青と黄
『狭いけど』
靴を脱ぎ捨て中に入ると血に汚れたブラウスを脱ぎ応接間の木に掛けた。
明日洗濯をしよう
「ありがとう〜お邪魔するわねぇ…ちょ!脱ぐの早くない!?」
ご丁寧に靴を揃えてる間キャミソール姿になっている私を見て男は驚いたような声を上げた。
「はしたないわよ~ほらぁ着た着た」そう言って私があげたコートを胸に押し付けてきた。
せっかく脱いだのにまた着ろって?
「そういえばお礼言い忘れてたわね、コート掛けてくれてありがとう助かったわ名残は優しいのねぇ」
一瞬でも見捨てようとした相手だがな
結局拾ってしまったわけだが
ふわふわ笑う男に『はいはい』適当に返事をして受け流すと
受け取ったコートをソファー上に掛けた
「着ないの!?」
着てよ!と強要する男に私はめんどくさそうに眉間に皺を寄せる
『これは下着な訳ではない』とふんぞり返ると
男は呆れたように顔を片手で覆うと「いや、見ればわかるわよ貴女は女の子なんだから少しはワタシに気を使ってほしいわね!」
ワタシだって男なんだから!と頬を膨らませた
...言っちゃ悪いが男に見えない
それに気を使うと言っても今まで男に気を使う事なんてなかったしな、キャミソールでガタガタ言う人間もいなかったし
この男は細かい事を気にするタイプらしい
適当な私だ、これから先上手くやっていけるか心配だ
やれやれ、掛けてあったブラウスに手を伸ばす
血が冷えて冷たい...
早く部屋に入って脱ぎたいな
くしゅんとクシャミをすると壁に寄りかかり物珍しそうに部屋を見渡す男の背を見つめた
...改めて見ても奇抜な格好をしているよな
彼方の人間は皆こうなのだろうか
本当昔の和の国の人間のようだ
まぁこの男が腰に差しているのは刀ではなく傘だがな
まじまじと観察している私の視線をよそに男は
「綺麗にしてるのねぇ」きゃっきゃと楽しそうに部屋を物色していた
物珍しそうに飾ってある写真や雑貨を眺めている
『写真以外は全て父の趣味だった。
雑貨や置物は全て旅先で購入してきたものらしい、物集めが趣味の人だったからな、欲しいものがあればやる』
「...えっ?」
男は目を真ん丸くすると「...いいわよ」首を横に振った
『そうか、まぁ客が来るからなこの部屋だけは気を使って掃除をしているつもりなんだ』そうは言っても私がしている訳じゃないんだけど
「なるほどねぇ…きゃあ!」突然短い悲鳴が聞こえた
『どうかしたか?』
「家の中の所々に木が生えてるわ!」慌てたようにすがり付いてくる
驚きすぎだ、確かに変わってはいるけれどね『この部屋は何故か木がすぐ壁を突き破って生えてくるんだよ、ブラウス掛かってる木だってそうだろ?そこのベンチだって生えてきた木をそのまま利用してるんだよ』
男の後ろに生えている木のベンチを指差す
これ以上伸びないように切断はされているがな
「…変わってるのね」信じられないものを見たような顔をしてベンチに触れた。
そうだろうな、何故父はこんな家をラボにしてたんだか、こんな木の監獄のような場所
まともに実験さえも出来やしないじゃないか
『そんな事よりそろそろ部屋に案内する
私は最近寝不足が続いてるからな、案内し終わったらそこで解散だ。後は好きにしてくれちなみにトイレは一階だ風呂は朝でいいだろう?その時着替えを渡そう』
「えぇ、大丈夫よありがとね」
確か元助手のがまだ残っていたはずだ
後で部屋を探してみるとしよう
男を二階に連れて行く途中また後ろから悲鳴が聞こえたが無視をして階段を上がりきると手前から二番目の部屋へ連れていった。
恐らくここが一番綺麗な部屋だろ
他の部屋は大分散らかってるからな
『ここだ。』ドアを開けてやると
「きゃあああああ!!!」
今まで一番けたたましい声が家中に鳴り響いた。