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少女たちの箱庭遊戯  作者: ひおり
19/23

少女たちの箱庭遊戯Ⅳ 魔女狩りの魔女3

評価とかブクマありがとうございます。

このペースで更新すると来年まるまる使う予感がするので、そのうちペースを上げようと思っています、よろしければお付き合いください。

「リーヴル、戻っているかしら?」

 ルナが拠点のドアを開けると同時に尋ねるが、彼女の従者が出迎えることは無かった。

 代わりにクランがルナの頭を撫で回して迎える。

 クランに驚いたリュミが、さっとルナの後ろに隠れた。

「残念じゃったのう、お前さんの優秀な従者はまだ帰っとらん」

「だからって何故貴方がまだ此処にいるの? それと頭を撫でないで頂戴って何時も云っているわ!」

 クランの腕を鬱陶しそうに払いのけ、乱れた髪を直すルナは、紡の隣の椅子に座っている見慣れない魔女を訝しそうに眺めた。

「誰かしら、其奴(そいつ)

「あっ! そうそう、ルナに紹介するね、この子は繰乃(くれない)()(こと)。私の友だちだよ」

「友だちって……。其奴(そいつ)の魔力、この世界を構築している魔女の一人じゃないかしら」

「うん、でも私の友だちだよ!」

 あくまで深理(みこと)を友だちと云い張る紡を前に、眩暈を覚えながらもルナは諦めのため息を吐いた。

「してルナよ、お前さんこそ後ろのドールは何者じゃ」

 今度はクランがリュミに興味を示し尋ねる。

 紡もリュミに興味を持ったのか、椅子から降りてクランの隣でリュミの様子を眺める。

 一方リュミは、相変わらずルナの後ろからチラチラとクランたちの様子を伺っている。

 ルナが前に出るように促すと、ようやく顔を見せ、スカートの裾をつまんでお辞儀をした。

「えと…あの……りゅ、リュミエールと云いますの……。リュミって…よ、呼んでほしいの……ッ」

 それだけ云うと、リュミはまたルナの後ろに隠れてしまった。

「そうかお前さんが。ティアと逢った時はまだ素体じゃったがこうも変わるとはのう」

「えっ何なに? ルナの…友だち?」

 紡はクランの話についていけず、思わずルナに尋ねる。

 ルナは首を横に振って、少し思い悩んだ後口を開いた。

「この子は私と同じ球体関節人形で私の妹よ」

「へー、ルナの妹なんだ、可愛いね! 私は紡。ルナの友だちだよ、よろしくね。リュミ」

「よ、よろしくお願いしますの……」

 リュミと紡が少しだけ打ち解けて内心安堵したルナは、ふと背後に気配を感じて振り返った。

開けっ放しのドアのその先に二人の人影。

 紡もそれに気付き、顔を上げるや否一目散に人影に駆け寄った。

「ファヴォリーーっ」

 紡の駆け寄った先にはファヴォリとリーヴルの姿があった。

 紡はファヴォリに思いっきり抱きついた。

 突然の出来事に若干戸惑いながらも、再会できたことにファヴォリの頬も緩む。

「良かった、無事だったんだね!」

「はい、その、紡も無事みたいで何よりです」

 森を出たあと、紡の使い魔である蝶から魔女狩りの話を聞いてからファヴォリはずっと紡たちの安否が気になって仕方なかったので、こうして紡に触れられて初めて安心できた。

 しかしそのあとすぐ、ハッとして紡から離れて頭を下げた。

「あ、あの……先ほどはあんな酷いこと云ってごめんなさい。その…私……」

「私の方こそごめんね」

 ファヴォリが口籠っていると、紡の方も謝罪の言葉を口にしたので、ファヴォリは驚いて思わず顔を上げた。

 目の前に立つ紡はいつになく真面目な表情で真っ直ぐファヴォリを見つめている。

「私も、ファヴォリにいっぱい心配かけちゃってごめんなさい。もう絶対、無茶もファヴォリに心配もかけないから……また一緒にいて欲しいな」

「わっ、私の方こそ、あの、言葉足らずで……。私も、紡と一緒にいたいですっ」

 お互い自分の思いを伝えられ、どちらからともなく顔を綻ばせた。

「えへへ、あのね、レモネード作ったの! ファヴォリたちの分もあるんだよ~」

 そう云って紡はファヴォリとリーヴルの手を引いて家の中へと引き入れ、二人を座らせるなりキッチンへと姿を消した。

「相変わらず嵐みたいに騒がしいわね」

 ルナがクッキーを齧りながら溜息交じりにぼやいた。

 リーヴルが「紅茶をお淹れしましょうか?」と尋ねると、ルナは縦に頷いた。

 それを確認したリーヴルはすぐにキッチンへと足を運び、茶葉を入れている缶の蓋を開けた。

 間も無く紡が二人分のレモネードを持ってキッチンから姿を見せた。

 そこからやや遅れて、今度はリーヴルがルナの紅茶を持って出てきた。

「あら、ありがと」

 リーヴルの淹れたミルクティーを一口飲んでルナは礼を述べた。

 口の中に広がる心地よい甘さにホッと一息つく。

 テーブルを挟んで向かい側では、紡と()(こと)とファヴォリがじゃれあっているのを、時々クランが構ったり、リュミがあうあうとなんとか会話に入ろうとしていたりととても賑やかだった。

