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少女たちの箱庭遊戯  作者: ひおり
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少女たちの箱庭遊戯Ⅱ 氷炎の魔導士3

お久しぶりです。イベント終わってすっかり府抜けていました。

「なんだったんでしょうね、あの人たち」


 あの後、ルナたちは紗鶴たちとは反対方向、彼女らが来た道を歩き続けていた。

 今までとはうって変わって木々の少ない、開放的な平地。相変わらずすれ違うヒトは居ない。

 やはり何時かクランが云ったように沢山の魔女や魔導士がその命をこの箱庭で終えてしまっているのだろうか、とルナは少し憂鬱になる。

 ふと顔を上げると紡も何か考え事をしている様子だった。道理で静かなわけだ。


「紡、どうかしました?」


 ファヴォリも気になったのか、足を止めて紡に声をかける。


「ん? んーちょっとね、さっきの祈人と征人のことが気になって」

「あの二人が?」

「うん、でも割とどうでもいいことだと思う。それより早く手がかり見つけなきゃね」


 そう意気込むと、意気揚々と右足を一歩踏み出した。しかし次に左足が地面に触れることなく、代わりに彼女の額が地面にぶつかった。

 漫画のように思いっきり、膝をつくことが無ければ手をつくこともなく紡は転んだ。


「ちょっ、大丈夫ですか?」


 慌ててファヴォリが手を貸して、それに捕まって紡が立ち上がる。


「マフラーは……うん、大丈夫。だから私も大丈夫だよ」

「だからの使い方間違っているわよ」

「えへへ……細かいことは気にしないの! それより下駄の鼻緒壊れちゃったみたい。紗鶴の云っていた足元に注意ってこのことだったんだ」


 紡の履いていた右足の下駄は彼女の云う様に鼻緒が付け根部分から千切れていた。

 この世界に来てからの度重なる戦闘で受けてきたダメージについに耐えきれなくなってしまったようだ。


「困ったなぁ私直せないよ」

「私も……下駄自体紡が履いているのを見るのが初めてですし」

「リーヴルは……無理っぽそうだね」

「お力になれず申し訳ございません」

「うぅん、気にしないで。ルナもできないだろうし……」

「何故そうやって決めつけるの?」

「できるの?」

「できるわけないわ」

「ほらやっぱり」

「まぁ丁度良い時間だもの、休憩も兼ねてアフタヌーンティーにしましょ。貴女のその下駄をどうするかはそのあと考えれば良いわ」

 そう云うなりルナは一人さっさとお茶会の準備を始めた。

 何時ものように何処からともなく白いテーブルと猫足の椅子を四脚用意し、そのなかの一脚にちょこんと腰掛けてリーヴルが紅茶を用意するのを当然のように待っていた。

 突然のお茶会に慣れたファヴォリと紡も空いている席に着席する。

 ガラス質のティーポットの中で茶葉が踊り、辺り一帯が紅茶の好い香りに包まれる。

 白い陶器のティーカップに紅い紅茶が注がれた頃、紅茶の匂いに釣られたのか三人程の人影が遠くに見えた。ふとそれに気づいたルナは途端に顔を嫌悪で歪める。


「おおルナよ、こんなところで茶会とは洒落込んでおるではないか」


 そう云って当然のように空いているファヴォリと紡の間の席、丁度ルナの向かいの席に座ったのは不老不死の魔導士であるクランだった。


「また来たのね暇人。生憎貴方に振る舞う御茶は……って、リーヴル、だから勝手にそいつにお茶を淹れないで頂戴」

 クランが席に着くなりリーヴルは彼のための緑茶を、まるでクランが参加する予定が初めからあったかのように振る舞う。

 そんな従者に溜息をつき、視線をクランと一緒に来た二人に移した。一人はクランと同じくらいの背丈の青年、もう一人はルナよりも一回り背の低い幼さの残る少年だった。


「何故貴方たちまで此処にいるのかしら? 郵便屋」


 郵便屋、と呼ばれた二人のうち、少年の方が肩にかけていたショルダーバッグから一通の便箋を取り出してルナに差し出した。


「ルナねえ宛に郵便でーす」


 差し出された便せんを受け取り、差出人の名前を目にしたルナの瞳が揺れた。


「えぇっと…お二人も紡とルナのお知り合いなんですか?」


 見知らぬ二人を少し警戒しながらファヴォリはそっとリーヴルに耳打ちした。


「あぁ、彼らは郵便屋と呼ばれているお兄様のフォーツ様と弟様のレフィ様の御兄弟です。ルナが理事長を務める柏井学園の七不思議の一つ、『思いを綴った手紙を北口の郵便受けに入れておくと届く』の正体です。定期的にいらしているので、ルナも紡様も顔見知りの仲でして」


