少女たちの箱庭遊戯Ⅲ 厄災の魔女2
大体この辺が一年前くらいに書いた部分だと思います。私の中では完結しているのに、まだⅢだというのも変な感じがしますね。
森の中を当てもなくずんずん突き進んでいく紡はぶつぶつと文句を吐き続けていた。
「もう、ファヴォリったらなんなのさ。別に私は平気だもん、ちょっとだけびっくりしただけだし。ていうか魄灰姫が悪いんだよ、なんか急に冷たくなるし」
紡がブツブツ文句を垂れ流しながら森の小道を大股で歩いていると、前方でワインレッドの髪を耳の上で二つに結ったツインテールスタイルをした、紡と同じくらいの背丈の少女が何やら辺りを見回しながら歩いてくるのが見えた。
「どしたの? 何か探し物?」
紡が声をかけると、少女は過剰なほどに肩を震わせて驚く。
「あっ、驚かせちゃってごめんね、何か探しているんだったら私も手伝おうか? 私は紅泉紡だよ」
紡がにっこり笑いかけると、少女は警戒しながらも口を開く。
「……深理よ、繰乃深理。その…ヒトを探してるの。白い猫を頭に乗せた女の子見てない?」
紡がふるふると首を横に振ると、深理と名乗った少女は、そう。と呟いてため息を吐いたが、気を取り直すとじゃあね。と云って踵を返す。
紡はそんな深理の手を両手で捕まえた。
「ねね、私も手伝うよ、人探し」
「はぁ?」
「だってこういうのは一人より二人のほうが見つけやすいじゃん!」
「べ、別に平気だし」
深理が紡に掴まれている腕を振り払おうとするので、紡は慌てて更に付け加えた。
「あっあとね、深理とお話ししたいんだ」
「いや、もっと意味わからないんだけれど」
深理が呆れた視線を紡に送ると、紡はそんなの御構い無しに更に嬉しそうに続けた。
「初めてなんだ。元々人間だった魔女と逢うの」
深理は驚いて紡をまじまじと見つめた。深理から見れば紡は正真正銘の魔女にしか映らなかったので、自分と同じ元人間には到底感じられなかった。
「なんかね、元々魔力を持っていたヒトと最初は魔力を持っていなかった人ってこう、なんていうのかな、魔力の質? が違うんだ。本当に些細な違いなんだけれどね」
「そんな話、聞いたこと無いわよ」
「うーんそうかぁ。でも本当だよ?」
屈託なく笑う紡を見て深理は脱力する。そして、改めて紡に背を向けて歩き出す。
そんな深理の背中を、紡は寂しそうに黙って見ていた。
「……勝手にすれば」
少し歩いて深理は立ち止まり、顔を向けないままそうぶっきらぼうに云い放った。
それを聞いた紡の顔にみるみるうちに笑顔が広がり、小走りで深理の横に並んだ。
「こら! くっつかないで、歩きにくいでしょっ」
「だいじょーぶだよ、私は歩きにくくないもん」
「私が! 歩きにくいの!」
すっかり仲が良くなった二人は、紡はが一方的にじゃれながら森の奥へと当てもなく歩いていた。
「ところで深理は魔女に成った時のこと覚えてる?」
「まぁ……本当に最近だから…」
深理の発言に、今度は紡が驚く番だった。
「じゃあ魔女に成ってすぐここに連れてこられちゃったってこと?」
「ん……そうなるわね。まぁ仲間……みたいなのはいるし…今は逸れてるけれど。だから別に困ってはないわよ」
「へえぇ。じゃあ早く見つけないとね! きっと向こうも困っているだろうし」
「それはないわ」
深理はピシャリと否定したが、紡の表情を見て慌てて言葉を付け足した。
「あ、いや、自由人だから、アイツ」
「そっかー。深理がいない間にどっかふらふらして襲われたら大変だね」
