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オカルトクラブと翼の少女  作者: 星村直樹
守り神
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昇龍

 連休も終わり、もう、五月も半ばになった。ここ3日、梅雨でもないのに雨が止まらない。体育館の備品室でミカと手話の練習をしていたら、例の雨の日カップルが、隠れ部室の前を通って行った。


「麻衣さん、麻衣さん。また、来てますよ。雨の日カップル」


 二人とも一年だと思うが、男子は暗く、その男子をいつも明るい女子が励ましているという風に見える。雨の日はいつも体育館の二階の隅にいる。


「ふしぎ、良くあんなのに嬉しそうに話しかけられるわね」

「そうです。暗いです」


 ミカと私は、ドアの横に、隠れるように二人を見ている。「不思議」とか、「暗いです」と、言っている割には楽しそうに覗いていることに気づいた私たちは、「さあ、練習、練習」と、背伸びしながら、手話の練習に戻った。それにしても練習に身が入らない。


 私とミカは、今度は、窓の外を見た。外は、雨がまったく止むけはいなく降り続いている。


「雨、止まないですね」

「瀬戸内らしくないわ」


 憂うつな気持ちで、空を見上げた。瀬戸内は、中国山脈と四国山脈に囲まれ、乾燥した空気に覆われやすい地域だ。西の関門海峡や東の鳴門海峡を迂回しないと湿気た空気は入ってこない。


「綾瀬いるか」


 潔が、もう、私を誘いに来た。私たちは、コン詣でをしている。城山神社に帰ってもらうためだ。ミカと私は、気が乗らない手話の練習の手を休めた。今日はミカもついてきた。ミカが、コンは、疾風の連れだとオズチ様から聞いていたのを忘れたため、東西が逆の地龍の白虎だと思い込んでいる潔が、足しげく中学校の横にあるコンが住む笠置神社に通っている。青龍の白虎だと西。潔の神社は東で反対側だ。コンが見えない潔は、私を誘ってコンを確認し、私に倣って頭をなでたり、背中をさすったりしている。


「雨の日なのに熱心ね」

「こういう日こそ、誠意を見せないと、コンもオレの気持ちがわかってくれるはずだ」

「はい、はい。それにしても、今日は、やけに早いわね」

「それが、気になる噂を耳にしたんだ。木野にも聞いてもらいたい」


 ミカと私は、コンを撫でながら聞いた。


「何ですか、気になる噂って」


「隅音川で、捕まえたら、100万円はするんじゃないかという錦鯉を見たという話さ。きっと疾風だぞ。まずくないか。疾風は、頭に赤い丸の斑点があるだろう。丹頂という価値がある錦鯉なんだ。その上、体に墨絵みたいな模様があるじゃないか」


「あっ、それ、私も聞きました。模様まで噂が広まっているなんて。それ、疾風に間違いないです」


「まずいわね」

「一度、見に行くか?」


「居場所を探すのは、ミカに任せない。その方が早いかも」


「そうですね。今だと川が氾濫して危ないです。夢で川を遡上してみます」


「危険も伝えてくれ。人に見つかるなって」

「わかりました」

「大丈夫?」

「今晩には、雨も上がるようです」

「気を付けてね」




 ミカが夢で起きるころには、雨も上がり、満天の星空になっていた。しかし、隅音川は、長雨で、氾濫したために、とっても濁っていた。ただ、疾風は、光って見える、ミカは、探せないことはないだろうと川を遡上した。

 普通昇龍は、滝を登る。だから、ちょっと遠いが、山の中まで遡上することにした。山の中には、詩音の滝がある。夏になると、そこの滝で水浴びをする地元では有名なスポットだ。滝と言っても岩畳が幾重もある天然のウォータースライダーで、魚がリアルに滝登りをしているところを見たことある。ここより川上は、支流も極端に少なくなり、険しい道になる。ここを、疾風が昇っていれば、一安心だ。


 青龍救出の時、ずっとミカもいたし、疾風を隅音川まで見送っているので、疾風はミカのことをよく知っている。


 ミカは、思ったより高度を取って、川を遡上した。疾風の龍玉は、離れていても目立つ、それほど大きなものだった。


 疾風は、人の噂になるぐらい見られていたのだ。思った通り詩音の滝の滝つぼに身を潜めていた。滝つぼの、水が流れていない辺りで休んでいる。ここは、川の流れも弱い。ミカは、この、窪みと接している大岩の上に降り立った。


「疾風、疾風、無事」


「キロキロ、キーン」


 疾風が、嬉しそうにやってきた。元気そうな姿を見て、ミカは安心した。


「良かったです。川の氾濫は、大変でしたね」


 そう言って手を出すと、キロキロと頭を擦り付けてくる。とってもかわいいのだけれど、ここを登らないと危険だ。詩音の滝は、シーズンでなくても、景観を見に観光客が来る。「後ちょっとです。ここを登ったら、危険が減りますよ。ここだと、人に見つかってしまいますから」


