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オカルトクラブと翼の少女  作者: 星村直樹
美代子
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口伝 ずさ神社の項

 あの夜、大人たちは、朝まで飲み明かした。だから、朝ご飯は、私達で準備することになった。私達はというと、あの後、オズチ様に、立ち合いで呼ばれていたフクロウのミミ様を紹介された。ミミさまは、私たち全員に声が聞こえるように言霊で話をしてくれた。まるで、歌っているようだった。それで、私たちも少し遅くまで起きていた。


 だから、久々の涼子には、まいった。


「麻依、あさじゃ」

「うーん涼子、かんべんして」

 しかし、私が起きるまで、涼子は私から降りない。

「もう、明るいよ」

 それは、分かっているけど

 私は、あきらめて、這うように起き上がった。

 赤い髪止め用のゴム輪を持ち、テラスに向かう。太陽は、とうに白門山の上に昇っていた。涼子の髪は、梳けば梳くほどつやが出た。


 後4日で、島対抗中学の部がある。涼子は、テツのために縁起を担いで、今日もツインテールだ。参加する島は、24島もある。


「何処が強敵なの」

「因島は、強いで、あの辺の島がまとまっとったら、怖いって、お父さんが言ってた。でも、別々。だから、そのあたりの島からいっぱい参加する」

「ほとんど隣町じゃない。他は?」

「屋代、山口県でもぴかいち。最近は、島じゃないけど呉?」

「屋代! みっちゃんのお父さんの所ね」

「ここも強いで」

「この数だと、トーナメントなんでしょう」

「ツーブロック。高校からは、離れ小島の向こうだから、よく見えん。面白いのは中学までで」

「分かった。応援する」

 美代子が出るのだ、気合を入れようと思う。

「倭人船団の首長も見るゆうとったで」

「中学の部も?」

「そう」

 涼子は、髪を梳かれて気持ちよさそうにしている。


 ずっと海賊戦は、倭人海賊団首長代頭の石田のおじさんだったから、首長は、見たことない。楽しみが一つ増えた。


 今日は、テツも美代子も、海賊戦の練習を休んで、ホエールウオッチング。潔は、ポポワさんに会うために、クジラに慣れると張り切った。潔たちは、あの夜、ポワワさんを見ることができなかった。



 その頃、大人たちは、朱雀のために白門神社に集まり、ああだ、こうだと朱雀のために心を砕いていた。

 しかし、まずは、ずさ神社の扱いだ。


 阪本さんが、ずさ神社のことを話し出した。


「みんな、ええか。勝司もええじゃろ」

 健太郎のおじいちゃんは、元々、気張ったところのない人だ。

「義正に任せるで」

 肩の荷が下りたと語る阪本さんの話は、五百年も前に遡る。


 雄一が先に、今日のことを聞いた。

「中学の練習休ませたじゃろ。みんなで、朱雀さまに挨拶に行く言うことか」


「そうじゃ。まあ、ぎけ。宗治、藁は、神社の洗濯場に置いといてぐれたか」

「言われたところに、置いときました」

 白門神社の神主になった城山宗司は、今日が晴れ舞台だ。裃を着ている。

「口伝の伝承には、抜けたところがある。それを、今から言う。みんな、よう、ぎけ」


 ここには、昨日海守りの試しに立ち会った大人が全員招集されていた。みんな、座り直して襟を整えた。昨夜、朱雀の飛翔を見た者たちだ。五百年も封印されていた口伝の内容を疑うものは、だれ一人いなかった。



 ずさ神社の項


 海賊働きと言っても、むやみに船を襲っていたわけではない。通行料と水先案内が本業だ。実際は漁師もしていた。瀬戸内が穏やかだと言っても時化るときもある。海で、海難事故はつきものだ。

 海流の関係で、青海島東端沖に難破船の流れ着く。

 ここに、慰霊に来る人の案内をしていたものを海者と呼んだ。泳ぎの上手い3人がこれに当たっていた。海者がいないと、難破船を望む神社にたどり着くのは困難。それでも、各島の海賊船団の頭は、行事のようにここに訪れていた。海賊たちは、ずさ神社を大事にしていた。

 偶に海者の中に、光る海が見える者が現れた。彼らを海守りと呼んだ。海守りが現れると、難破船の霊が癒される。海守りの話は真実で、海者に逆らう者はいなかった。


 五百年前、ずさ神社に、消息不明になった朱雀さまが難破船に乗ってやってきた。尾羽は切られているが、以前の姿のままだ。海守りは、それまで、海者に混ざって自分を表に出していなかった。朱雀さまを守るために、初代の海守りさまが現れた。