「そう……ね」
歯切れの悪い返しをする深理だったが、紡は特に気にすることなく周囲を見渡しながら歩き続けた。
それから他愛の無い世間話に花を咲かせていた二人は、世界さえ異なれば放課後の女子高生のようだった。
「あんたはここに来る前何処にいたの?」
ずっと紡から話題提供をしていたが、この時初めて深理から質問を投げかけた。
紡はそれがなんだか嬉しくて笑顔で答える。
「んとね、明日手市って云う小さな世界だよ。私を救ってくれたヒトの創った世界でね、そこの柏井学園っていう学校にいたの」
「ふぅん、じゃああんたも学生なわけ?」
「うん、今はえーっと高校三年生として通ってるよ」
「へぇ、じゃああたしと同い年なのね」
意外そうな声で深理が呟く。
今度は紡から質問する番だった。
「深理は学校で何してたの?」
「……まぁ色々…。あんまり、行ってなかったけれど」
自嘲気味に笑った深理の顔に影が差す。
言葉の意味を聞き返そうとした時、ある樹の前で深理は足を止めた。つられて紡も足を止めて顔を上げると、樹の上で、ふわふわな桃色の髪に白く丸い生物を乗せた幼い少女が気持ちよさそうに寝息を立てている姿があった。
「ちょっとステラ! 探したわよ!」
声が届くように口元に手を当てて深理が叫ぶと、ステラと呼ばれた少女は眠そうに目を開けた。
「……みーちゃん」
深理が(みこと)降りてきなさい、と指示すると、ステラはふわふわと空中を浮遊しながら降りてきた。
「この子が探してた子?」
「ん……そうよ。ほらステラ、行くわよ」
「…みーちゃんおはよ……」
会話の噛み合わないステラに目頭を押さえつつも、深理はありがと。とそっけなくお礼を云ってステラを連れて元来た道を帰って行った。
そんな二人の姿が見えなくなってから、紡は何処へ行こうと思案し、直感で脇に逸れた道を選んで歩き始めた。
♰
「深理とまた会えるかなぁ」
紡はどんどん脇道にそれながら深理のことを思い出していた。
彼女との出会いがもっと別の形だったら、もっと仲良くなれたかな。とそんなifばかりを考える。
――こういうのはきっとルナだったら思い通りなんだろうなぁ。
「あーあ、こんな早くお別れになるならもっと話しておけばよかった」
鬱屈とする気分を払しょくするように大きく伸びをすると、脇腹のあたりに鈍い痛みが走り蹲る。
ふと、頭の中でぐるぐると何度もあの時の光景が紡の脳内を埋め尽くす。炎の魔導士である征人と氷の魔導士の祈人との戦い。眼前に迫る炎と氷、剣。痛み、熱、冷たさ、薄れゆく意識。
ルナの指摘通りだった。正確には記憶にある中で瀕死の重傷を負ったのもあの時が初めてだった。
それまで紡は死ぬことは怖いと思わなかった。死ぬときは死ぬ。そう割り切っていた。
そして自分の浅はかさを思い知らされた。痛かった。苦しかった。辛かった。これから先、ルナが死ぬまで自分はあと何度この感覚を味わうのだろうか。そう思うと普段能天気な紡も流石に思うものはあった。
「別に…怖くないもん……平気だもん」
誰に云うでも無く、自分に云い聞かせるように呟く声に反応したのか、茂みで何かが動く音が鼓膜を振動し、紡はバッと顔を上げた。
バキバキと木の枝を爪楊枝を折るようにいとも簡単に踏み潰したそれは化け物か怪物の呼び名が相応しい形容をしていた。
黒く長い体毛に全身を覆われた熊にも似たそれはギロりと禍々しく紅い両の目で紡を注視する。その目に射抜かれ紡の肩がビクリと揺れる。
――なにあれ? 今まであんなのいなかったよ?
