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少女たちの箱庭遊戯  作者: ひおり
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少女たちの箱庭遊戯Ⅱ 氷炎の魔導士1

こんにちは。今回から第二話です。

余談ですが、5/6に東京ビッグサイトだ開催されるCOMITIA120に参加します。う12a 魔女の書斎 です。箱庭遊戯Ⅰ~Ⅵまでもっていきますので、もしお越しの際はぜひ。

 迷子と云うのは大抵知らない道、知らない場所を歩くことによって引き起こされる。地図を見ながら歩いたって、其処が何処なのか、何があるのか、どんな風景なのか、どんな場所に出るのか。其れがインプットされていないことにはどうやったって迷子になる可能性を払拭することはできない。

 なら迷子になってしまったらどうすればいいのか。答えは幾つかあるがもと来た道を戻って自分の知っている場所まで戻るのが一番効率いいと云うのが彼女――ルナの持論だった。

 しかしその辿ってきた道が無ければ? 道が無ければ辿りようが無い戻りようが無い。

 もしかしたら私たちは永遠に戻れないのでは? いくら彼女でもそんな疑心感を抱かずにはいられなかった。

 ――戻る道が無いのなら、進めば良いのよ。

 後ろに道が無いのなら前に進むしかない。前に進めばいい。これは何時だったかルナの大切にしている少女の一人が云った言葉だった。

 今はその言葉を胸に。ただひたすら目の前の道を歩くしか無い。例えそれが無意味だとしても。無意味なら、己が意味を見出せばよい。そう言い聞かせて。


     ♰


陽の光を受けてキラキラ水面を輝かせる川沿いを四人は黙々と歩いていた。

 先の戦い――人形遣いの魔女メリーとの戦闘で皆疲弊しきっており、口数は少ない。


「疲れた……お風呂…お風呂入りたいー……」


 一番前を、頭を垂らして歩いていた紡が不満を口から漏らした。


「もーいっそそこの川でいい。もう何でもいい。お風呂……シャワーでもいいから…」

「そこで水浴びして風邪ひいてもいいなら勝手にどうぞ」


 一番後ろを従者のリーヴルとともに歩いていたルナはいつもと変わらぬ口調だが、疲れを隠しきれていなかった。

 二人の間を歩いていたファヴォリが休憩を提案しようとしたとき、紡の足が止まった。


「紡、どうかしました?」

「温泉……」


 ファヴォリが尋ねると、紡がボソリと呟いた。そして、バッと顔を上げたかと思うとまっすぐ一目散に走り出してしまった。

 置いてけぼりを喰らったファヴォリたちは呆気にとられたが、やがて我に返りその後を慌てて追いかけた。

 川沿いをずっと走って、森を離れ少し岩が目立つ更地に出ると、徐々に独特の匂いが漂ってきた。

そのまま進んでいくと、立ち止まる紡の姿をようやく捉える。

 無言で立ち尽くす紡と並んでみると、白い湯気をもうもうと立たせた温泉が目の前に広がっていた。


「こんなところに温泉があるなんて……」


 ファヴォリが感嘆の溜息をついた。


「ね! 入ろ!」


 見つけた当の本人である紡は歓喜の声を上げて提案した。


「入るなら二人で入りなさい。私はリーヴルとここで待っているわ」


 はしゃぐ紡とは対照的にルナは心底興味なさそうにそっけなく答えた。


「えールナも入ろうよー」

「私は球体関節人形だからお風呂なんて必要ないの」

「こんな時だけその話持ち出さないのー」

「いやよ、絶対嫌」


 そういうなりルナは従者であるリーヴルを盾にするように後ろに隠れ、顔だけ覗かせて反論を続けた。


「私が入らないって云ったら入らないわよ」

「もー頑固なんだからー」

「そうですよ、せっかくだしみんなで入りましょ?」


 見かねたファヴォリも紡の援護のために口を出す。

 口でいくら説得してもかたくなに頷かないルナにしびれを切らせた紡は、今なおリーヴルの後ろに隠れて抵抗するルナを力づくで引っ張り出した。

 諦めること無く入らない、と幼児のように駄々を捏ねるルナを紡とファヴォリの二人掛かりで押さえつける。


「んじゃ、リーヴル、見張りよろしくね!」

「承りました」


 リーヴルに見張りを命じると、彼は返事一つで承諾した。

 それを確認した二人はそのまま腕の中で暴れるルナつれて茂みの方へと身を隠した。


「まぁ流石に水着くらいは着ておいた方がいいよね」


 そう云って紡が指を鳴らすと彼女とルナの身体を包む服が光に包まれ、水着へと姿を変えた。

 紡のは胸元を三段のフリルで覆われたトップスにショート丈のパンツスタイル。ルナは紺色のスクール水着で、関節部分の球体が露わになる。


「へー本当に球体関節なんだね、いつも長袖だったから初めて見たよ」

「魔法で見えないようにしていたのに貴女に上書きされたせいよ。それに着替えくらい自分でできるわ、貴女の趣味にはついていけないし」


 ぶつぶつと文句を垂れ流しながらルナが指を鳴らすと、今度は白いワンピースタイプのものに変化した。勿論肘や膝と云った関節部分は人間のそれと変わらない滑らかに繋がっている。

