朱雀羽ばたく
ずさ神社では、お参りを終えた4人が、祭壇後方の天井にある空気溜りで、一心地ついていた。3人は、酸素ボンベを外しはしたが、ここの空気を濁らせないために、開放したままでいる。
麻依姉、お嬢、潔兄、ありがとう」
「海が光るの、見えた?」
美代子達は、紗江子から、海守りの条件を聞かされていた。
「なんで、分かるん」
「私達にも見えたからよ。でも、健ちゃんは、その前からなんでしょう」
「オレ達が神社に入る前に見えたかい」
「そうじゃけど、麻依姉どうなっとるん」
「健ちゃんが、海守り様になったのよ」
「そうよ」
「おめでとう」
「そりゃ、わかるけど」
空気溜りの下は、更に青く光っている。
「海守り様、なったばかりで悪いんですけど、朱雀を助けに、ミカと白虎がここに来るわ。神社に入ってもらっていいですか」
「ミカ姉ちゃんが?」
「麻依っ?」
「この調子だと、健太郎にも二人が見えるよ」
「ごめん、そんなに説明している暇は、ないの。いいですか」
「ええけど」
「どういうこと?」と美代子。
「健ちゃんのオーラが異常に膨らんでいるわ。海守り様に許しを貰うのが筋なんじゃない」
たぶん、オズチ様たちだと、自由に、ここに入れるのだろうが、海守りの許しが必要だ。
「健ちゃん、ミカのことは、内緒よ。後で、潔に、よく聞いてね」
潔が頷く。
「ミカが来たら、海守り様も、朱雀の徳利に触って、一緒に朱雀の命名に立ち会うの。私たちは、ここから、それを見届けるわ」
美代子も、やっと、状況を飲み込んだ。
「朱雀を開放するのよ。健ちゃんもミカと一緒にお祈りして」
「朱雀の名前も秘密だよ。神様は、人に自分の名前は明かさないんだ。じゃないと、人に利用されるからね」
これだけ矢継ぎ早に、上級生に言われているが、健太郎は、パニックになったりしない。この、青い、フィールドの中だと、穏やかな気持ちになれる。
「一緒にお参りすりゃええんじゃな」
そう言っている内に、神社の中が、黄金に光りだした。
「ミカよ」
「健ちゃん行って」
「たのんだぞ」
見送る三人の所に。大きなイノシシの鼻先が入ってきた。
「オズチ様!」×3
「ミカもコンも立派にしたぞ」
「ありがとうございます」
「オズチ様は、オレ達と一緒ですよね」
「何じゃ、美代子も、潔も、わしの声が聞こえるんか」
「ポポワさんのおかげね」
「麻依、わしを褒めてええぞ」
「私ですか」
「わしの仕事が分かるんは、麻衣子じゃろ」
「オズチ様には、ミカとさっちゃんが、ご褒美を用意してます。後で、みんなで、いっぱい褒めます」
「ほんとか、たのしみじゃ」
そんな話をしている内に、神社に紅がさしてきた。ミカが、朱雀の徳利に触れたのだ。
「こりゃいかん、わしの声が聞こえるぐらいじゃ、ミカの命名も聞こえるぞ。そうしたら、わしらの出番じゃ」
みんな頷く。神社内は、炎の赤と、ミカの黄金、それを取り巻くように海守りの青が、キラキラ輝いていた。
ミカは、オズチ様から降り、朱雀の徳利の前に立った。朱雀の徳利からは、赤い尾羽が覗いて見える。
みんなは、とっくりに触ったかしら
そこに、トポンと後ろの天井から、健太郎がやってきた。健太郎は、ミカの羽をするりと、すり抜けミカの横に並ぶ。そして、「うん」と、頷いて、朱雀の徳利に触った。健太郎の、海流のようなオーラが、神社に充満している。
健ちゃん、海守り様になったんだわ
ミカは、三人が、朱雀に挨拶したと認識した。こんどは、自分だ。徳利に触りながら朱雀に話しかけた。
「朱雀さん、ミカです。今日は、みんなで、朱雀さんに徳利から出てもらうように、言いに来ました」
ミカには、昼間の島のイメージが見える。やはり、朱雀は、飛びたいのだ。
「ひとりで、無茶して。コンは、朱雀さんのために、たんこぶ作ったんです。一人にさせるのは、心配です。いいですか、あなたは、今日から、ソラです。名前を呼んだら来るんですよ」
ミカにいろいろな瀬戸内海の空のイメージが流れ込んでくる。朱雀が喜んでいるのが分かる。ここで、ミカは、気持ちを込めた。一瞬、黄金の光で、神社が覆われる。手話で、空と描きながら詠唱した。
「ソラ、とっくりから出て、羽ばたいてください」
これを聞いた3人とオズチ様が、それを詠唱した。
「ソラ、とっくりから出て、羽ばたいてください」
様々なオーラの色が混ざり合い白色化する。まぶしい光だ。
徳利から、2枚の羽の様な炎のオーラが強く浮かぶ。ミカが、羽をたたんで、後ろにいるコンに振り向いた。
コンは、白色化して光っていたが、5人に後押しされ、穏やかな光へと変色する。白銀のオーラに身を包んだ白虎が、咆哮を上げた。
「がおーーーーーーーん」
「ぴぴーーーーん」
これに、朱雀が反応した。
