コンの脳波(言霊)共鳴波長
幸子の脳波測定の日が来た。実際は、脳波増幅器のブースターが足りないのだが、とりあえず周波帯の確認をする。今日は、付き添いに、安子とコンが来た。コンは、朝、麻衣子たちを見送ってそのままついてきた。葉子の家は、庭が広い。コンと幸子は、走り回って楽しんでいる。
「いらっしゃい」
「こんにちわ、今日は、コンも一緒です。コンは、四神の白虎の子供です」
普通、神様の名前は、明かさないのだが、コンの名前は、郷土資料に載っている。コンも平気なようだ。
「えええっ、神様?」
「猫の倍ぐらいの狐みたいな犬かな。さっちゃんが、可愛がってます。精霊ですよ」
「はーびっくりした。でも、神様なんでしょ」
「本当は、精霊の名前は秘密なんです。コンは、特別。でも、内緒ですよ」
「わかったわ」
「コンは、なぜか、野生のままなんです。だから平気なのかな。あっ、うん。さっちゃんが、抱いてます。えっと、ここ?」
「大きいから降ろすね」
「今、さっちゃんの足元です。真理さんに向かせてよ。ここが頭ですから、しっぽはこのぐらい」
コンは、しっぽを振って真理子を見上げている。
「大きいのね。首が長いわ」
「コンは、初めての人の匂いを嗅ぐ癖があるんです。ここに指をかざしてみてください」
「こう」
トントン
「嗅いだみたいです、嬉しそうにしてます。頭を撫でてやってください」
「私、触れないわよ」
「わたしもです。でも、そんな風にすると、喜ぶんです。
安子は、そう言って、コンの頭を撫でて見せる。
「ここね」
「あと、お腹をくすぐると、はしゃぎます」
きゃうんーん ハッハッ。アウン、アウン
「安子、やりすぎ」
「ごめん、ごめん。やりすぎちゃったみたいです。たぶん悶えてます」
「へー可愛いわ。お姉さんにも触らせなさい」
真理子は、優しい感じで、コンの背中を撫でた。
「真理さんじょうず」
「真理さん、撫で方うまいです。コンが喜んでます」
珍しく、コンが、初めての人の手をなめた。
「あ、わかる。手をなめられたわ」
「真理さんが気に入ったみたいです」
「縁側に座ったら、膝に乗ってくるんじゃない」
「いいかも。縁側に行きませんか。コンが真理さんの膝に乗ると思います」
「本当! やりたいわ」
縁側で、コンと遊んでいると、奥から、葉子が、「準備できた」と、声をかけてきた。実験だ。
「真理子ー、準備できたわよ」
実験と言っても、今回は、大したセットではない。ヘルメットの内側に、頭に付ける端子が、二十一個、初めから並べられている。その端子に電気が通ったら、モニターにグラフが現れる。
普通、脳波は、1ヘルツから14ヘルツ。基礎律動のα波は、8から13Hz。
ヘルツは、電源周波数でよく知られている。東日本が60Hz、西日本が、50Hz。
1ヘルツは、「1秒間に1回の周波数・振動数」と定義される。
問題は、微弱な電気の増幅だ。大学にあったものは、最新式で、普通に持ち運べる。ここで、電流は増幅され、パソコンで、演算される。モニター以外に、地震を記録するみたいな記録計があるのだが、重いので、持ってこなかった。
脳波を測定する端子がついたヘルメットを見て安子が、心配した。
「これだと、端子が、頭の中に食い込みませんか」
「そうだけど、この方が、微弱な電流をキャッチできるのよ。分かったわ、そのセットも組んでいたから、最初は、こちらでやりましょう」
葉子は医者だ。患者や近親者の意見にできるだけ沿うようにする。21本の端子を赤い印がついているところまで戻した。
「ごめんね、これで反応しなかったら、最初に見た位置に戻させて」
「はい」
幸子が、大丈夫なのは分かっているが、気後れする。
