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起きたら20年後なんですけど! ~悪役令嬢のその後のその後~  作者: 遠野九重
第6章 黄金の女神、宰相の代行を果たす
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第47話 廃領置県の波紋

後書きにちょっとしたお知らせがあります。

 廃領置県。

 貴族領を廃止し、トリスタン王国全土を王家の直轄領とする一大改革。

 

 フィオリアの宰相代行就任とともに示された政治方針は、少なくない数のトリスタン貴族らを動揺させた。

 

「我々を貴族の座から追い出すつもりか!」

「ついに本性を現したな、女狐め!」

「このままではトリスタン王国全土がフィオリアに乗っ取られるぞ!」


 当然ながらあちこちで反発の声が上がった……ものの、このように騒ぎ立てる貴族には3つの共通点があった。


 ひとつ、領地経営が杜撰。

 ふたつ、だというのに贅沢を繰り返し、借金を積み重ねている。

 みっつ、上記2つについてまったく反省していない。


 短くまとめるなら、無能、という一言に尽きるだろう。


「無様、ね」


 貴族らの反応を知り、フィオリアは小さく嘆息した。


「地位に見合った努力をしてこなかったのだから、報いを受けるのは当然でしょう。それが嫌なら、今からでも領政の改善に取り組めばいいのよ。……まあ、無理でしょうけど」


 彼女の予想は当たった。

 反対派の貴族らがなにを始めたかといえば、フィオリアを辞任に追い込むための裏工作。

 領政改革に取り組む者はごく少数であり――いずれ貴族らには裁きの鉄槌が下されるだろう。



 他方、人々は廃領置県の方針をこころよく受け入れた。


「要は、フィオリア様がうちの街のことも考えてくれるってことだろ? 万々歳じゃねえか」

「あのクソ領主、自分が贅沢することしか頭にねえからなぁ。クビになって当然だろ」

「ざまぁみやがれ!」


 市井の反応はおおむね好意的で、これはフィオリアの人気……だけでなく、新聞というものも大きく関与している。

 

 バレンタイン新聞社。

 20年前にフィオリアが設立した新聞社で、いまやトリスタン王国のみならずベルガリア大陸全土にシェアを広げている。

 その影響力は凄まじく、フィオリアの新教設立において情報戦略を担ったことは記憶に新しい。


 バレンタイン新聞社は、今回もフィオリアを強烈にバックアップした。

 ……べつにフィオリアから指示されたわけでもないが、いわゆるひとつの忖度(そんたく)である。




 

 そのような背景のもと、国王ヴィンセントの名で貴族たちに対してひとつの布告がなされる。


 ――宮廷、議場の間にて廃領置県の説明会を行う。可能な限り出席せよ。



 


 

 * *






 説明会は、布告の翌週――4月の中頃に催された。

 草木は春めいているものの、ときおり冬の名残か、肌寒い風が吹き抜ける。


 議場の間には、男爵から公爵まで、100名を越える貴族が並んでいた。

 現在、トリスタン王国の貴族は112家。

 およそ9割以上の貴族家が出席したことになる。


 定例の貴族会議であれば、出席率は6割に届かない。

 今回は奇跡に近い出席率だが、それだけ多くの貴族が廃領置県というものに関心、あるいは危機感を覚えているのだろう。


「時間を取らせて申し訳ないわね。宰相代行のフィオリア・ディ・フローレンスよ」


 100余名からの視線を受けながら、しかし、少しも物怖じすることなく、フィオリアは話し始めた……が。


「御託はいい! さっさと説明しろ! どんな理由があって、我々から貴族の座を奪おうとするのだ!」


 痩せぎすの中年男が怒声をあげた。

 タンジェス・ディ・サイン伯爵。

 がめついことで有名な男だが、それに反して家の財政は火の車である。

 

「それは誤解よ、サイン伯爵」


 フィオリアの声色は、あくまで穏やかなものだった。


「私はあくまでも貴族()を廃止するだけよ。貴族()を廃止するだなんて、いったいどこの誰が言ったのかしら」

「なっ……!?」


 サイン伯爵は目を白黒させる。

 思いがけぬ返答に戸惑わされ、言葉が止まる。

 

 彼だけではない。

 会場の貴族たちのあいだで、どよめきと困惑が広まってゆく。


「静かになさい。貴族学校で学んだマナーも忘れたの? 人が喋る時は、口を閉じるものよ」


 窘めるように呟いてから、フィオリアは説明を再開する。


「宰相代行に就任してから今日まで、各家の財政状況を調べさせてもらったわ。この中で、胸を張って黒字と言える家はあるかしら? ――返事はしなくていいわ。貴方たちの俯き顔がそのまま答えなのだから」