「あの子のこと、有難うね。黒猫も間に合ったみたいで良かったわ」

「僕はルナの命令に従っただけです。礼には及びません」

 そこまで云うとリーヴルは視線を下げながら恐る恐るルナに尋ねた。

「その……僕はもう必要無いのでしょうか」

 リーヴルの問いかけにルナはティーカップを置いて、呆れたような、それでもどこか安堵したような視線で彼を見つめた。

「貴方この世界に来てすぐの時私に云ったわよね。私の事守らせてって。約束を破るなんて貴方らしくないわ。それに私は借りていたものを返しただけよ」

 その方が戦いやすいでしょ? と付け加えて、ルナは再紅茶に手を伸ばした。

 お気遣いいただきありがとうございます。とリーヴルは恭しく頭を下げると、ルナはため息を紅茶と一緒に流し込んだ。

「さて、貴女、深理って云ったわね」

 ルナが深理に声をかけると、深理は警戒した様子でルナの方を見た。

「別に取って食おうなんて思ってないわ。貴女に聞きたいことが山ほどあるだけよ」

 そう云ってルナは空になったティーカップをソーサーに置いて、改めて深理をまっすぐ見やる。

 紡とファヴォリも座り直し、立っていたリュミも空気を読んでルナの隣に慌てて腰かけた。

 リーヴルはルナの後ろに立ち、クランは組んだ足を崩すことなくゆったりと座っている。

 ルナと対面する位置にいる深理は、僅かに緊張した面持ちだった。

「さて、まず確認なのだけれど、貴女はこの世界を構築している六人のうちの一人で間違いないのよね」

「半分正解。正確には世界をイチから構築したわけじゃないらしいけれど」

 あんまり詳しくはわからない、と深理が断りを入れる。ルナは顎に手を当て深理の言葉の真意をくみ取ろうとしたが、それより先にクランが口を開いた。

「つまりお前さんらは『維持』が主だと云うことかのう」

 クランの言葉に深理はこくりと頷いた。

「嗚呼、確かにそう云った方がしっくりくるわね、あたしたちが集められた時には既にこの箱庭世界の骨組みはあったの。あたしたちはそれに魔力を少しずつ与えることと、魔女狩りを行うことを条件に彼――リデルと契約したの」

 深理の話に出てきたリデルと云う人物が、恐らくすべての黒幕だろう。そう考えたルナはわずかに目を細めた。

「んん? てことはこの世界は深理たちの他にも別のだれかの手によって造られたってこと?」

「そういうこと。確か……そうだ、夢の世界って云ってたっけ」

「ゆめのせかい?」

 聞きなれない単語に紡が首を傾げたので、クランが補足説明を入れた。

「人間が夢を見るとき、例えば空を飛ぶ夢じゃとか空想の生き物が出てきたりだとか、奴らの言葉を借りるなら『現実離れした』夢を見ることが多いらしいのう。お前さんらは元々人間じゃったから心当たりはあるじゃろう」

 クランの言葉に深理と紡は縦にうなずいた。

「元々人間も魔力を持ち合わせておるが、其れ以上に反魔素、即ち魔力を無効にする素質の方が圧倒的に大きい。しかし、だ、眠っておる間、反魔素が無力化され、反対に魔力が強くなる。故に夢の中なら何でも可能と云うわけじゃな」

「話が脱線しているわ。要は夢の世界其れ自体が強力な魔力を持つの。そんな世界を使えば、膨大な魔力を使ってイチから造る必要は無いし、維持するのにも特別魔力が必要になるわけでも無いのよ。だからこれだけの規模の世界を構築することも、魔女や魔導士を閉じ込めることもできているのね」

「んーちょっと難しい……。でも夢の世界がすごいってことはわかったよ!」

 紡の元気な答えに、クランは満足そうにそうか、そうか、と頷いた。

「あれ? じゃあじいじとルナの話だと、このアリス探しゲームが終わるまで、誰かがずっと眠っているってこと?」

 紡の質問に、ルナが恐らくね、と頷く。

「こことは別の空間にいる誰かの夢の世界。なら好都合だわ」

「ん? あっそっか! ルナの明日手市と同じだね、この世界よりおっきい世界があるから壊れても平気なんだ」

「あら、貴女にしては理解が早いじゃない」

「えへへ~、ルナに褒められたー!」

「その記憶力を少しでも勉学の方に回してほしいものね」

「それは云わないで!」

 ルナと紡が繰り広げる茶番の横で、リーヴルだけが神妙な面持ちで何か考え事をしていた。それに気づいたファヴォリがどうかしたんですか? と尋ねると、リーヴルは顔をあげて口を開いた。