 リーヴルの説明を受けてファヴォリは小さくあっ。と声を上げた。過去に何度かルナに招かれて彼女も柏井学園に足を運んだことがあり、その中で一度だけ耳に入った噂。さっきリーヴルの口から聞かされた 七不思議の一つ。成るほどあれは只の噂話ではないのかとファヴォリは一人納得していた。


「あれ? もしかして二人も箱庭世界に閉じ込められているの?」


 皿の上に盛られていたクッキーでレフィを餌付けしながら紡は自身の疑問を口にした。其れに対して兄のフォーツが、あはは、と軽く笑って答える。


「いや、俺たちは魔導士じゃないから対象外だよ。それに俺たちはセアル――どんなものだって一瞬で手に入れ一瞬で届けることができる悪魔だからね」

「僕たちに届けられない場所も物もないんだよ」


 クッキーを口いっぱいにほおばりながらレフィも得意げに胸を張る。一方紡はフォーツの言葉に首を傾げた。


「ん? じゃぁさ、フォーツ達は外の世界の事情も知っているってこと?」

「そうなるな、その気になれば今からちょっと見に行って教えてあげることもできるよ」

「じゃ、じゃあさ、ルナの世界――柏井学園は、明日手市はどうなっているの? ルナが居ないけれどきちんと機能しているの?」

「あぁ、大丈夫。何一つ差し支えなく不自由なく世界は回っていたさ」


 紡が詰め寄って問うとフォーツはさらりと答えた。彼の答えを聞いたルナは安心したような、でも少しだけ複雑そうな顔で少し冷えた紅茶を啜った。


「あっにいに、そろそろ行かないと」


 レフィが思い出したように口を開いた。フォーツもそうだな、と頷く。


「じゃあねールナねえ。紡ねえクッキーごちそうさま! そっちのねえちゃんも今度会った時にお話しようね」

「えぇ、また逢う時に会いましょ」

「フォーツ、レフィ、ばいばーい」

「お気を付けて」


 其々に別れの言葉を口にし、瞬きをしている間に姿を消した兄弟を見送った。

 二人の姿が見えなくなったことを確認し、ルナはのんびり緑茶に舌鼓を打っているクランをジロリと睨み付けた。


「で? なんで貴方まで此処にいるの?」

「お前さんに逢いとうなってな」

「寝言は寝てから云って頂戴」

「相変わらず冗談の通じない奴じゃな。どれリーヴル、茶のお代わりを所望するぞ」


 クランが注文するやいリーヴルは新しい緑茶をクランの持つ湯呑に注いだ。それを一気に飲み干し、クランは口を開いた。


「いやなに、この世界の事情が少しだけ見えてきたのでな、お前さんらにも伝えておこうかと思ってな。と、その前に紡よ、その下駄を貸してみい」


 ほれ、と催促され紡は慌てて足元に置いておいた、壊れてしまった右足の下駄をクランに差し出した。


「こりゃまた派手にやったのう。お前さん相当派手に暴れておるようだな」

「そんなことないよ。壊れる下駄が悪いんだよ」


 頬を膨らませて文句を云う紡を見てクランは豪快に笑った後、改めて紡から受け取った下駄を前にし、丁度壊れてしまっている鼻緒の部分をいじり始めた。

 数分も経った頃、クランが顔を上げ満足そうにうなずき、紡に下駄を返した。千切れてしまっていた鼻緒はすっかり元通り付け根と繋がっており、元のものよりより太くしっかりと接続されていた。