わけがわからず立ちつくす紡だったが、すぐに我に返ってふるふると首を振り、思考を切り替える。
そんなことどうでもいい。今自分が目の前の怪物から向けられているのは敵意以外の何物でも無いことを紡は肌で感じ取っていた。
そして彼女の中で敵意に対抗する術は一つ、真っ向から迎え撃つことだった。
大丈夫、怖く無い。
自分にそう云い聞かせて紡は魄灰姫を手にした。
そこから一歩踏み出そうとしたが、身体が云う事きかない。足元から氷漬けにされたようにピクリとも動かせず、さぁっと体温が下がっていくのを感じた。
戦わなきゃまた痛い目に合う。
頭では分かっていても更に深いその部分が戦う事を拒否していた。
「っ……!」
ついに脱力し、紡は膝から崩れ落ちる。
――このままじゃダメなの、お願い、云うこと聞いて。
紡の願いもむなしく、ただ地面を握りしめる力しか残っていない。
そんな紡のことなど御構い無しに化け物は標的を紡に合わせる。
腹の底に響く重低音の唸り声と共に紡に向かって飛び込もうと、屈伸した脚の力で地を蹴り上げて跳ね上がる。
太陽を背にした怪物影が紡に迫り、紡思わず硬く瞳を閉じた。
――助けて、海軍さん。
刹那、ザシュッと切り裂かれる音が紡の鼓膜を震わせる。閉じた瞳を恐る恐る開くと、横に真っ二つにされた怪物と、怪物の隙間から漏れた光を浴びて輝くルチルクオーツ色の長い髪が揺れていた。
その後ろ姿は自分の記憶に朧げに残る彼そのものだった。
「かい、ぐんさん……」
真っ二つに引き裂かれた怪物は弾けて、粒子となり跡形もなく姿を消した。
怪物の姿が無くなったのを確認し、彼は振り向いてそっと膝をつき紡と目の高さを合わせる。そして、さらりと彼女の頭を優しく撫でた。
「もう大丈夫じゃよ、紡」
そう云って紡を安心させるように彼――クランは優しく微笑んだ。
「あ……じいじ…。なんでここにいるの?」
「なぁに、たまたま通りかかっただけじゃよ。お前さんこそ一人かのう、ルナやファヴォリはどうした」
クランが先に立ち上がって紡に手を差し出す。それに助けられて紡もようやく立ち上がり、そう云えば。とでもいうような顔でクランに説明を始める。
「もうファヴォリとは一緒にいないことにしたの、私一人でこの世界から出るんだ!」
ファヴォリは口うるさいしね、と話す紡はクランが事の一部始終を見ていたことには気付いていなかったらしい。そんな紡を見てクランは薄く笑って云った。
「ところで紡よ、何故そのような大喧嘩をしよったんじゃ。お前さんらは仲睦まじく見えていたがのう」
「だってファヴォリがうるさいんだもん。私は…へーきなのにさ、ファヴォリがさ、もっと自分のこと大事にしろって。云われなくてもわかってるし、私には私のやり方があるし口出ししないで欲しいしさ」
「感心せんな」
目を鋭く細めたクランがいつもよりずっと低い声で紡を否定した。
いつもと様子が異なるクランを前に紡は俯いて視線を逸らした。
「己を粗末にするようなモノなんぞ、いずれより大切なモノ失って後悔するのがオチじゃよ」
「それは……ん…ごめんなさい……」
紡はクランと視線を合わせることこそしなかったが、掠れた声でそう呟いた。
それを聞いたクランは表情を緩め、紡の頭をぽんぽんと叩き、「分かれば良い」と笑って云った。
紡は上目でクランの様子を伺っていたが、やがてクランにつられて紡も少しだけ笑って見せた。
「さて、お前さんはこれからどうするつもりでおるのだ?」
「ん……ファヴォリに謝りたいけれどまだちょっと顔合わせ辛いしなぁ…もうちょっとこの辺にいようかな」
「そうかそうか、お前さんがそうしたいならそうすれば良いじゃろう。ところで紡よ、お前さん強くなりたいとは思わんか?」
突然のクランの言葉に紡は首を傾げた。
「私が?」