 海守り様は、ずさ神社を封じてしまった。その中身を知っていたのは、当時の頭たちだけだ。口伝も閉じられ、後に、それを知る者は、海者と海守りだけになった。

 朱雀さまが、解放された暁には、また、海難者の供養を行う事ができる。それまでは、海守り様に神社と朱雀さまを守ってもらうことになった。


 更に、ずさ神社の行事が話され詠々と話された。


 朱雀の項


 朱雀、その姿は美しく、燃えるような翼。黄金に輝く頭、赤く長い尾羽。一目で、他の鳥とは違うのが分かる。朱雀は、白門島南沿岸の孤島、厳顔島に住み、年老いて見なくなったと思ったら、また、子供になって現れた。

 厳顔島、内湾の崖を住処にしていた朱雀は、上部の洞窟の中に、藁で巣を作っていた。藁は、白門神社の洗濯場からしか持ってこない。島民は、月に一度は、藁をそこに置いていた。

 雌である朱雀の巣に、いきなり押し掛けるのは良くない。入り口で、名乗り、入りますと、声を掛けて入る。

 朱雀は、泳げるため、小魚を主食にしているが、あわやひえのような五穀も大好きだ。その為、餅を米粒大にして奉納すると、とても喜ぶ。正月に朱雀に出てきてもらう決め手となる。

 朱雀の巣に偶に粟などを持って行くのは、好ましい。だからといって、多すぎても食べきれるものではない。朱雀に会いたいのなら、よく相談して会いに行くことだ。持って行く量を少なくして、出来るだけ多くの者が訪れることができるようにしたい。しかし、巣を訪れるのは、3人までにしてもらいたい。更に、一人は、顔見知りであることが好ましいため、一度に訪問できるのは、二人とする。

 朱雀は、海賊戦観戦が大好きだ。その為、首長は、厳顔島の頂上で指揮を取る。ここに上がれるものは、5人。首長、首長代理、神主、対戦している島の頭首2人にしぼられる。だが、次代を担う者や。補佐するものを含め7人まで登れるものとする。


 まだ続いたが、この様に、細かなことまで、決めごとが綴れていた。




 口伝が終わり、ため息をつく者がいる中で、一番最初に朱雀と仲良くしなくてはいけない白門神社、神主の宗治が、自宅にきびがないと慌てた。


「ばかたれ、じゃが、よう、五穀の中で、きびが、一番の好物じゃと気付いたの。心配すな、わしが、持ってきとる」

「本当ですか、ありがとうございます。きびは小粒ですし、餅にもなるじゃないですか」


 昨夜、朱雀を見ているのが役に立った。宗治は、白門島に来島してから、ここ一番のさえを見せている。


「今日は、あいさつじゃ、入れ代わり立ち代わり行くぞ」



 阪本さんの話が一段落ついたところで、紗江子が、告白した。


「まって、みんなに、許してもらいたいことがあるのよ」

「何じゃ言うてみい」

「紗江子、よせ」


 船が、むずかしい顔をする。船は、薄々紗江子が言うことが分かったみたいだ。


「私のお父さんは、石塔家の血を引くものよ。お母さんは、それを知っていたわ」

 その場が、ざわついた。

「船、どういうことじゃ」

「船!」

「母ちゃん」


 紗江子より、姉の船が、責められた。


「だから、海根かいねは、町で暮らした。年も離れとったが、本当の理由はそれじゃ。年が離れとるんじゃ、早よう先立つのは、解っとった癖に後を追いおって」


 船には、船の悔恨があるようだ。海根は脳溢血だったのだが、誰もが、夫の後を追ったと思っている。


 ざわつく場に、勝司が、穏やかだが、大きな声で、皆に語り掛けた。


「もう、ええじゃろ。朱雀も帰ってきた。石塔を許してやれ」

 五百年も経つのだ。誰も恨む者はいない。


 元倭人海賊団首長が、裁定した。


「ええんじゃないか。今度の盆に頭を通してみんなに話そう。どうせ、ずさ神社や、朱雀の話もせにゃいけんのじゃ。そうじゃろ、紗江子」

 雄一に言われ、肩の力を抜く


「みんな、ありがとう。朱雀が、ああなった顛末を話すわ」


 こうして、石塔家は、許された。そして、朱雀が五百年も徳利の中にいた真実が、紗江子から語られた。

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