守りしてたわよ。黄緑に光ってた」
ミカは、胸の所にしまっていたお守りを出した。
「これですか」
「そう、これ。肌身離さずだったんだ」
ミカは、やっぱりご利益あったんだと思った。
「昨日寝る前に、おばあちゃんに貰ったんです。おばあちゃんの家系は神主で、12歳になったら、このお守りをするって言ってました」
これに、二人共食いついた。
「この、お守り欲しい」
「私も」
あまりの食いつきの良さに、ちょっと気を良くして、中の勾玉を見せた。
「すごい、綺麗」
「黄緑に光っていたのはこれね。やっぱり欲しいわ。おばあちゃんに頼んで。お願い」
「わかりました。任せて下さい」
調子に乗って、安受けあいしちゃったけど、家に代々つたわるって感じだったなー
ミカは、ちょっと失敗したと思ったが、だったら、おばあちゃんの実家にしか、お守りが伝わらない事になるからと気を取り直した。
「そういえば、小さい猫が、麻衣さんを先導していましたが、あれが、付きまとっていた猫ですか」
「私達を追っかけまわしたネコよ。部屋の中にいるからビックリした。でも、ついて来いってしぐさをするのね。何事ーと思ったわ。でも、城山に向かったから、ピーンと来た。その後ミカがすぐ見えたの。嬉しかったんだ。でもね、話ができなかったのはショックだった。どっちも、一生懸命話すけど、話せないし、聞こえなかった。本当に残念ね」
「そんなの手話やれば?」
みよこは、お弁当を食べ終わって満足げだ。
「みっちゃん、冴えてる、ミカそうしよう」
私は、目をキラキラさせた。二人は、それから手話を一生懸命練習することになる。
「そう言えば・・・」
私と美代子は、次の言葉を待ったが出てこない。
「忘れちゃった?」
「いいえ、勘違いかなー。猫ちゃんが、にゃんって言った気がしました」
「そりゃ猫なんだから、『にゃん』くらい言うよ」
「みっちゃん、今までの話しを無視しない。私達は、話してもお互い、聞こえなかったんだって。元々私は、見ることしか出来ないし」
美代子は、ぽんと手をたたいた。
「そうかミカは、見えない光の住人と話ができるかもしれないんだ。でも、夢の事を忘れちゃう。麻衣がいれば、全部憶えてるってことね。いいコンビじゃん」
「でも、夜の12時ぐらいだったわよ。夜中に出歩くと、怒られそう」
「私も一緒に行ってあげるって」
「あの時、12時ぐらいだったのね。私の家は、寝るのが早いんです。9時には、寝ました」
「その手もあるわね。ミカに早く寝てもらうってのはどう。ちょっと厳しいか」
「休みの日に寝るのことに成功したら、すごいですよね」
消極的なミカが珍しく積極的な事を言った。でも、寝る事だけど。
私は、いい案だと思ったが、思い直した。
「ダメよ、葉子さんに会いに行くんでしょ」
「土曜の話しよ。やってみて損はないんじゃない。私も立ち会ってあげるから」
「じゃあ、神社に行くのはやめて、城山に変更。猫ちゃんの名前を調べようよ」
美代子は賛成したが、ミカは、真っ赤になった。
「もし裸だったら、恥ずかしい」
「そっか、まだ日にちが有るから、今晩にでも、試してみ」
私も請け負う。
「大丈夫よ、ミカには、天子の羽が有るんだから。あんなに大きな羽なら、体を覆えるわ」
「飛ぶと、大変って事ですよね」
「分かった、今晩わたしも、麻衣の家に泊まるから、来なよ。その時考えよ」
「いっそ、私の家に来ます?私の部屋だけ2階ですから、ちょっとぐらい騒いでも大丈夫です」
「いいね」
「私もいいわよ」
こうして、私達は、ミカの家にとまることになった。放課後二人は図書館に、美代子は、部活をやって。ミカの家に集合した。ところが、この日は、失敗に終わった。
初めての人の家ってワンダーランドなのだ。私達は、ミカの両親や、祖父母に挨拶したり、結局夕飯をいただいたり、夜中まで話してしまって、翌朝は、みんな寝不足だった。
とくに、ミカの家のお風呂が、五右衛門風呂だったので、興奮しきりだ。美代子が最初に入ったのだが、自分の失敗をわざと黙っていて、私もお風呂に入って飛び上がった。最初、丸いツボのようなお風呂の蓋を開けると、中に、もう一つ蓋が浮かんでいた。なんだろう、料理の時のような落し蓋かなと思って取って入ったら、下は鉄で、気を使った家の人が、薪をくべていたから、キャーって騒いで、何事ーと言われ、事情を話すと「内蓋を取ったらそれは熱いよ五右衛門風呂だから」と、笑われた。後で、みんなに話すと美代子も同じ目にあっていて、一人で笑っている。ずっと笑っている美代子に腹が立って、枕を投げたら、やったなーと投げ返してきた。こんな感じで、夜はミカの検証をする事が出来なかった。