 実際、貴族らのほとんどは気まずげに顔を伏せ、フィオリアから目を逸らしていた。


「もはや時代は変わったわ。貴族は、貴族というだけじゃ生きていけない。……けれど、その変化についていけたのは極一部だけ。ほとんどは悲惨なことになっているみたいね。旧態然のまま借金の山に溺れるか、新事業に手を出して大火傷を負うか、山師か詐欺師に騙されて転落するか」


「ぐっ……」


 呻き声をあげたのはサイン伯爵である。


 彼は、フィオリアのあげた3つの例すべてに当てはまっていた。

 領地改革をなさぬまま贅沢三昧で借金を重ね、焦って商会設立に手を出してみたものの赤字だらけ。

「南の島に財宝が眠っている」という話に乗せられるまま冒険者に融資を行い、そのまま持ち逃げされている。

 

「けれど、貴方たちを過度に責めるつもりはないわ。人にはみんな向き不向きがある。それなのに、貴族に生まれたというだけで、否が応でも領政をやらされる。ここが貴族領制度の問題点よ」


 ……このとき、フィオリアがわずかに話題を逸らしたことに気づいたのはごく少数だった。

 ほとんどの貴族は「そうだ、俺は領政に向いてないんだ。それなのに領政をやらせるから、こんな結果になるんだ」と心の中で責任転嫁を行った。「俺が悪いんじゃない。悪いのは貴族領制度だ」と。


「私は、貴方たちを領政という足枷から解き放ちたいと思っているの。それだけじゃない。同じ貴族として、借金地獄を抜け出してほしいと思っている。だから選択肢をあげましょう。


 各貴族家は、ひと月の後、その領地をすべてトリスタン国王に返還しなさい。

 見返りに、各家の借金はすべて王家が引き受けるわ。

 もちろん爵位も官職も奪うつもりはないから安心して。

 貴方たちは、いままでどおり、トリスタン貴族のままでいられるのよ」


 

 さらにこの後、フィオリアの口から廃領置県後の新体制について青写真が語られた。

 曰く――


「各貴族領を再編成して、“県”という区分を置くわ。各県には宮廷から執政官を派遣して、内政を行ってもらう予定よ」


「執政官の任命はこちらで行うけれど、希望者がいれば名乗り出てちょうだい。これまでの領地経営を鑑みて、採用・不採用を決めさせてもらうわ」


「これに並行して貴族議会の設立を進めるわ。すべての貴族家の当主には、議員としての職と、現在の家を保てるだけの俸禄を保証しましょう。……もちろん、不正が見つかった場合は解任させてもらうけれど」


「なにか質問はあるかしら? フローレンス公爵家はどうするのか、ですって? もちろん、領土すべてを王家に返還するわ」


「私の話は以上よ。1ヵ月、ちゃんと考える時間を与えるわ。よく検討してちょうだい」




 ……説明が終わった時、貴族の大半は廃領置県を福音のように感じていた。


 なにせ借金免除の上、領政から解放され、そのうえ俸禄まで保証されるのだ。

 その日のうちに13、半月で72もの貴族家が返還に同意した。


 彼らの多くは、とても重要なことを見落としていた。

 貴族が民衆の上に立っていられたのは、貴族という地位のおかげではない。

 領主――土地の持ち主であり、たとえ失政続きであろうと統治を行っていたからである。


 廃領置県はその関係を断ち切るものだった。

 貴族の多くは無自覚のうちに絞首台に上がり、自らの首に縄を締めたのだ。


 もちろんフィオリアの思惑に気付く者もいたが、そのほとんどはあえて反対の声をあげなかった。

 ……現状の貴族制度はいずれ破綻する。

 それをよく理解していたため、新体制のなかで生き残ることを選んだのだ。




 とはいえ、すべての貴族が廃領置県に同意したわけではない。


「あの女の言いなりなど気に食わん!」

「先祖代々の土地を奪わせるものか!」

「こんな国に居られるか! ワシは独立させてもらう!」

 

 およそ10の貴族家が、トリスタン王国からの離脱を宣言した。

 これだけなら、まだ、救いもあっただろう。

 フィオリアとしても「それが彼らの選択なのね」と受け入れるつもりだった。


 だが、


「国王はフィオリアの色香に惑わされ、トリスタン王国を失墜させようとしている! ヴィンセント討つべし!」


 彼らは連合を組み、反乱軍として蜂起した。

 トリスタン王国に戦いを挑んでしまったのだ。

 



・おしらせ


 いつも本作をご愛顧いただきありがとうございます。

 ありがたい事に、出版社さまから本作品へ書籍化の打診をいただきました。

 仕事の都合もあり、細かいことはまだ協議の最中ですが、近日またいい形でお知らせ出来たらと思います。


 ※この件について、出版社さまより報告をする事についてご許可をいただいております。


 今後とも、本作を応援して下さると幸いです。

 それでは失礼いたしました!

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