龍神さまに撫でられた4人
翌日、気球の試運転に、早めにミカの家に行き、ミカの絵を見せてもらった。ミカは、私と違って、パソコンで、絵を描く。作風も全然違う。だから余計に興味がわくと美代子は言っていた。美代子の携帯には、もう、ミカの鯨の絵や、疾風の絵が入っている。私の初作品の玉もそうだ。
行って見ると、ミカも絵をがんばっていた。特に、隅音川を遡上する疾風の絵がお気に入り。パソコンの画面を取らせてもらった。本当は、データーをスマホ用にして送ってもらえばいいのだが、私達は、やり方が良くわからない。潔にその辺をやってもらおうという話しになった。
ミカの絵は、写真と絵を併せた様な絵だ。隅音川を歩いて、印象的だった所を写真に撮り、主体の絵だけを描いていく。そうすると、夢の風景を結構思い出すそうだ。ミカは、夢で見たものだから回りの細かいところは、忘れている。だから、写真とミックスする。写真が、見えない光の世界のように出来れば最高だが、そうでなくても、実感が伝わってくる。私達は、早く仕上がるミカの絵をもっと見たいと思った。
集合時間になり龍頭山東登山道入り口に行くと従姉の真理子と、潔が待っていた。二人が親しそうに話しているので驚いた。
「真理子さん、潔を知ってるの?」
「ちょっとね、私の家は、城山神社の氏子だから、城山家にはお世話になっているのよ」
「真理子さんは、巫女のバイトをしてくれてたんだ」
「似合うー」
「見てみたい」
「私もです」
「オレの家に写真あるよ。今度持って来ようか」
「そんなの、見たって面白くないわよ」
「でも、三回ぐらいやってくれているから、写真を並べると、大きくなっているのが分かるんだ」
「そうか、真理子さんも子共の頃があったのね」
「それは、そうでしょ」
「アハハハハハ」
「うふふふふふ」
「くす、くす、くす」
「なんだか恥ずかしいじゃない」
ミカが元気よく号令をかけた。
「それでは、お昼の山菜をとりに行きますよ。途中秋参道をお教えします。こちらは、山菜の宝庫です」
「裏道だ」
「修験道の道だよ」
思ったとおり、秋参道は、獣道かと思うぐらいの小道で、ミカがいないと入り口さえ分からないものだった。しかし、山菜の宝庫だ。タラの目、ウド、つぐみ、せり、なずな、はこべら、こごみ、ぜんまい。私達でも分かる山菜が、この小道の近くに生っていた。
潔がミカに神主の息子らしいことを聞いていた。
「時計回りに考えると、北が冬参道だとすると、東は、春参道になるんじゃないのか?」
「私も良くは知らないのですが、日本の地形と関係あると思います。確かに東から太陽は昇りますが、日本は、北東上がりです。土地も考慮に入れてこの裏道があるのではないでしょうか」
「ちょっと待てよ、それって、龍王って事か。地龍も関係あるって事だろ」
「ごめんなさい、分かりません」
「いいんだ。木野さんありがと」
なんだか、ミカが、ちゃんと会話していると思った。みんなで山菜を大量に採り、今日は、山菜ごはんとおひたしにするとミカが言った。美代子は、又、料理がしたいと早々に手を上げた。今日は、私も真理子もその予定だ。
葉子の家に行って見ると、大学の人が3人いて、機材を運び込んでいた。もう、籠とバルーンを結んでいて、バルーンに熱した空気を入れている。布の気球は、相当大きなものだが、布部分が重いために、2人しか乗れない。今日は、杭に縄を繋いで浮くか試すだけなので、杭を打たなければいけなかった。潔は、そちらに参加した。熱風を送っているのになかなか膨らまない気球を見て私達は心配になった。真理子は、気軽に葉子と話しをしている。
「なかなか膨らみませんね」
「帆布ですからね。貰い物だから仕方ない。でも、一回膨らんでしまったら、こっちのものよ」
真理子は、葉子の所に良く来ているみたいだ。葉子が言うには、研究費が取れる様にする為には、有名な雑誌に論文を投稿してみるのも手ではないかと言う。
「同じ研究テーマを持った人が、見つかるかもしれないし、大物の教授や学者の目にとまったらいい事があるかもしれない。とにかく一回は、アクションを起すべきよ。何もしないで、なにか変化を期待するのは無理」
真理子も、やれる事をやってダメなら、他の事が考えられるかもしれないと、最初は、消極的に考えていたが、一度やると決めてからは、なにかふっ切れたようだ。私のお母さんが、真理子の気持ちを聞きたいと言っていたというと、話す気になったみたいで、私は肩の荷が降りた。
「うちはお父さんもお母さんも真理子の味方よ。お母さんに話したいから真理子さんの研究を私にも分かるように説明して」と、話すと、とても喜んでくれた。
気球は、徐々に膨らんできた。杭のほうは、打ち終ってゴンドラから垂れている縄を縛り付けた。大学の人が、「球被の開口部にスカートをつけると熱が逃げないんですよね」と、問題点を指摘してくれた。しかし、球被の気密性は、縫製がしっかりしているから大丈夫だと請け負ってくれた。私達は、台所に行って、昼食の準備をしなければならない。しかし、バルーンが浮き出したので、目が離せなくなってしまった。
