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少女たちの箱庭遊戯  作者: ひおり
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少女たちの箱庭遊戯Ⅱ 氷炎の魔導士2

GW,如何お過ごしでしょうか? 明後日開催されるCOMITIA120にて少女たちの箱庭遊戯最新刊出ます。

 温泉から上がって身体に付着した水分を拭い、着替えを済ませた三人は見張りしていたリーヴルの元へ戻った。

 三人の姿に気付いたリーヴルは爽やかに笑って見せた。傍におおよそ彼の手によって縛り上げられ、自由な脚で胡座をかく見慣れない少年を携えて。


「誰?」


 素直に率直に一言、紡が訪ねた。


「それはこっちの台詞だ! お前らこいつの仲間かよ! 俺を離せコンニャロー!!」


 鮮やかな橙色の髪を振り乱し足をばたつかせる。それを一行は不審者を見る目で見つめた。


「リーヴル、此奴は何者かしら」

「はい、ルナたちが入浴なさっている時に丁度見かけました。どうにも挙動が不審だったのでこうして捕まえたのですが……如何致しましょう」


 挙動が不審と聞いた三人は口を揃えて名も知らない少年を罵倒した。


「覗き魔じゃん」

「覗き魔ね」

「覗き魔ですか」

「だ――――っ冤罪だっつーの!!」


 少年はなおも自分の潔白を主張するがその主張がこの場の誰か一人にでも聞き入れられた様子は無い。


「女の子が三人も入浴している近くでこそこそしてたら、怪しさしかないっての!」

「うっせぇ誰がお前の裸なんか見て喜ぶかこのブス!」

「はーよくも云ったね、この童貞野郎!」

「女の子がそんな言葉使うんじゃありませんっ!」


 少年と紡の低俗で下品な言い合いにファヴォリが叱咤し、ついでに制裁を下した様子に、ルナもリーヴルもデジャビュを感じずにはいられなかった。


「とりあえず名前。この世界にいるってことは魔導士なんでしょ、それからこの世界について知っていることがあれば全部吐くこと」


 気を取り直して、少年の前で腰に手を当て仁王立ちした紡が主導権を握った。

 自分の不利を悟った少年は目線を明後日の方向にやりながら尖らせた唇から渋々自身について漏らした。


「俺は征人、炎の魔導士だ。この世界のことは魔導士やら魔女やらが集められてるってことくらいだ」


 もう解け、と文句を云う征人など御構い無しに新たな情報が無いことにルナは小さく嘆息した。


「じゃあ征人、あんた一人? そんなわけ無いよね」

「別にどうだっていいだろ」

「あんた自分の立場わかってるの?」


 売り言葉に買い言葉。小学生男子の口喧嘩よろしく言い合いに呆れ切ったルナはファヴォリにどうする? と問いかけた。ファヴォリは曖昧な笑みを浮かべてさぁ? と小首を傾げるだけだった。

 ルナは再びため息をついてなおもあーだこうだくだらない言い合いを続ける二人の間に割って入った。


「もう、貴女に任せていたらキリが無いわ。此奴が覗き目的だったかはこの際どうでもいいのだけれど、せっかく捕まえた捕虜よ? 使わない手は無いわ」

「覗きをした覚えも捕虜になった覚えもねぇ!!」

「捕虜は冗談よ」

「ルナが云うと冗談に聞こえませんね」

「リーヴル聞こえてるわよ?」


 相変わらず人の良さげな笑みを浮かべながら云うリーヴルをピシャリと一喝してルナは歩き出した。


「其奴はとりあえず連れて行くわ。覗きをした分しっかり働いてもらうわよ」

「だーかーらー!」

「相変わらず煩い犬だこと」

「犬でもねぇ!」

「じゃあ負け犬だね」

「はぁ!?」


 止むことを知らない紡と征人の口論を聞き流しながら再び前を向くと、ルナのアメジストの瞳が前方に二人の人影をとらえた。


「誰か来るわ」


 紡も気配に気づいて征人との口論を止めじっと前を見据え、ファヴォリとリーヴルも僅かに構えた。

 やがてはっきりする輪郭。見た目は紡と同じくらいの背丈をしたアシンメトリーに整えられたミントグリーンの髪の少年と、海のように儚く美しい髪を持つ少女だった。ふわふわの癖っ毛が少女の走るリズムに合わせて軽やかに揺れる。