 受け取った下駄を足にはめ、とんとんと軽く地面を蹴り問題が無いことを確認する。


「これで暫く壊れることは無いだろう。大事にせい」

「うんっ、ありがとうじいじ!」


 じいじ、と聞きなれない言葉を耳にし、流石のクランも呆気にとられた。


「じいじとは儂のことか?」

「うん、そだよー。クランって私よりずーーっと長生きなんでしょ? だからじいじ」


 そう云ってにっこりと笑って魅せる紡を見てクランも耐え切れず笑いだした。


「はっはっは、なるほど、なるほどな。良いぞ。好きに呼べ」

「わーいじいじー!」


 はしゃぐ紡の頭をいとおしそうに撫でるクラン。そんな二人をルナは冷めた目で眺めていた。


「バカ親ならぬバカ爺ね」

「なんじゃ、お前さんも撫でてほしいのか? ほれ」

「触らないで撫でないで子ども扱いしないでって何度云えばわかるのかしら?」

「なんじゃなんじゃ反抗期かのう、可愛い奴め」

「貴方に可愛いと思われたくないわ」

「え、えっとそれでクランは何を知っているんです?」


 止むことを知らないクランとルナの云い合いに終止符を打ったのはファヴォリだった。その言葉で二人はそう云えば。とでもいう風な表情で本題に入った。


「この世界の事情と云ったが、どうにもこの箱庭世界を構築している魔力は六種類。即ち六人の魔女魔導士が絡んでいるとみなしていいだろう」

「六人かぁ。結構多いね」

「それでも、これだけの人数を閉じ込めて維持しているのだから、各々相当高い魔力を持っていることに変わりはないわね」


 ルナの言葉にクランは深く頷いた。


「さよう。更に云うならそやつらを殺ってしまうとこの世界のバランスが崩れてしまい、同時に崩壊に繋がるだろうな」

「崩壊してしまうとどうなるんですか?」


 ファヴォリが恐る恐る尋ねると、クランに代わってルナが答えた。


「崩壊してしまった世界に居た者は全員虚無に放り出されるわ。虚無に放り出されてしまえば自力ではほかの世界に干渉することはできないの。更に云えば別世界から認識されることは極稀……奇跡よりも更に稀な確率でしかあり得ないの。其れこそほぼ絶対あり得ないと云っていいわね」

「うん? じゃあルナが再構築していた時はどうしていたの?」


 ルナはかつて自らの生み出した世界においてある一定期間を過ぎると愛する誰かが必ず消えると云う理不尽を、世界を作り直し、選択を変えることで乗り越えようと何度も奔走したことがあった。紡はその時のことを云っているのだろう。ルナはあぁ、と軽く相槌を打って口を開いた。


「あの時は……そもそもあの世界は私の世界の中に創ったものなの。だからあの世界を壊したところで、その欠片たちは虚無に散らばることなく私の世界がひろいあげるわ。玩具箱の中でブロックケースの中身をぶちまけたって、それらは部屋の中で散らばらずに玩具箱の中に留まるでしょ? そういうことよ」

「へぇーなんかスゴいね」

「貴女わかっていないわよね」


 ルナに指摘され、紡は笑って誤魔化した。そんな彼女を見てルナはまた溜息を吐き、少し甘味の強い紅茶を一口含んで再度思考に耽る。

 クランはこの世界を創っているのは六人だと云っていた。一人はこんな巫山戯たゲームを始めた黒幕と見て間違い無いだろう。そして其奴はゲームマスターとして高みの見物でもしているのでしょうね。まったく、腹がたつわ。

 そして問題は残りの五人ね。彼らがゲームの駒としてどのように動いてくるのか。それが全くもって未知数なのは困ったものね。


「はいはーい質問!」


 ルナが一人思案している横であれこれ話をしていたクランたちの話を遮って、紡が突然挙手して話を遮った。


「その世界を創ってるやつらを殺しちゃったら世界が壊れるなら、殺さなきゃいいんじゃないの?」

「そう簡単に事が進めば苦労はしないわ」


 ルナの指摘にその通りじゃのう。とクランも同意し、四杯目の緑茶に口をつけた。


「考えてみい。奴らも鍵を探しておったらどうなる? 向こうは鍵の強奪のために手段を択ばぬかもしれぬぞ」

「んーだったら逃げればいいんじゃないの?」

「相手が殺意を向けてきても、お前さんは同じことを云えるか?」


 クランに例えを提示され紡は言葉に詰まる。

 殺意を相殺するには殺意をぶつけるのが一番単純にして唯一自分が生き残る方法だと云うことは数多の戦いを潜り抜けてきたクランと紡が一番よくわかっている。


「ほ、本当に戦うしか方法は無いんですか? ルナの虚ろなる運命(ハロウ・ドゥーム)なら殺さずに済むんじゃありませんか?」


 ファヴォリが必死に平和な解決方法を提案するがそれはその場の全員に首を横に振られると云う結果に終わってしまった。


「あれを使えばこの世界から切り離されることになるわ。それは世界構築者を失うのと同じこと。崩壊は免れないでしょうね」

「それに殺さないようにって手加減してたら先にこっちがやられちゃうしね」


 紡が気だるそうに背もたれに身体を預けながら反論する。ファヴォリはただ、そうなんですね。と力なく答えることしか出来なかった。


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