「いえ、少々新たな問題が生じるような気がしまして」

「問題、ですか?」

「はい。当初クラン様はこの世界を構築する魔女、魔導士を倒してしまえばバランスが崩れてしまうとおっしゃっていましたね」

「よく覚えておるな、さすがリーヴルじゃ」

「ありがとうございます。ルナはそれらを考慮し、ティア様に器を依頼したのですよね」

「えぇ、それがこの子――リュミよ。それの何が問題なのかしら」

 ルナがたずねると、リーヴルは首を横に振ってそうではない、と返した。

「ルナの案も、ティア様のお作りになられたリュミ様も何一つ不備はございません。しかし、鍵を見つけこの世界から脱出する際、夢見人になんら影響が無いとは云いきれないのではないかと思います」

「成程な、確かにお前さんの云うことは一理あるだろう」

 リーヴルの仮説にクランも納得して頷いた。

「最悪世界の主が何等かの理由で外から世界を壊しかねん。どっち道のんびりしてる暇は無さそうじゃな」

「あら、だったらそれより先にこの世界から出ればいいだけの事よ。まぁこの世界の枠組みとかはこの際後回しで問題ないわ。それよりリデルってやつの事、貴女が知っている限りで良いから教えて頂戴」

「あいつは自分のことを時空の魔導士って名乗ってた。あたしを魔女にする代わりに妹を探すのを手伝ってほしいって云ってきたの」

「妹?」

「そう、妹の名前はアリスって云ってたハズよ」

 ――どうして世の兄たちは妹のことになると周りが見えなくなるのかしら。

 ルナはふと、自分の世界にいる彼の事を思い浮かべた。彼もまた、可愛い妹のためなら軍隊一つ動かしかねない程度の俗にいうシスコンだが、リデルと云う魔導士もまた彼に負けず劣らずのブラコンっぷりらしい。

「ルナの周りのお兄様方だけだと思いますよ」

 ルナの心中を察したリーヴルがぼそっと呟く。

「妹さんのお名前がアリスってことはアリス探しゲームは比喩でも何でもないってことですね」

「そうね、おかげである程度鍵に関する情報も得られたわ」

 ファヴォリの気づきにルナも同意する。

「アリス……あいつを探すなら蝶を探すと良いわよ」

「ちょうちょ?」

「そ。アイツは胡蝶の魔女だからか知らないけれど、アイツの周りや通った後なんかには薄い羽の蝶々が飛んでるの」

「あれ、ちょ、ちょっと待って。鍵のアリスは奇跡の魔女じゃないの?」

 紡の質問に、深理は呆れた声で答えた。

「それは世間がそう呼んでるだけ。アイツの本当の二つ名は胡蝶の魔女よ」

「つまり、〈奇跡の魔女〉を探しているから、〈胡蝶の魔女〉であるアリスを見つけられていないと云うことですか?」

 ファヴォリの回答に深理は縦に頷いた。そして、話のややこしさに頭がこんがらがっている紡を無視して先を続けた。

「あとは死体を好む、或いは死体に好まれるなんて誰かが云ってたわね」

「随分と悪趣味な奴ね……、云い出した奴もそのアリスって子も」

深いため息を吐いたルナは一度思考の海に潜り込んだ。

――一度、今までの話を整理してみましょう。

この世界は誰かの夢に介入して創られた世界だと云うこと。なるほど、確かに時空の魔導士なら夢空間に手を出すなんて造作も無いかもしれないわね。

そして次にその時空の魔導士――リデルのこと。目的は妹を探すことのようだけれど、其れにしてはやっていることの規模が大き過ぎるわ。よっぽどの馬鹿なのか、はたまた行き過ぎたシスコンってところね。まぁこの際リデルのことはどうでもいいわ。見つけたらとっちめるだけだもの。

最後に鍵――アリスのことね。

これに関しては輪郭が見えそうで見えない。未だに霧の中を彷徨っているような感覚。

胡蝶の魔女・アリスの歩んだあとには蝶と死体。

これがわかったところで結局私たちはアリスの後を追うことしかできないわね。

ふぅ、と一息ついて思考の海から這い上がる。

「はいはーい! 私いいこと思いついたよ」

 突如紡が挙手と共に元気な声を上げた。

「もうこの際リデルに逢いに行くのはどう? リデルだったら妹の事、私たちよりよく知ってると思うし」

「どうやって逢いに行くつもり? リデルだって目撃情報がないのよ」

「……私知ってるわよ」

 ぼそっと深理がつぶやくと、一斉に彼女に視線が集まる。

 あまりヒトに注目されることに慣れていないのか、深理はやや挙動不審になりながらも言葉をつづける。

「あの……塔、見えるでしょ? 古城みたいなあそこの地下にずっと引きこもってるわよ。妹を見つけたいとか云ってるくせに自分は何にもしないの」

「さすが深理!」

 紡が隣に座る深理に抱き着く。

 深理はうっとおしそうに紡を払いのけようとするが、その表情はまんざらでもない様子だった。

「……まぁ、無駄足にならないなら良いんじゃないかしら」

「よーっし、じゃあさっそく出掛けよ!」



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