「祈人、紗鶴!」


 その姿を捉えた征人が歓喜の声を上げる。


「すみませーん、その人を解放してくださーい」


 少女の方がこちらに向かって手を振りながら駆け寄って来る。それに続いて少年も彼女と並んだ。

 ルナは品定めするように少女を爪先から頭のてっぺんまで眺める。少なくとも二人から敵意の類いは感じ取れなかった。


「人に頼む時は先ず名乗るべきじゃないかしら」


 圧倒的高圧な態度に出たルナをファヴォリが咎めるが、少女の方は嫌悪を露わにすることなく、寧ろ笑顔でそれに応えた。


「確かに貴女の云うとおりですわね、私は紗鶴。未来視の二つ名を有する魔女です。そして此方は祈人、征人の双子の兄にして氷の魔導士ですわ」


 紗鶴と名乗った少女に紹介された祈人は礼儀正しく頭を下げた。


「どうやら俺の愚弟が世話になったようだな……すまない」

「本当に。キチンと躾して頂戴」

「でも助かりましたわ。ありがとうございます、迷子の征人を見つけてくださって。ルナさんたちのお陰で助かりました」


 笑顔でお礼を云う紗鶴とは対照的にルナは不信げに目を細める。


「貴方私のこと知っているの?」

「えぇ、私たちとルナさんたちが出逢う未来が見えていましたので」


 そこでようやく紗鶴が未来視の魔女を名乗っていたことを思い出した。そしてルナの中でも話がある程度まとまった。

 未来視を持つならこいつをほっとかないで何かすれば良いのに。私たちの手を煩わせるなんて、どんな間抜けなのかしら。


「ところで……なぜ征人は縛られているんだ?」


 祈人が不思議そうに尋ねると、紡が待ってましたと云わんばかりの勢いで経緯を説明した。


「こいつが私たちのお風呂覗き見してたの!」

「してねぇっつってんだろ!」

「あんたはうるさいから黙ってて」

「こいつは嘘をつける程器用じゃ無い。本人がやっていないと云うのだから恐らく何かの間違いだろう。其奴を放してやってくれ」


 祈人の言葉はフォローになっているか怪しいが紗鶴も「私からもお願いしますわ」と頭を下げた。

 紡がどうする? と云いたげに首をかしげる。

 ルナとファヴォリも目線で確認し頷く。


「わかったわ。双子だって云う貴方が云うんだし今回は見逃してあげる」


 ルナの言葉に応えるようにリーヴルが征人の縄を解く。

 自由の身となった征人は大きく伸びをし、固まっていた身体を解すように軽く肩を回しながら祈人たちと合流した。


「その代わり交換条件よ」


 ルナがすかさず交渉に乗り出した。紗鶴は相変わらず嫌な顔一つせず「私たちに可能なことであれば」と、それに応じる。


「貴女のその未来視の能力で教えて頂戴。鍵と、門は何処にあるのか、何なのかを」


 正しい答えを貰えるかどうかは賭けだった。出逢ってすぐのニンゲンを信じられる程ルナはお人好しでは無い。それに、そもそも答えてくれるのかどうかさえ定かでは無かった。

 紗鶴は静かに目を閉じ思考に耽る。やがてその瞳を少しだけ開き、ゆるゆると力なく首を振った。


「ごめんなさい、視えませんでしたわ。この世界の未来はひどく曖昧でぐちゃぐちゃで……とても私では真実の光を見出すことはできませんでした」

「……そう、なら良いわ。自分の力で見つけるもの」

「お力添え出来ずにごめんなさい。代わりと云っては何ですが紡さん、お足元にお気をつけくださいね」

「わ、私?」


 突然話を振られて戸惑う紡にはい、と念を押すように微笑みかけ紗鶴たち一行はルナたちが辿ってきた道を歩き出した。

 その姿が消え行くのを紡はじっと見つめていた。



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