 ファヴォリもいつも通りフードを目深にかぶって、その中にパレオタイプの水着を身に着けていた。


「よーし、温泉に入るぞー!」


 拳を天につき上げた紡はそのまま走り出して一番乗りで温泉に浸かった。

 それに続いてファヴォリと、ファヴォリに手を引かれたルナもつま先からゆっくりと身を沈めた。


「ふぁー……気持ちいい…」


 とろけた表情で肩まで浸かった紡が気持ちよさそうに手足を伸ばす。


「まさかこんなところに温泉があるなんて思ってもいませんでした」

「ねー! 今この瞬間だけこの世界作ったやつ褒めてもいいかな。……ところでファヴォリってさ」


 紡がファヴォリの身体を眺めて言葉をつづける。


「着やせするタイプ? 主に胸のあたり」

「なっ……ななっ! 急に何云い出すんですかっ!」


 バッと両手でその豊満で白い両の胸を隠しながらわずかに後ずさるが、当の紡はそんなのお構いなしにファヴォリににじり寄り、水着越しにそれを下から重さを堪能し始めた。形のよい果実は紡の手に合わせて柔らかく崩れ、紡の手にしっとりと馴染んだ。


「おぉ……これは…」

「やぁ……やめてくださいってば! 怒りますよっ」

「いひゃいー! いひゃいよふぁふぉりー! もう手でてゆ! ふぉめん! ふぉめんっふぇ!」


 怒る、と云いながら紡の右頬をつねりあげて抵抗するファヴォリに観念した紡は両手をホールドアップして降参する。

 それを見たファヴォリも手を離してもう、と少しだけふくれっ面を見せた。


「本当に紡は失礼な人ですね、急に人の……その、む、胸を触るなんて」

「スキンシップの一環だと思ってほしいな」

「そんなスキンシップあったとしても私にも適応すると思わないでください!」

「もーそんなに怒らないでもいいじゃん!」

「怒りますよ! 折角気持ちよく温泉を楽しんでいたのに」

「あはは、それは、うん、ごめんね」


 紡が素直に謝罪の言葉を口にしたことに、ファヴォリは目をパチクリさせた。


「あ、え……あの、はい、私も、少し云い過ぎましたね、ごめんなさい」

「まったく、貴方たちは何処にいても騒がしいんだから」


 微笑むファヴォリの横でルナが溜息交じりに悪態をつくが、その声色は何処かこのじゃれあいを楽しんでいる様子でもあった。

 ぱしゃり、とルナは自分の腕にお湯をかけた。陶器の肌がお湯をはじいて丸い水滴となって滴る。

 そう云えば近々あの子たちと温泉旅行に行こうと話が決まっていたけれど……向こうもこっちと同じように時間が経っているのかしら。私がいないことに不便を感じていないかしら。カそれとも、またあの時のように私がいないことすら気付いていないのかしら。もしそうなら、少し寂しいわね。

 沈んだ気分とともに身体を縁の岩に預ける。硬い岩の感触がより一層ルナの心を抉るようだった。


「浮かない顔だね、ルナ。また彼らのこと考えてるの?」


 ふと、ルナをのぞき込む紡の顔が彼女の視界一杯に映りこんだ。


「ルナが彼らのこと考えてるときはすぐわかるね」

「そんなこと一言も云っていないでしょ」

「だからそれが云ってるようなもんだってば。ルナがそういう顔する時はだいたい彼らのこと考えてるときだよね、心配?」

「……えぇそうね、またブレフみたいなやつに手を出されていないかは気になるわ」

「そだね。でも多分大丈夫だよ」


 大丈夫、と紡は念を押した。

 いったい何を根拠にそんな簡単に大丈夫と云えるのかしら。

 ルナは呆れを通り越して尊敬の念さえ抱いた。


「だってほら、あの子たちだよ? それに何より秘密兵器がいるじゃん」

「秘密兵器、ね。本人が聞いたらそれは無い、の一言で突っぱねられるわよ」


 ここでようやく強張っていたルナの表情が和らぐ。それを見た紡もファヴォリもつられて笑顔になった。


「そうね……向こうには秘密兵器がいるけれど、だからと云って絶対的な安心が保障されている訳では無いわ」

 そう云ってルナは立ち上がった。


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