頼りになる味方
良い事があった日のミカは、いつもより高く飛べる。寝る前の日記もさらさらかけた。夢の中でしか見たことのない、二股の猫、玉と友達になれたからだ。もう、ひもパンとひもブラは、完成している。手洗いしてみたが、効果は変わっていない。夢の中でも、ちゃんと着れている。今日こそ、飛ぼうと決心した。
「麻衣さんが言っていたように、水着だと思うしかないわ」
昨晩服が完成して部屋で鏡を見た。どう見ても、露出度満点だ。それとは別に、胸のところで、おばあちゃんのお守りが光っていた。
「これ以上は、どうしようもないのよ」
そう、独り言を言って、蒲団の中に入った。良い事があった日は、寝つきもいい。
気がついたら、あの格好で、家の前の、農作物の仕分けや作業も出きる広い庭にいた。ミカの家は、少し高台にある。庭は、下の畑と区別されるように石垣で仕切られていて、作業がしやすいようにまっ平らになっていた。ミカは、下の畑を見下ろした。
そうか、靴も履いていないんだ
下を見下ろした時に、自分の足を初めて見た。いくら庭をまっ平らにしているとはいえ、小石ぐらい有る。しかし、痛くなかったから、足のことは気にしていなかった。やっぱり、麻衣子と美代子に頼んで、潔に、協力してもらった方がいいのかな。と、一瞬思ったが、首を振って、むり、むり、むりだと、思い直した。
だって、恥ずかしい
そう言えば、城山に行こうと思ったら、潔さんの神社を通るんだ。と、気がついた。
今日は、神社より絶対高く飛ぼう
今までは、ずっと低空飛行だった。羽が有ると認識したから、たぶん高く飛べるだろう。ただ、そうすると、裸も、いっぱいの人に見られるのではないかと思い、未だに低空飛行をしている。とにかく城山に行こう。
バサっと、ミカは、羽を広げた。
本人は、そんな気もないだろうが、美代子が見たら、「自信持ちなよ」と、言っていただろう。人の大きさの鳥は、地上に、存在しない。その雄大な、白い羽は清く、少女の清さを引き立たせる。
ミカが作った服も、お守りと一緒で、黄緑色にやさしく光っていた。いつものように、星空を見た。起きている時とは、比べ物にならないぐらい光って見える。吸い込まれそうな光だ。その中の、大きく瞬く星に手を伸ばそうとしたら、フワッと浮いた。
ミカは、羽を広げる事は出来たが、まだ羽ばたいてはいない。羽ばたかなくても、ふわふわ浮く事が出来る。その時に、無意識に羽も動かしているようだが、とりあえず飛べるので、それ以上積極的に羽を動かしてはいない。しかし、城山神社では、試そうと決めた。
ちょっと庭から離れるとそこは、畑の中だ。下の畑の作物が、成長しだしているせいか、宝物のように光って見える。良く見ると、トマトの苗木は少し赤く光っているようだ。なすびは、紫。ミカも手伝っていたから、何所に何を植えているか良くわかる。早く大きくなってねと声を掛けて、川の方に向かった。
家の前を下ると、何でも屋さんがある。その前には、小川が流れている。目の前の田んぼは、まだ田植えがされていない。しかし田起こしがされていて、土が真新しくなっている。これに水が入ると、もっと田んぼらしくなる。今は、微生物に昨年のわらや、稲かぶが分解されているのか、いろいろな光が、プチプチと土の上で忙しく光っている。ミカは、今まで夢で、こんな光景を見ているだけで満足して、遠くに行ったことがなかった。
城山に行くのは、もう、冒険だ。小川を辿ると、川の主流に出る、隅音川だ。ビックリするほど、大きな川ではない、自分の羽を左右に目一杯広げて、それを倍ぐらいにした幅だ。農家の人達が大事にしているから、きれいな川だ。今みたいに上下水道がしっかりしていないころは、家前の小川は、いいけど、川には絶対入らないでと、お父さんは、子供の頃、おばあちゃんに言われていたそうだ。父親の時代より、今の方がきれいだと言うのがピント来ない。川には、金魚鉢に入れるクロモが群生している。金魚が食べられない方の藻だが、川の流れにゆれているのは、飽きない風景だ。そういえば、普通の道路を飛びたいと思った事が無い。向こうから見えないといっても、人にあまり会いたくないし、交通事故に合う事もないだろうが、車も何となくいやだ。それに、川が城山への近道なので川を辿りたくなる。そうこうしている内に、町中に入り、城山神社の前に来た。城山の頂上に続くこの石段は、他の所より暗い。石段の手前には、鳥居がある。ミカは、そこに降り立って神社を見上げた。
パアーーーン
眩しい光の柱が立ったと思ったら、神社の石段の下を電車が通り抜けて行った。暗い中で見たから、ビックリするほど明るい。電車を見送ると、少し離れた所に有る駅に停車した。そういえば、麻衣さんが、私と出会ったのは夜中の12時ごろだって言っていた。電車はまだ動いていたんだ。鳥居の上に立っていたから、遠くまで良く見渡せる。
まだ、大人は、起きている時間なのね
ミカは、神社ではなく、城山の頂上を見上げて、自分のタイミングを待った。
飛びます