葉子は、安子が、そう、思うだろうと、最初に、最終的な端子の位置を見せた。後は、幸子に椅子に座ってもらって、位置調整するだけだ。
「この増幅器は、端子から入力してくる信号を直接増幅して、増幅器に電気を送るのよ。端子に電気を送るわけじゃないから安心して」
「よろしくお願いします」
安子は、見守ることしかできない。脳波測定器のヘルメットがある椅子の横で、幸子のスタンバイを待つ。
「ヘルメット、もうちょっと下かな」
「ここ?」
「ありがと」
「端子の位置は見えないから、でも、当たっているみたい」
たぶん自分の頭を振って確かめているのだろう。そうすると、少し感じることができる。
「さっちゃんが見える麻衣子に、だいたい調整してもらっていたのよ。それが、赤い印。最初に見せた位置は、脳内にセットした時の位置よ」
真理子が、もう一度説明した。
「じゃあ、増幅器のスイッチを入れるわね」
葉子は、真理子と違って、習慣なのだろう、白衣を着ている。それが、余計、実験をしている雰囲気を醸し出していた。
「増幅器の電圧を上げるわよ」
真理子が、モニターの前で変化を観察する。
「最大で、いいんじゃないかしら」
「増幅のあそびは、有った方がいいわ。ゆっくり上げるわよ」
「うん、ちょっと低めだけど反応したわ。どのくらいまで上げた?」
「MAXよ。やっぱり、ブースターが必要ね」
「昨日、東京の友達に送ってもらったから、明日には届くと思う」
モニターには、なだらかな波形が、現れていた。α波だ。
「これだと、反応したことしかわからないわね」
「でも、真理子の予想通りよ。私たちと同じα波を出しているわ」
葉子は、真理子を称賛した。幸子は、そこに座っているのだ。
「成功したんですか」
「そうよ、さっちゃんは、そこにいるわ」
「もう一つだけ、試させて」
葉子が提案する。
「感情の起伏が大きいと、波形が大きく振れるのね。落ち込んでいるとその反対。だから、さっちゃんに、無理やりだけど、怒ったり、笑ったりしてもらいたいのよ」
「この波形じゃあ、分からないんじゃないかしら。なだらかすぎるわ」
「だから真理子は、モニターをよく見るのよ。さっちゃん、ちょっと、怒ってみてくれる」
「ぶーーーー」
「笑って」
幸子は、ニコニコした。
「変わらないわ」
「きっと、さっちゃんのは、うわべだけです」
「そんなことない」
「たぶん、最近は、ずっとうれしい状態だと思います」
「そうかも」
本人が認めてしまった。
みんなで、笑った。
悪いことではないのだが、それでは実験にならない。真理子が思いついた。
「そうだ、コンで試さない。お腹をくすぐると、すごく笑うんでしょ」
「いいかも」
幸子も同意。
「コン、おいで・・・あれ、やすこ、ねぇ、コンの頭、小っちゃいよ」
「どのくらい?」
「最初の端子の位置ぐらい」
「分かったわ。すいません、最初の位置に端子を戻してください。コンの頭は、それぐらいの大きさです」
ヘルメットの端子の位置が調節され、ヘルメットの位置自体も、幸子が抱いているコンの頭の位置に調節された。
「スイッチを入れるわよ」
「増幅器の電圧は、最弱からお願い」
また、幸子を被験したように、1から、実験が行われた。
結果は、幸子とほぼ同じ、増幅器の電圧、MAXで、やっと感じることができるものだった。
「じゃあ、安子ちゃん、くすぐってあげて」
安子は、手をゴワゴワさせながら、コンに近づいた。
「コン、行くわよー。こちょ、こちょ、こちょ」
「ワフン!」
コンが悶える。
ボン!
増幅器から、煙が出た。コンデンサーがいかれたのだ。
「大変!」
「大丈夫よ。もう、1セットあるわ、でも・・・」
真理子と、葉子は、モニターを見て驚いた。モニターには、脳波以外の波長域も表示させていたのだが、そのすべてが、振り切れていた。