浮いているバルーンを見て葉子は、飛び上がって喜んだ。
「やったわ」
「葉子さん、やりましたね」
ミカも葉子の側に行く。ずっと二人でバルーンを作っていた。喜びもひとしおだ。バルーンは立ち上がりだし、気球らしくなってきた。葉子の庭は、広いのだが、バルーンが大きいために狭く見える。ガスバーナーを扱っていた人が、葉子を誘う。
「葉子さんも早く籠に乗ってください」
他二人の人は、籠を抑えている。葉子さんが乗ると、二人は、手を離した。気球は、ゆっくり上昇していった。ミカと美代子は、カメラを持ってきている。急いで、バックからカメラを取り出して写真を撮った。私は両手で、真理子は片手で、手を振った。
「成功よ」
「葉子さーん」
杭と繋いだ縄が、ピンと張り地上100メートルぐらいのところで、気球は止まった。しばらくこの高度で、ホバーして下で、潔たち男の人が、縄を引っ張って、この庭に降ろす。
大学の人が、私達にも乗りませんかと言ってくれた。
「今日は、風も穏やかで安全です。一人しか乗れませんが、どうぞ」
そういわれ、ミカ、美代子、真理子と一人ずつ上空に上がった。次は私だ。気球は、ゆっくり上昇し出した。みんな小さくなり、気球は、龍頭山より高く上がった。私の視界に、遠く海が見える。私は、青空とは別に虹色に見える絶景に目を奪われた。海の波頭が、キラキラと幾重の色に染まって色を変えていく。深い青、金色、エメラルド、世界は、なんて綺麗なんだろう。私は嬉しくなった。
そうだ、龍神様
私は、遠くの海から真下の龍頭山に目を移した。私は、龍神様のフィールドより高く飛んでいた。こんなに、形がはっきり見えたのは、初めてだ。私達を乗せた気球は、ちょうど、龍神様の眉間ぐらいを浮遊している。大きいとは思ってはいたが、龍神様は、とんでもない大きさだった。体は、何所まで続いているのか、この高度では分からない。
私には、龍神様が、一瞬笑ったように見えた。
そして、輝いたかと思うと、また、殆ど見る事が出来ないぐらい、か細くなった。私は、疾風のことだろうなと思い、これを心にとめた。龍神様は、池にいる青龍を守るために、力を殆ど使い果たしている。それなのに、私に会いに来てくれた。
龍神様がここに落ちてからの長い時間が、私に押し寄せて来た。
なんだか、頭をなでてくれた気がして、頭に触ってみると、とても細く長い毛が、私の手に残った。私は、これが、龍神様の髭に思えて手離さないで、ずっと握っていることにした。気球は、次の人を乗せるために、ゆっくり降下する。私は、この龍の髭をバックにしまった。
次は、潔だ。私は、潔とハイタッチした。そして、「気球が上がった所が、龍神様の眉間だよ」と、教えた。潔は、目を輝かせて気球に乗った。
気球のテスト飛行は、大成功だった。葉子さんや男共が喜んでいる間に私達は、昼食の準備に入った。今日は、九人分の食事を作る。私と美代子は、今まであまり使っていなかった食器を洗ったり、お米を一升といだりした。ミカは、山菜を適当な大きさに刻み、真理子が、おひたしと、冷蔵庫に有った食材で、肉じゃがを作っていく。山菜ごはんを仕掛け終わった私達は、お茶の準備して、居間の方に持っていった。気球は、膨らますより、畳むほうが大変らしく、まだやっていたので、お茶を入れないで、そちらを手伝いに行った。
葉子さん達は、本番の打ち合わせをしながらバルーンを畳んでいた。干拓地の農業用滑走路は、許可さえちゃんと取れば、相当長い時間使えるそうだ。この時期は、海側から風が吹くが穏やかなので、今日のようなテスト飛行をしたら、少し山に向かって飛んでみないかと言う事だ。干拓地の農業用滑走路は、海側だ。もう一度乗れるかもしれないと思った。
潔は、龍神様を触ろうと、見えもしないのに籠から乗り出して怒られたそうだ。「無茶しないでよ」と怒ったが、肩の所に、龍の髭がついていたから取ってやった。潔には見えていないようだが、触れるので、「持っていたい?」と聞いたが、失くすといけないから持っていて欲しいといわれ、又、自分のバックにしまった。潔は、「じゃあ、オレも、頭をなでてもらったのか」と、感動していた。私は、ミカと美代子の事が気になり、二人の頭を触らせてもらった。二人とも、髪の毛に混ざって龍の髭が有った。私が後で、ペンダントに入れてみんなに渡すことになり、みんなのを預かった。全員おそろいのお守りを持つことになる。
潔が言うには、龍の髭は、とても丈夫で、少々の事では切れないそうだ。実態がないのに触れるのだ。とても貴重だし、私達の繋がりの証だ。葉子さん達がいる中で、おおっぴらに、そのようなオカルト話は、出来なかったが、後で、もう一度4人で集まろうと話しあった。