ミカは、羽をめいっぱい広げて羽ばたき出した。軽く浮きながら、羽を一生懸命羽ばたかせる。思うように行かない。でも気持ちが上ずっているせいか、ドンドン高度は上がっていく。最初風を切って飛ぶイメージをしたが、なにか足りない。昼間、麻衣子の従姉の真理子さんが言っていた事を思い出した。『元素の中の光素』。意味は良くわからないけど、空気の中にある光の素を感じたいと思った。
ヒューーー
急に風を感じた。
キャ
いきなり厚い大気を感じて物凄い勢いで上昇し出した。
キャーーー
ビックリして、羽を縮込ませてしまいしまい。まっさかさまに神社方面に落ちていく。慌てて羽を広げたが間に合わない、大きな木の上に落ちた。
バサ、バサ、バサ、バサ、バサ
何とか地上までは落ちなかったし、大事なお守りも、服も取れていない。木の枝で、ホッとしていたら、縄張りを荒らされたと思ったのか、カラスが攻撃してきた。少し虹色架かっていたから、夢の住人のほうだ。
ギャウ、ギャウ、ギャ、ギャ、ギャ、ギャ
つつかれると痛い。
ごめんなさい、ごめんなさい
ミカは、慌てて羽を広げた。それは、2メートル以上ある白い羽だ。カラスは、たじろいで攻撃を止めたが、仲間がいたようだ。仲間の応援に気を良くしたカラスが、又、攻撃してきた。
一瞬早く、ミカは、飛び立った。その時ミカは、必死で気づいていなかったが、雄雄しく羽ばたいている。
猫ちゃん助けて
ミカは、玉の許に逃げた。無我夢中で、頂上まで来た。それでもカラスは、追うのを止めない。4羽ぐらい追ってくる。怖くて必死になって逃げた。
ミカが、サル山を越えた時だ。
フーーー ガオーン
物凄い雄叫びが、聞こえた。カラスは、一目散に自分の巣に逃げ帰っていく。そこには、毛を立たせて、いつもより少しだけ大きくなった玉がいた。フンという仕草をして、元の大きさに戻った。ミカは、涙目になりながら玉の許に降り立った。
「玉さん、怖かったです」
ミカは、玉に抱きついた。今まで触れなかった玉に実感がある。なんだか暖かい。ホッとしたら、又、触れなくなっていた。羽をたたんで、玉の横に座った。
「ちゃんと飛べるようになるまで、あそこは、通らないようにします」
やっぱり少し泣いてしまった。玉は、ミカの太腿に、体を摺り寄せてきた。ミカも、玉の頭をなでる。
「えへ、ごめんなさい。今日は、鯨を見に来ました」
そういって、眩しくキラキラ輝く海を見た。その後どれくらい海を見ていただろう。鯨は現われなかった。気持ちも落ち着いて、もう、帰らないといけないなといけないなと、思った。
「今日は、鯨さんが見られなくて、残念です。玉さん、又、来ますね。今日は、ありがとうございました」
玉に、ぺこっと頭をさげ、バサッと羽を広げて海側の広い道を帰途に選んで城山を後にした。ここから、麻衣子と美代子の家は近い。ちょっと寄り道してのぞいて帰ることにした。二人とも、すやすや眠っている。なんだか、安心して自宅に向かった。
翌朝起きて鏡を見ると、少し泣いた後がある。カラスに追われて、玉に助けられた事は、ハッきり憶えていた。ちゃんと飛べなかった事もそうだ。顔を洗ってしゃんとしてくると、泣いたことなどは、薄ぼやけてきたが、今回は、インパクトが高かったのか、努力しなくても忘れなかった。
翌日麻衣子たちが、葉子の所に行くために、ミカの家に集合した。それで、今朝の夢の話しをすると、美代子に大口開けて笑われた。
「ミカとカラスじゃあ体格差からいって、ミカだよ。一発ガーンとやっちゃって良かったのに」
「でも、くちばしが、すごく痛かったんです。カラスさんのほうが強いです」
「そうかー武器欲しいね。憶えとく」
相談に乗ってくれているのは、分かっているけど、面白がられてもいる。麻衣子は、別の事に興味を示した。
「でも、その時、風を感じて羽ばたいたんでしょ。実感があるということよね。玉にも一瞬触ったんだからすごいわ」
「もしかしたら、触らせてくれたんじゃないの。ミカを落ち着かせるために」
美代子さんも、たまには良いことを言う。そこで、まだデッサンだけど鯨の絵を見せた。背景は、大変なので、昨日撮影した写真をそのまま転用して、パソコンで書いてみた。ちょっと、ひどい絵だとは思ったが、パソコンなので、修正したり、書き直したりできる。これからだ。
「なに、この大きさ。水面に体が全部出てないのに、これ?」
「そうね、こんな感じ」
麻衣子も、同意してくれる。
「ドローイングって、初めてやりました。もっとがんばったら、もっと良い絵が書けると思います」
「パソコンなら、海も、光らせると思うな。麻衣は、どうしてんの」
「私はこれから。ガバン持って、玉のところに押し掛ける気。どうせ見せるんなら、直接本人見て書いた方が、早いもの」
「それいい、アハハハハハ」
美代子は、今日も機嫌がいい。ミカはナップサックに絵をしまった。此処は、町の西奥に当たる。龍頭山のすぐ近くだが、町中の人は、そんなに、ここ辺りには来ない。麻衣の従姉、真理子が、手を振りながらやってきた。今日は、5月の連休前の日曜だ。ぽかぽかした日差しの中、みんなで葉子の、家に向かう事になった。