 滝は、濁々としていない。もうきれいな水になっていた。


「さあ行って」


 川の流れは速いが、水に厚みがある。疾風なら登れると思った。疾風は、キロキロっとミカがいる大岩を3回旋回して滝登りにトライした。詩音の滝にある岩畳は12枚。最初はちょっと段差がある。


 1枚目。疾風は、パシャっと跳ねて難なくこれをクリア、川の流れが厚いところをグイグイ上っていく。とっても勇壮な姿だ。2枚目は、泳いで登れる。3枚目で跳ね、4枚目と5枚目をごぼう抜きする。ミカは、手を胸の所で祈るように握った。

 6枚目は、白濁とした、鉄砲水だ。普通の魚には、無理だ。疾風は、この白濁とした鉄砲水の上を跳ねるように何度もトライする。失敗しては、4枚目まで流され、またトライする。


 最後には、鉄砲水の上で、もう一度跳ねた。


「やったわ」


 そのころから、疾風の龍玉が、強く光りだしていた。7段目、8段目と上るたびに、玉が大きくなったのではないかと思える。10段目に、また、鉄砲水のような滝にぶつかった。もう、詩音の滝の相当奥になる。ミカは、ふわふわ浮かびながら疾風を見守った。ここは、6枚目より、さらに水勢が強い。10段目の鉄砲水の中に入った時、フワーンと、龍玉のフィールドが、広がった。


 龍玉は青い光の玉だ。今は、人の頭ほどあり、疾風の頭を中心に体半分を覆っている。その玉の光フィールドが広がった。疾風は、その玉にスッポリ覆われた。鉄砲水の上で、パシャパシャしていた疾風は、その玉の中から生まれる様に姿を変えた。


 青龍だ。それも、大きさが、どんどん大きくなっていく。まず、鉄砲水が二つに割れた。そして、川の水が、逆流したのではないかと思われた。次の瞬間、水は、青龍とともに天高く昇り始めた。青い光の水柱が、ドーンと、空高く立つ。その中を疾風が、泳ぐようにに上っていった。疾風は、さらに大きくなり、青龍の姿が際立ちだした。


 パアーーーーン


 ドドドドと言う音とともに青龍は、天高く昇った。ミカは、祈りのポーズで、それを見送った。


「おめでとう。青龍になれたのね」



 ちょうどそのころ、麻衣子たちもこの青い光の柱を見ていた。麻衣子は、以前追っかけまわされた猫に起こされた。


 美代子の所には、玉が来た。ほっぺたをなめられ「玉ちゃーん」と抱きながら目が覚めた。紗江子も、夢で一緒に起こされ庭に出た。そこに、麻衣子が、猫の先導でやってきた。三人は、すぐ、疾風を思い浮かべた。二股猫の玉は、にゃんと北の山を見ている。

 麻衣子が、そう、玉のことを話してみんな確信した。


「疾風だわ」

「昇龍になるのよ」


 玉が、紗江子の光色を強化した。


「見て!」


 紗江子が北の空を指さした。三人が、北の空を見ると、大きな青い柱が立つではないか。その中を龍になった青龍が、空に昇っていく様をはっきり見た。青龍は、山の上で3回転すると麻衣子たちの上を通り瀬戸内海に消えた。麻衣子たちは大きく手を振って青龍を応援した。



 潔は、夜中に、バタバタとうるさい羽音に起こされた。窓際には、カラスがいた。それも、4羽も。窓をつつくので、ガラスが割れそうだ。仕方なく、窓を開けた。カラスたちは少し虹色ににじんでいた。潔のいる城山神社は、北斜面だ。潔は1階で寝ているが、北の山がよく見える。窓を開けると、カラスたちは、おとなしく部屋に入ってきた。

 一羽のカラスが、潔の肩に乗った。北の山を見てカアと鳴いている。


 疾風か!


 北の山が、青くにじんだと思ったら、ドーンと光る青い水柱が立った。その中を龍になった青龍が、空に昇っていく。潔は、思わず、右肩にとまったカラスをつかんだ。カラスは、おとなしくしていた。


「やったな、疾風」


 なぜか、今日は、銀のロケットを机に置かないで、首にかけて寝ていた。このロケットのひもには、龍のひげが織り交ぜてある。今夜は、ロケットまで光って見えた。ゴゴゴゴゴと、青龍は、城山をかすめる。 通り過ぎる青龍を見送って、初めて、カラスを強く握っていることに気が付いた。潔は、カラスに謝りお礼を言った。


「ありがとう、良い知らせだったよ」

 カラスは、カアと部屋を後にした。



 笠置神社では、オズチ様と、コンが、それを見送った。そして、赤い鳥と緑の亀もこれを感じた。



 麻衣子たちは、メールで申し合わせ、翌日の土曜に、美代子の家に全員集合した。沙江子が、お祝いしてくれる豪華な昼食になった。オカルトクラブメンバーは、全員、誇らしげに銀のカプセルを胸に輝かせていた。

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