白虎は、短い角を前面に押し出して徳利に突進した。
「グルルル、ガオー」
健太郎も振り向き、白虎に道を開ける。
ピシッ
何かにヒビが入った音がした。
結晶化した朱雀のオーラに亀裂が走る。それと同時に、とっくり本体も、真っ二つに割れた。
「ピィ、ピピィーーーン」
中から、炎のオーラに身を包んだ、赤い鳥が仮死状態から目覚めたように神社の窓を出て、海上に向かって羽ばたいた。白虎もこれを追う。実態より、朱雀の光素体が膨らみ、実態の何倍もの大きさに見える。
ミカは、事を成し遂げた解放感で、笑顔になった。
「オズチ様!」
「分かっとる」
オズチ様が、朱雀を見届けるために、ミカを連れて、神社を出た。
「ミカ、ソラと一緒に飛んでこい」
「はい」
ミカが、オズチ様の背中を離れて、朱雀を追う。それは、地上で、最も雄大な光翼族が羽ばたくことを意味していた。
海上では、鬼火がぼつぼつと、燃えだし、あるものは、人の形を成しだした。ポポワの瑞光を浴びた者が、光色限界を超えだしたのだ。しかし、昇天せず、みんな朱雀を待つ。
船上の人々は、先祖の霊を目の当たりにして、ある者は、騒ぎ、ある者は手を合わせ、ある者は、言葉も無くそこに立ち尽くした。
紗江子には、さらに多くの霊が見える。船上には、こんなに猫がいたのかというぐらい、猫が集まっている。石塔家のためなのだろう、玉が呼んだのだろうと思う。海は、光る魚で覆い尽くされている。それも、サイズが大きく色とりどりだ。その中で、塩じいは、ひときわ青く輝いていた。
そんな状態でも、神社から目を離さない年寄り二人が、声を上げた。
「ずざく様じゃ」
「赤く燃えなさっとる」
その後ろから、白虎も現れる。
「あの方は、びゃっご様じゃろ」
「生きとるうちに、二神も会えるとは、長生きはするもんじゃ」
更に、黄金に輝く天使がそれを追う。
「光巫女様じゃ、ええもん見た」
「四神様が守っている巫女様じゃ、海者様のおっしゃる通りじゃ。二人が助けに来た」
二人は、泣き笑いしている。
どよめいているみんなに、紗江子が、活を入れた。
「みんな、見て。朱雀様よ」
船が、「朱雀さま」と、膝をついて、泣きながら手を合わせる。
全員が、漁船の片方に寄ったため、雄一は、操船を その側に妙子が寄り添った。
神主になった宗治は、兄の光と詠唱を始めた。嫁二人が後ろに控える。
隆には良子が、紗江子には、勝利が寄り添い、一生かかっても見られないと思われていた朱雀の飛翔を目の当たりにした。
石田家の船上で、健太郎の両親も朱雀を見たが、すぐ神社に目を戻した。あれからずいぶん経つ。ずさ神社には、空気溜があり、見とどけ人3人は、酸素ボンベを背負っている。それでも、海から目を離すことができない。順調なら、起点の目印の所に4人が浮かんでくるはずだ。兄のカイジが、サーチライトを向け、両親に大声を上げた。テツとソウもここに居る。
「健太郎じゃ」
「帰って来たわ」
「よし」
涼子と彩が、抱き合って喜んだ。翔太が健太郎を迎える準備をした。
手を振っている健太郎に続いて、3人も海上に顔を出した。海守りの試しはすべて終了した。
朱雀たちが、夜空に、光点となって遠く離れだしたとき、多くの霊が昇天を始めた。その場は、感謝と癒しに、満ちた。
紗江子たちは、哀悼を込めて、それを見送った。
石塔が、紗江子に声をかける。
「さえごさん。わしら、もうちょっと島におるで。五百年ぶりの海賊戦じゃ」
「楽しみね」
「勝ってよ」
そう言って、猫を引き連れて白門島に向かった。その後を、多くの人が付き従うように追う。石塔は、やはり、倭人海賊団の首長だった。
ミカ達は、相当遠くまで飛んで、瀬戸内海を巡った。ミカは、こんな長距離を飛んだことがない。でも、とても清々しかったと教えてくれた。
翌朝、砂浜で休んでいるオズチ様に、ミカと幸子が、慰労しに出かけた。あの後オズチ様は、コンに二人を任せて、ポポワさんにお礼を言い、立ち会ってくれたミミ様にお礼を言いと、すべての後始末をしてくれた。オズチ様には、ご褒美がある。
オズチ様には、まだ、神聖林にさつまいもがあることを話していなかった。
「何じゃと、本当か」
オズチ様には一大事だ。いつか見た、おいしいものを食べる夢が正夢になった。その後、サツマイモがある土地をオズチ様が、「わしの陣地じゃ」とか言って、周りを掘って誰にも触らせないようにした。オズチ様は、この後、コンが、サツマイモを狙っているのを背中で感じながら、サツマイモの世話をすることになる。収穫時期に、オズチ様が折れた。
「コンが最初に見つけたと、言いたいんじゃろ、ええい、もってけ」
そういうわけで、コンがゲットしたサツマイモを私たちもご相伴にあずかることになる。