「左様。お前さんの使う剣術は海神流剣術じゃろう。あれは奥が深い。お前さんがその気なら儂が手解きしてやろう」
「本当!?」
これでも師範だからのう、と云うクランの提案に紡は目を輝かせた。
紡が使う海神流剣術は習得が極めて困難と云われる剣術の一つで、紡自身基礎を少しだけ教わった程度であとは殆ど独学状態だったため、誰か――ましてや師範に教えを受けられるのは紡としてはまたと無い機会だった。
しかし、ふと紡はまた顔を俯かせてしまった。
「どうした、紡よ」
クランに声をかけられ、紡は力なく笑う。
「えへへ、教えてもらいたいって気持ちはすっごいあるんだけれどね、ちょっと、ほんのちょっとだけね、その、怖いんだ、刀を持つの……」
「ほぅ」
クランは目を僅かに細めて紡に話の先を促させた。
「んとね、私、ルナの眷属なんだ。だから戦う時だってちょっとくらいなら無茶できたし、死んだって平気だって思ってたんだ。でもね、ちょっと前戦った時にすっごい怪我しちゃってね、それから…ちょっと、本当にちょっとだけだよ? 怖かったり、するんだ……」
震える身体を無理やり押さえつけるように右手で左腕を握りしめる紡だったが、声の震えを止めることはできず、若干涙声になっていた。
「それで良い」
「え?」
紡はクランの云っている言葉の意味がわからずキョトンと小首を傾げた。
そんな紡など御構い無しにクランは言葉を続ける。
「お前さんは死ぬ恐怖を知らない、死を知らない。それこそがお前さんの致命的な弱点じゃよ。死を恐れよ、畏怖せい」
紡はまるで年の離れた祖父から話を聞かされている気分になり、困ったように眉間にしわを寄せた。
「じいじの話、難しいよ……」
「はっはっは、お前さんは頭で考えるより体感した方が理解できるタイプだったな」
そう云ってクランは足元に落ちている木の枝を一本拾い上げた。そしてそれをすっとひと撫ですると、 木の枝はたちまち立派な木刀へと姿を変えた。
木刀を紡に投げ渡し、クランは踵を返して歩き出し、紡は慌ててその後を追った。
「どこ行くの? じいじ」
小走りでクランに追いついた紡が尋ねる。
「あんな道端だと狭くてかなわん。もっと広い場所の方が動きやすいじゃろう。例えば」
そこで言葉を区切ったクランの歩みが止まる。隣にいた紡は感嘆の声を漏らした。
そこは丁度広場のように開けた空間となっており、広さは十分にあった。
「この辺ならそれなりに動けるじゃろう」
「わー広ーいー!」
紡は駆け出して広場の真ん中でくるくる回ってはしゃぐ。
そんな紡を、クランは愛おしそうに見ていた。
「これこれ、あまりはしゃぐでは無いぞ」
くるくると子犬のようにはしゃぐ紡をクランは言葉だけで制する。
「さて、お前さん海神流については何処まで知っておるのだ?」
クランが尋ねると紡はうーんと唸ってから自信なさげに答えた。
「えっと、昔話だと海の神様の加護を受けることで使える、選ばれた者しか使えない剣術で、使う刀に左右されることなくあらゆるモノを斬ることができる剣術……だっけ?」
「うむ、正解だ。そして一番難しいとされている基本を抑えることが出来なければ使うことの出来ぬ剣術でのう、さしずめお前さんは少し齧った程度だろう」
「うん、ちょっとだけ海軍さんに教えてもらってからずっと独りで修行してた」
独りで、と云う言葉にクランの穏やかな水面に波を立てる。
普段から天真爛漫で明るい彼女の影は想像以上に暗く深いものなのかもしれない。
しかし、クランの心境など御構い無しに紡は純粋な澄みきった瞳を彼に向ける。
――杞憂、か。
クランは考えることをやめ、紡に向き直る。
「木刀なら少し痛い程度であろう。基礎を身につけるには其れで充分じゃよ」
「じいじ頭いいね!」
紡は更に目を輝かせて抱えていた木刀を持ち直し、二度、三度素振りをして手に馴染ませる。
