白と黒
それにしても
この人間一体何処から落ちてきた?
辺りに高い建物はないし、夜間であるから車通りも少ない
木々はあってもさほど高くはない
ヘリや飛行機が飛んでいる様子もない
もはやヘリや飛行機から準備無しに飛ぶなんて事も考えられないけど
叫び方からや動揺っぷりからして自死ってことはないだろう
夜空を一瞥してみる、
やはり普通なら考えられない事だろうが
この人間は広い目で見て空から降って来たなんて事は考えられないだろうか?
下から見た限り偃月の方から落ちてきたように見えたのだが....
しかし、ファンタジーじゃあるまいし
現実世界であり得ない話ではあるか...
と、まぁくだらない推測はさておき
こいつ動かな過ぎやしないか!?
先程から全く微動だにしないのだが!
まさか死んでいるのか!?
気絶だったらいいけ…いや良くないな
救急車を呼ばないといけない
あぁーもう!
本当はこのまま見ない振りして帰りたい位だ
流石に人でなしすぎるのでしないが!
警察に追われてるとまでは言わないが良くは思われていないのだからこんな場面を見られたら誤解されるに決まってる
でも……仕方ないな...
ほっとくわけにもいかないので公衆電話から救急車を呼ぶ事に決めた。
すると「痛…たぁあ……ぁ」
今にも消えいそうな声が聞えてきた。
一応生きているらしい
ホッと胸を撫で下ろした。
生きていてよかった
今にも死にそうな声をしているが
すぐに救急車を呼んで
直ぐにこの場から立ち去ろう。
うつ伏せのまま小さく呻いてる人間のそばに近づき『大丈夫ですか?今救急車を呼びます』宥めるように背中を擦ると、あることに気がついた
よく見るとこの人間、浴衣を着ていた
こんな時期に浴衣は気が早すぎないか?
髪は若干長めだが身体つきからしてどうやら男性らしい
品の良さそうな紺色の麻の浴衣に白百合の模様が書かれていて
紅色の帯に交差されてるように黄革の細いベルトが巻かれている
浴衣にベルト…流行ってるのか?
物珍しさにじっくり眺めていると男は「うぅ…う」呻きながら寝返りをうった
苦しそうだ
すると寝返りで見えてなかった反対側の腰のベルトに何か刺さっているのが見えた
これって
番傘と扇?
今時こんなものを持ち歩く奴がいるのか
昔の和の国の人間みたいだ
なんか変わってるって…この男!!!
番傘や扇に気を取られていると浴衣がはだけてしまっているのに気がつくのが遅れた。先ほどの寝返りのせいだろう胸板と原色ピンクのボクサーパンツががっつり見えていた。しかも泥だらけの裸足ときたもんだ。
変な…不思議な人だなぁと思いながら着ていたコートを脱ぎ上に被せてやった
パンツ丸出しじゃあ目のやり場に困る。
それにまだ三月だ
春だとしても夜は冷える時期だからな
夜にこんな羽織なしで外に出るには些か寒いのではないだろうかとは思うけど....まぁいいかさっさと救急車を呼んでくるとしよう
大分時間がたってしまったからな
面倒なことに立ち会ってしまったものだ
コートはあげたようなものだし、連絡したら私はそのまま帰ってしまおう
体を反転させ公園の出入り口にある公衆電話に向けて歩き出すと
『おぎゃっ!!!!』
突然片足を捕まれた。