「大切なことは精神を波一つ立たぬ大海原のように静かに保つことしかし、その水面下では荒々しい海流のように激しい闘争心を失ってはならぬ」
「なにそれ難しいよー!」
「百聞は一見に如かず、お前さんの頭の中の絵をそのまま身体に降ろしてみい。先ずはそこからじゃ」
――心を穏やかに、でも荒々しく。
紡は目を閉じて深く深呼吸をした。
しん、と当たりが静まり返り、紡の意識から周りの風景が排斥される。緑が消え、真っ白な空間に一人でいるような、そんな感覚に陥る。
――久しぶりだな、この気持ち。
いつも誰かが、とりわけルナやクラスの子が側にいた紡は一人でいる感覚を忘れていたが、今ハッキリと思い出す。ぽっかりと自分では埋めがたい穴が空いたような感覚に、僅かに身体が強張り、緊張の糸が張られる。
それでも、今は隣にクランが居る。頭がそれを理解した瞬間、ぐうぅと腹の虫が全ての色を取り戻させる。
「……じいじ」
「くくっ、どうした?」
紡が目を開けると笑いをこらえるクランの姿があった。
「お腹、空いた……」
そういえば今日はお昼がまだだったことに紡は気付いた。
今日は本来ならファヴォリのお手製パスタのハズだったが、喧嘩して家を飛び出してきたので食事もままならない状態だった。
――今頃ルナとファヴォリとリーヴルでご飯食べてるのかなぁ。
「そうか、そうか。腹が減ってはなんとやらだ。ルナのように洒落た茶会は催せんが一服するかのう」
そう云ってクランが指を鳴らすと四畳程のおき畳と緑茶、茶菓子の羊羹が姿を現した。
クランはブーツを脱ぐと真ん中にどっかり胡座を掻いて座り込んだ。紡も履いていた下駄を脱ぎクランの隣に正座する。
「じいじは羊羹好きなんだね」
紡がパクりと艶やかに光を反射させる羊羹を口に放り込む。
「お前さんは羊羹好きなのか?」
湯気立つ緑茶を啜ったクランが紡に尋ねる。紡はんー、と少し考えてから羊羹を飲み込んで口を開く。
「私より海軍さんの方が羊羹好きだったよ。あ、海軍さんって云うのはね、私を育ててくれた人なの。もう死んじゃったんだけれど、生きてたらじいじにも紹介したかったなぁ」
そう云って紡は両手で持っていた猫の描かれた湯飲みを膝に降ろし、ふと遠くを見つめた。
その横顔を敢えて見ることなくクランはさらに話を進める。
「その海軍さんとやらはどんな奴であったのか?」
「海軍さんはね、強くて優しくて、ちょっと不思議な人だった。私、うんとちっちゃい時にお父さんとお母さんが死んじゃってね、独りで泣いていたんだけれど、その時海軍さんと初めて会ったんだ」
話は、紡が三歳の頃まで遡る。
当時紡が住んでいた地域では大規模な戦争の最中だった。
そんな中、紡の両親は不運なことに空襲に巻き込まれて息絶えた。或いは幸運なことに紡だけが生き残った。
三歳児が正しい状況を理解できるわけ無かったが、それでも最愛の両親がもういないという事は当時の紡にも理解できた。理解できたから、泣いていた。
そんな彼女を、運良くたまたまその周辺を散策していた『海軍さん』が見つけたと云う。
「海軍さんは私にいろんな事教えてくれたんだ。私の誕生日を決めてくれたし、剣術もそう。このマフラーもね、最初は海軍さんが身につけていたんだけれど初めて会った時に私にくれたんだ。だけれどね、私が十六歳の誕生日の日、敵軍に囲まれてそのまま乗っていた船と沈んだって聞かされたの」
紡はそっと首に巻いている白いマフラーに触れた。
「お前さんは、海軍さんとやらが居ないのは寂しく思うのか?」
クランの質問に紡はふるふると首を横に振って笑顔で答える。
「最初は寂しかったよ、海軍さんまで居なくなっちゃうし。でも今はルナと……ファヴォリ、それにじいじがいるから、寂しくないよ」
紡の答えにクランは僅かに目を細めて、そうか。とだけ返した。




